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読書好きの親子へものすごく勧めたい!「カトリと眠れる石の街」がおもしろいのよ

生まれたときから本の虫。
そう呼ばれて育ったわたしは活字中毒で、読めるものならお菓子の裏書きでもシャンプーの説明でもなんでも、とりあえず読んでしまう。両親もそうだし、わたしの娘たちもそうである。虫一族なんである。

アラサー、いやアラフォー(小声)になったいまでも、本をむさぼるように読む。マンガも読むし映画もみるけれど、やっぱりいちばん好きなのは本。時代小説にファンタジー、ミステリに青春小説、つまりなんでも好きなんである。

で、あるが。で、あるのに!
なんだか年々「心底面白い!!」という読書体験がへってきてしまった。

というのも娘たちを育てていると「想定外の事態」が日常茶飯事だ。「え、なんで?」「え、うそでしょ?」の連続のなかで生きていると、だんだん何事にも動じなくなってくる。
たぶん、いきなり異世界に飛ばされたってわたしは驚かない。あ、今回はそういうパターンね、と落ち着いて対処できる自信がある。もはや、ちょっとやそっとじゃ感情が動かないのだ。

そのうえ、おばさんというのは現実的な生き物である。持ち物に記名するだの、体温を記録するだの、ゴミ出しの分別だの、ちまちましたことを年がら年中やってるわけで、効率的で無駄のない思考になっていくんである。
少年少女がひどい目に遭いながら戦っていると「親は何やってるのよ」と腹が立つし、いい年の女がアホなことやってると「どんな世間知らずよ」と呆れるし、都合のいい展開には「んなアホな」と脱力するし、かといって極端なバッドエンドは「しんどいわ」とげんなりするのだ。

かくして鈍麻するわたしの感性、物語に入りこめなくなってしまったらしい。悲しい。話題の本はあらかた目を通すけれど「うわぁ〜〜〜すごい!」と感激する体験が、めっきり少なくなった。まして、おなじく本の虫である幼い娘たちにも「これ読んでみて!」と手放しで勧められる本は限られている。

前置きが長くなった。「カトリと眠れる石の街」はそんなわたしたち親子でも楽しく読める、とってもめずらしい本だったのである!
装丁に惹かれて手にとったのだけれど、ついついレビューを書いちゃうくらいに面白かった。

作者は東曜太郎先生とおっしゃるらしい。はじめて読むわと思ったら当たり前、講談社児童文学新人賞でのデビュー作だという。うそでしょ〜。おばさん、おののく。

お話の舞台は、19世紀後半のスコットランド、エディンバラだ。剣や魔法の跋扈する世界よりは新しく、大掛かりな機械に支配されるよりは古い、不思議な魅力のある時代を背景に二人の女の子が活躍する。

主人公はカトリ。旧市街の子どもたちのまとめ役、一本筋の通った気持ちのいい少女。貧しい農家から養子にもらわれた彼女は、金物屋の養父母とも気が合い、学校に通いながら店を手伝っている。腕っぷしの強い頼れる男だった養父は、肺がんにおかされやせ衰えた。けれど養母もカトリも悲観しておらず、ただ日々を強く楽しく生きていた。

だが、旧市街に原因不明の奇病、眠り病が流行する。年齢も職業もさまざまな患者たちはいずれも目がうつろになり、どんな治療も効かない。お金持ちの新市街に住む少女リズは、自分の父も感染した眠り病を調べようと旧市街に乗りこんでくる。物語はカトリとリズの眠り病の調査にはじまり、この街に隠された秘密の地下へと続いていく。

カトリは親思いの賢い子で、勝ち気でありながら向こうみずではない。養父母との関係もよく、妙なコンプレックスもない。街の子どもにも大人にも信頼される人柄が垣間見える。すこしばかり世界への憧れを胸に秘めながら、金物屋を継ぐしかない自分の人生をみつめている。

対してリズは、恵まれた暮らしでありながら悶々とした悩みを抱えており、空気を読まず、人間関係の築き方も上手ではない。けれど度胸はあり、鋭い観察眼と知性をもちあわせている。自分の非を認める素直さもある。カトリと行動をともにすることで、変わっていくリズがさりげなく描かれている。

わたしが本書を読み、娘たちもきっと気に入るだろうと思った理由のひとつが、この「さりげなさ」だ。地の文に大人特有の語り、説教くささ、説明っぽさがない。それでいて、ノリが軽すぎて大人にはつらいということもない。整合性がとれており、ご都合主義でもない。地の文が物語の面白さを邪魔しないので、するすると読めてしまう。なのに読みごたえはある。

児童書って、あつかえるテーマがきっと限られているのだと思う。あまりに残虐だったり理不尽だったり、複雑すぎて解釈が難解なものはむかない。けれど単純な勧善懲悪や、大人の訓戒が透けてみえるものはつまらない。むずかしい条件の中、カトリたちは軽やかに「児童書」の枠をとびこえてくる。

そんなわけで、ぜひ読書好きの親子に読んでいただきたいなぁ。9月末に続編が出るらしいので、わたしは久しぶりにワクワク待機しているのであった。


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