短編小説 「女の呪縛」
牛乳、成分調整牛乳、乳飲料、いろいろな種類の牛乳や乳製品がその一角に存在してる。それは都会も田舎も関係なくスーパーなら、いや今ならコンビニでさえも乳製品コーナーを設けている。三十年前とあまり変わらない光景ね。
幼い頃、私は母と一緒にスーパーを訪れ、よく買い物を手伝っていた。母が野菜を選んでいる間に私は乳製品コーナーに向かい、牛乳を手に取り母のもとへ戻ってカゴに入れていた。しかし、母は必ず毎回乳製品コーナーに向かい、私が選んだ牛乳が古くないかを確認している。
今では私一人で買い物だ。のんびり気ままに。私のためだけに。
最初の頃そんな事を知らない私は手前からいつもの牛乳を手に取ってカゴに入れていた。普通、特別なことがなければなんでも手前から取る当たり前だし、今ならそれがマナーだ。しかし、母はその事を指摘せずに牛乳を棚に戻して奥から消費期限が長い牛乳を手に取っていた。
その事に気づいたのは祖母が牛乳二本買ってきて、母に消費期限が短いのと長いのが混ざっていると指摘されているの見たからだ。それ以来、私は消費期限が長いのを選んでカゴに入れていたが、母は私のことを信用していないのか毎回乳製品コーナーで私が選んだのが古くないか確認していた。
「ああなんて母なんだ。二日で飲んでしまうのだから古くたっていいじゃないか」と毎回思っていた。だが今やすっかり私も奥から牛乳を選んでしまっている。そんなのは嫌だと頭で思っていても、体はすっかり腰を屈めて腕を伸ばし奥から新しい牛乳を手に取っていた。
母から離れた今でも母の言いつけが、ああ正確には母の態度がヘドロのように頭にまとわりついている。子供の躾で言葉よりも拳で示すほうが効果的だと言うが、私には態度が効果抜群だった。母から口酸っぱく言われることもあった。拳、いや、平手をくらうこともあったけど、どれもたいしたことなかった。ただあの冷たい視線やその嫌味ったらしく人を信用していない態度は今でも頭から離れない。
そうそう思い出したほかにもある。
私と母と祖母でデパートに出かけた時、母が服を買ってくれると言うから、夜も眠らずどんな服がいいか想像していたのに、いざ服選びとなると私が欲しいと言った服は全て却下。母と祖母でぶつぶつ言いながら選んだ、白のストライプ柄のピンクの服を着させられた。まあ確かに選んでいいとは言われてなかったな。今でも母と祖母は私の頭の中でぶつぶつ文句を言いながら服を選んでくれている。頭から消えてほしい。
結婚、結婚、結婚、孫、孫、孫。
一つ思い出せばいくつも思い出す。
母と祖母は親子だけど似ているようですこし違った。まあ当然かもしれないけど。祖母は母と違って多少アバウトな感じがあった。牛乳に関してもそうだし、料理を作る時の調味料の分量は適当だった。母は毎回レシピ本を片手にきっちりと分量を計って料理を作っていた。そのおかげで毎回安定した美味しい料理を食べられていたけど、祖母のアバウト料理も悪くはなかった。
そしてその二人が唯一同じことを思い言うのが「結婚」と「孫」。もちろん私のことだ。
どうして頭から離れてくれないの。どうしてそう私のことを思うの。
お願いだから消えて。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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