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短編小説 「年賀状がほしいです」
幅一〇センチ、高さ一四.八センチ、重さ三.一グラムの紙が毎年数億枚が一月一日に各家庭の郵便ポストに配達される。普段あまり見ない自転車を漕ぐ学生の郵便配達員も必死にその紙を配達する。なん枚もなん枚も……。
きっとやる気のない学生バイトはこう思っているに違いない「あとなん枚配達すればいいんだよ。今時、年賀状なんかいらないだろ」と。私も学生の頃、正月に郵便局でバイトしたことあるからその気持ちはわかる。まぁ私は暖かい郵便局で仕分けの仕事だったが、似たような気持ちは抱いた。
その学生バイトにひと言いうなら、私は年賀状を出してもいない、私に送ってくる人もいない。だからその年賀状をドブ川に捨ててこい。バレやしないさ、たぶん、きっと……。
年賀状がほしいです。
昨今、どこの国も二酸化炭素削減に躍起になっています。郵便配達員が配達に使うバイクの燃料はガソリンですよね。エコの観点から配達やめませんか。
「大丈夫です。最近は電動バイクを使っていますのでエコです」と、言うかもしれまんが、その電気は核融合かなにかで発電したものですか。化石燃料なら一緒じゃないか……。
年賀状がほしいです。
どうやら毎年毎年、年賀状の発行枚数が右肩下がりのようです。理由はいろいろあります。郵便料金の値上げ。SNSの普及。世代間の価値観の違い。理由はさまざまです。郵便局は年賀状離れに躍起になっています。利益がありません。売り上げが上がりません。手紙を出してください。年賀状を出してください。局員に年賀状ノルマを与えないでください。
年賀状がほしいです。
郵便配達のバイクのエンジン音が聞こえる。ウィンカーの音と荷箱を開ける独特の音も何回も聞こえてくる。ポストに投函された時に蓋が勢いよく戻る音も聞こえてくる。あの音は隣の佐藤さん家のポストの音だ。蓋を手で開けて投函するひと手間かかるタイプのポスト。あ、あの音は向かいの山田さん家のポストの音だ。白く色褪せたプラスチックの上から投函するタイプのポストだ……。
年賀状がほしいです。
送る相手がいません。めんどくさいので上司に送りません。キモいと思われたくないので先輩にも後輩にも送りません。友達に送るにも住所を知りません。住所を聞きたいですが友達がいません。恋人に送りたいですが送る前に別れました。最後の砦、毎年家族に年賀状を送っても返ってきません。詰みました……。
年賀状がほしいです。
どうやら年賀状には抽選で当たるお年玉が付いているようです。当たったことがありません。当然です。年賀状をもらったことがありません。一度だけ親に送った年賀状で切ってシートが当たったそつです。報告はLINEでした。年賀状はきません。手紙もきません……。
年賀状がほしいです。
一度でいいから見てみたい、年賀状が入ったポスト。
年賀状がほしいです。
メガネ屋の広告の年賀状はもうこりごりです。
送ってくるなら、せめて一月一日に届くようにしてください。
年賀状がほしいです。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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