東京の真ん中で、1人になるということ
東京は、常に人の気配を感じる。
ずっと1人でいるのに、1人になりきれていない。
1人暮らしを始めて3年。
仕事柄ほとんど在宅ワークなので、物理的には常に1人だ。でも、リモートワークで24時間いつでも仕事の連絡がくる。仕事の後は思考を停止したまま見れるSNSに時間を費やしてしまう。SNSでは、妬みや僻みでいつも誰かが小競り合いをしている。自分の部屋は好きだけれど、コロナ禍で公私が混合してしまい、なんだか落ち着かなくなってきた。
「すべてから離れる時間が必要だ」
半ば危機感のような気持ちに駆られ、家を出る時間を作ることにした。自然溢れる場所に行くことも考えたけれど、敢えて東京を選んだ。誰もいないところにいけば自ずと1人になれるけれど、私は東京で1人になる術を見つけたかった。
それからは、四半期に一回有給休暇を取って1泊のホテル滞在をするようになった。
東京で1人になるには、高いところに行けばいい。人の声も、車の音も、何も届かないくらい高いところへ。
持ち物は積読中の本を一冊とノートとペン。15時のチェックイン前に食料を買い込む。ららぽーとのスーパーAOKIでいつもより高いご飯を買い込む。酔っ払うと勿体無いので、お酒は良いものを一本だけ。チェックイン後は早めに大浴場を堪能し、部屋に籠る。スマホは通知をオフにして音楽プレイヤーとしての役割を全うしてもらう。
窓際のソファに寝転び、本を読むことから始める。本の世界に意識を飛ばしていると、たまになんの脈絡もなく現実の自分と繋がることがある。繋がった時は本に栞を挟み、ノートを開く。思ったこと、感じたことを体裁を気にせず書き連ねる。他の雑音を排除して本にだけ向き合っている時にしか味わえない、現実と虚構の狭間を行き来する感覚が好きだ。眠りが浅い時の現実と夢が混同している感覚に近い、曖昧な世界。
本とノートと夜景を行き来しながら、東京の夜に身を投げる。「東京を潜る」ってこんな感覚なのかもしれない。
いつも海側の部屋をとり、夕暮れよりも朝日が眺められるようにしている。、夜よりも早朝の方が1人を感じられることもある。遮るものなく入り込む朝日に顔をしかめながら、東京湾に浮かぶ貨物船と、羽田空港から飛び立つ旅客機、湾岸線に連なる輸送トラックをただ眺める。夜に考えたくなることがあるように、朝には朝の考えるべきことがある。
東京で1人になるのは不思議な感覚だ。学生時代、授業中に眠気と戦っているあの瞬間に近いかもしれない。遠のいていく先生の声と意識。周りにたくさん人がいるのに、自分だけ違う世界に飛ばされているような感覚になるあの感じ。
何かについてちゃんと考えるということは、意外と難しい。今の世界には誘惑と雑音が多すぎる。一つのことに意識を傾けることが難しいからこそ、私は何もないところでほぼ完全に近い1人の時間をつくる。何もないところに行くと孤独に支配されてしまう。東京で1人になるという、“ほぼ1人”状態が一番勝手が良い。
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今年買ってよかったものは「東京で1人になる時間と空間」でした。
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