見出し画像

短編小説 「きっと、そうなんだ」


薄曇りの空が教室の窓を透かして、外の冷えた空気が窓越しに感じる。冬休み前日の放課後、ストーブの暖気に包まれながら、私は自分の席にかじりついていた。隣の男子たちが期末の成績についてあれこれ騒ぎ、後ろの席の女の子たちは新しいリップの色を試した話で盛り上がる。年末が近づくと、クラスには休み前の浮き立つような雰囲気が漂っていた。

 「明日から休みか」とつぶやく、隣でテストを眺めていたクラスメイトが「そうだよ、もう今年は学校来ないんだぜ」と笑う。その声を聞き流しながら、私は教室の後方に目をやる。

そこにいる彼女――同じクラスの女子が、いつもと違う髪色でこちらを見ていた。金髪のストレート、まるで海外ドラマに出てくる人物のようで、照明の下でさらさらと輝いている。

いつもは黒髪だった彼女が、どうして冬休みを前に髪を染めたのか。理由なんてどうでもいい。でも、その瞬間、胸の奥がきゅっと締まる感じがした。髪の色が違うだけなのに、目が離せなくなっている自分に気づく。

帰りのホームルームが終わると、一斉に席を立つクラスメイトたち。彼女も友人たちと笑いながら廊下へ出て行った。その背中を見送ると、私の呼吸がほんの少し乱れる。何かがいつもと違う。私が今まで抱いていた「普通」の感覚が、すっと揺らいでいる。

帰り道、冷たい風が頬をかすめる。マフラーを巻き直し、ポケットに手を突っ込む。街は夕暮れの色に染まり、行き交う人々がそれぞれの家へと急いでいる。私は目的もなく遠回りをして、自宅のドアを開ける頃にはすっかり暗くなっていた。

自分の部屋に入り、コートをハンガーにかけて、机の上に並んだ雑誌を手に取る。女性ファッション誌と男性ファッション誌が混ざって置かれている。本当はどっちが好きなのか、自分でもよくわからなかった。でも、彼女を見た瞬間、私の中で何かが決まったような気がした。

机の明かりをつけ、ページをめくる。華やかな女性モデルたちが並ぶ紙面に目を奪われ、ふと自分が女の子に惹かれている。特別な感情が、いま確かに芽生えている。

男性モデルが載ったページに視線を移してみる。格好いいと思うのかもしれない、でも心が躍る感じはしない。さっきの金髪の彼女を思い浮かべるだけで、頬が熱くなるのに。

マフラーを巻いたまま、ベッドに腰掛けて深呼吸をする。外からは軽く風の音が聞こえ、遠くで車のライトが窓のカーテンに映りこんでいる。私が今感じているこの気持ちは、決して間違いではないはずだ。

きっと、そうなんだ。私は男が好きだと「常識的」に思っていた。でも、その「常識」なんてあっさり崩れるのだと知った。彼女の金髪を思い出すだけで、胸が震える。

冬休みが始まる。彼女とは休み中に会う約束なんてしていない。でも、その金髪と笑顔をまた見たい。そんな気持ちを胸に抱きながら、私はスマートフォンを手に取り、LINEを眺めた。

 「きっと、そうなんだ」自分の声が少しだけ震えた気がした。

でも、もう迷いはない。私は私の気持ちを信じるだけだ。




時間を割いてくれてありがとうございました。
もしよかったら、コメント&スキ、フォローお願いします。

この記事が参加している募集