『風雲児たち』の参考書
最近読んだ『江戸から見ると1』(田中優子著)に思わず膝を打つ文章がありました。
江戸時代では天皇と将軍、公家と武家が並び立っていて矛盾もせず、異なる相補的な文化を保存し使いこなしていた。何らかの利益に誘導するために仕掛けたデュアルスタンダードではなく、古代から漢字と仮名を共存させてきたように、この風土に暮らす人々が生きる方法としてあったのだ。(中略)歴史についても語り合っている。その基本は「編集的史観」である。これは、国や分野を超えた相互感化を見抜く方法である。それが見えれば「誰が勝ったか」史観ではなくなり、出来事を異なった角度から考えることになる。(『江戸から見ると1』田中優子著「日本問答」より)
複数の角度からものを見ることの大切さと面白さは、みなもと太郎先生のマンガ『風雲児たち』で学びました。明治維新は英雄が一人いたから成し得たのではなく、あまたの人物(=風雲児たち)がより良い世の中を目指して行動した結果である、と。「誰が勝ったか」史観では薩長が作り現代まで続く白黒はっきりつける社会が優れていると思ってしまいますが、一方で多様な意見を取り入れバランスを取ろうとしていた人たちもいた。「青天を衝け」の渋沢栄一、徳川慶喜らがそうですね。
幕末維新を通して多角的に相互感化を読み解いている著作に三谷博先生の『維新史再考』があります。『ワイド版 風雲児たち』8巻の帯で三谷先生が「歴史の研究はこの漫画と競えるかっ、と言いたくなる」と述べていますが、その気概は著作から大いに感じられました。『維新史再考』は『風雲児たち』の最もふさわしい参考書、またその逆でもあります。どちらも何度も読み返して幕末への理解を深めていきたいと思っています。
他にも本棚には『風雲児たち』に影響を受けて集めた本がずらり。幕末を中心に江戸時代だけでもこれだけ多くの物語が紡がれてきたんだなと。別の場所で並行して進む物語、それを読書や「風雲児たび」で感じられるときが歴史好きの自分にとって至福の時間です。