見出し画像

短編小説 「終わりのエルフ」


深い森の奥に、木々に囲まれた小さな家がぽつんと立っている。その家には、長い耳を持つエルフのアルフォが住んでいた。かつて、豚と恋をし、豚になり、そしてエルフに戻るという不思議な経験をしてきた。

静かな朝、窓から差し込む柔らかな陽光が部屋を照らし、鳥たちのさえずりが遠くから聞こえてくる。アルフォはゆっくりとベッドから起き上がり、深呼吸をした。

 「今日はいい天気だな」

彼は微笑みながら、日課である庭の花に水をやるため、杖を手にしおぼつかない足取りで外へ出た。色とりどりの花々が風に揺れ、甘い香りを漂わせている。蝶がひらひらと舞い、蜂が忙しそうに飛び回っていた。

作業を終えた後、アルフォは少し疲れを感じながら家の中に戻った。暖かいお風呂に入って体を休めようと、浴室へと向かう。湯気が立ち込める中、彼はゆっくりと湯船に浸かった。

 「やっぱりお風呂は気持ちいいなあ」

目を閉じてリラックスしていると、過去の思い出が次々と浮かんできた。ブタのポルカとの出会い、冒険の日々、そして様々な出来事。彼の人生は波瀾万丈だったが、振り返るとすべてが愛おしかった。

湯から上がり浴室を出ようとしたその時、足がすべり、バランスを崩してしまった。

 「あっ!」

とっさに手を伸ばすも、掴むものは何もなく、そのまま倒れ込んでしまった。強い衝撃とともに床に横たわるアルフォ。頭に鈍い痛みを感じるも大きな怪我はなさそうだ。

 「まいったな、年は取りたくないものだ」

起き上がろうと試みるが、体に力が入らない。静寂の中、彼は天井を見つめながら静かに息を整えた。

その時、柔らかな光が部屋を包み始めた。眩しさに目を細めると、そこには白い翼を持つ天使が立っていた。金色の髪が光を反射し、穏やかな表情でアルフォを見下ろしている。

 「おいおい、エルフがこんなところで何をしているんだい?」

天使は軽い調子で笑いかける。

 「まさかお風呂で転んで動けなくなるなんて、ブタでも食べたのかい?」

アルフォは苦笑いを浮かべた。

 「悪いが立たせてくれないか」

天使は優しく頷き、手を差し伸べた。

 「さあ、立てるかい?」

その手を取ると、不思議と体が軽くなり、スッと立ち上がることができた。自分の体を見ると、透明で輝いている。天使はにっこりと微笑んだ。

 「君の人生もここで一区切りだね」

アルフォは窓の外に目を向けた。森の木々が黄金色に染まり、空には太陽が輝いてる。

 「長いようで短い人生だったな」

 「でも、充実していたんじゃないかい?」

 「後悔はない」天使はアルフォの肩に手を置き、翼を広げた。

 「それじゃあ、次の場所へ行こうか」

 「君の名前を聞いてもいいかい?」

 「俺の名はファーシー。よろしくな」ファーシーはウインクをしてみせた。

 「ファーシーか」

二人はゆっくりと宙に浮かび上がり、天井をすり抜けて空へと昇っていく。下を見ると、アルフォの家が小さくなっていく。森の上を風が駆け抜ける。

 「これからどこへ向かうんだい?」

 「君が行きたい場所さ」

アルフォは胸の奥に懐かしさと期待を感じた。

 「ありがとう、ファーシー」

 「どういたしまして」

二人は空を抜け、光り輝く道を進んでいく。風が心地よく頬を撫で、遠くから美しい音楽が聞こえてくる。

 「新しい世界か」

アルフォは前を見据え、微笑んだ。彼の心は再び希望で満ちていた。

空には流れ星が一筋、静かに輝きながら消えていった。




時間を割いてくれてありがとうございました。
よかったら、コメント&スキフォローお願いします。

この記事が参加している募集