『老子』63章に「報怨以德」という句があるが、前後のつながりが悪いように見えるので、79章に移す説がある。その場合、「恨みを徳で報いるのは、良いことではない」という逆の意味になる。しかし、実は『論語』憲問篇にも「以德報怨」という句がある。
しかし老子は、2章にあるように価値観の相対化が顕著で、正しさもまた絶対視しない。儒家の礼は伝統を正しさの基準とするものだが、老子は38章で、それを形骸化したものとして退けている。だから、「恨みには正しさで報いる」という孔子の言葉を、老子が否定しても不思議ではない。