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短編小説 「はぁ〜い僕アルフォ」


薄い霧が立ち込める天国の門をくぐったのは、いつのことだっただろう。雲の上の世界は静かで穏やかだが、どうにも退屈だった。はぁ〜い僕アルフォ。青い肌を掻きながら、ため息をついた。

 「現世に戻りたいなあ」

かすれた声が空気に溶けていく。そんなとき、天使のファーシーがふわりと現れた。純白の羽を広げ、優雅に微笑む彼を見て、ある考えが浮かんだんだ。

夜が訪れ、天使たちが眠りについた頃、そっとファーシーの羽を根元からごっそり盗んだ。それを手に、出入局へと向かう。巨大な雲の門の前で、眉間にシワを寄せた役人に羽を差し出す。

 「これと引き換えに、現世に戻してもらえない?」

役人は目を細めて羽を眺め、無言でうなずいた。足元の雲がぐるぐると回りはじめて、ぽっかりと穴が空いた。

 「ありがとう」

そう言い残し、僕はその穴へと落ちていった。

風が耳元で叫び、体がぐんぐんと落ちていく。目を閉じると、遠い記憶の森の匂いが蘇る。

突然、ドンッという衝撃とともに、硬い何かの上に落ちた。目を開けると、薄暗い部屋の中。周囲には古びた書物や大釜やガラス管が散らばっている。床には粉々になった骨が散乱していた。

 「成功した!ついに蘇生の魔術が!」

興奮した声が響き、振り向くと年老いたじいさんがこちらを見ていた。白い髭を揺らし、赤いテンガロンハットを被り、目を輝かせている。

 「はぁ〜い僕アルフォ……」状況が飲み込めないままそうあいさつすると、じいさんは大きな手で僕を抱きしめた。

 「おお我が友よ!」

 「僕たち友達だっけ?」

突然の抱擁に反応して僕も彼を抱きしめた。その温もりに懐かしさを感じた。しかし、じいさんの表情が一瞬で変わる。

 「おや、ずいぶんと臭うな……」彼は鼻をつまみ、少し離れた。

 「ごめん。天国ではお風呂に入らなくて……」

確かに臭う。天国では臭いなんか気にならなかったけど、今、僕は臭い。じいさんは苦笑いしながら、棚から赤い服とパンツを取り出した。

 「まずはこれを着なさい。話はそれからだ」

渡された服は深紅のベルベットでできており、手触りが柔らかい。裸のままだった自分に気づき、慌ててそれを身に着ける。

 「ありがとう」

服を着ると、体がぽかぽかと暖かくなった。じいさんは満足そうにうなずき、椅子に腰掛けた。

 「さあ、君がどんなエルフか教えてくれ」

部屋の中は静まり返り、遠くの暖炉で薪がはぜる音がする。

 「エルフはエルフだよ。ただキャンディを食べてキャンディを排泄してそれを人間たちに売る。それがエルフさ」

じいさんは目を見開いてその白い髭を撫で、すぐに興味深そうに目を輝かせ、ポケットから赤い包みのキャンディを出した。

 「わぁ〜すごいね。そのキャンディ、ゴードンのだよ。彼は腕の肛門からキャンディを排泄するんだ」

じいさんはキャンディをぎゅっと握りしめ、暖炉に振り向いてキャンディを投げた。

 「わぁー彼のキャンディ高いのに」

それからコップにコーヒーを注ぎ、それを口にふくんで床に吐き捨てた。

 「なるほど」

  「あなたは何者?さっき蘇生がとか言ってたけど」

彼は床に散らばった骨の破片を見つめ、静かにため息をついた。

 「私は魔術師だ。世間は嘘つきと呼んでいるがな。尻で粉々になっておるのは、私の友人でありエルフのボンガの頭蓋骨だ」

 「あぁどうりで尻になにか刺さってると思ってたけど、きっとエルフの耳だね。悪いことしちゃったね」

 「いいさ、これで私も魔術師だとみんなに証明できる。改めて、よろしく。私はラミスだ」

 「僕はアルフォ。あいさつはこれで二回目だね」

こうして僕は、現世で新たな物語を始めることになった。




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