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北海の鎧魚「トクビレ」を喰らう!
トクビレを味わい尽くす!
という訳で前回に引き続き八角ことトクビレの調理編に移りたいと思う。
そして文言通り味わい尽くしてやろうと思う。
↓前回。
私自身、トクビレは何回も食べており恐らく新潟で一番トクビレを食べたであろう人間という自負がある。
しかし今回のものは今までのものよりも遙かに身の旨味が強く、脂のノリが凄く間違いなく一番うまいトクビレにぶち当たったと思う。
白身の大トロに名乗りを上げろ。
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解体編では割愛したのだが捌いていると兎に角脂を感じたのだ。
刃を滑らせる度に出刃包丁の腹に白く脂がこびりつき手の温度で溶けた脂肪がポリグローブをテッカテカにしていった。
そして鰭の付け根の小骨をトリミングしていた際に出てきたコレである。↓
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そもそも一番上のフィレも分かる人には分かるのだが身の表面がサメガレイとそっくりである。
なんだこれは。けしからん脂をしおって!お前は獣肉か!おぉん!?
サメガレイやアブラボウズ、クエやアカムツと「白身の大トロ」と呼ばれる魚は数多くいるがトクビレも乱立する白身の大トロ業界に堂々と参入できるポテンシャルがあると言えよう。
なんなら値段や入手のし易さなら最も体験しやすい白身の大トロではないだろうか?
トクビレの刺身。
早速、フィレをそぎ切りにして刺身にする。
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身に差している網目状になっている脂肪分とは裏腹にファーストタッチは非常に淡泊で食感的にも取れたてのイナダやニシンみたくコリコリシコシコしている。
これが噛むほどに濃ッ厚な脂が大潮のように口内に満ちあふれその後から底物らしいクセのある風味とカレイにも似た旨味が追っかけてくる。
ワサビをたっぷりのせて食べるとくどさが緩和される。
トクビレの炙り。
ともするとトクビレの脂の濃厚さを感じられるのは「ガスバーナーで炙る」ではなかろうか?
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軽く表面に火を通すと途端にエビのようにプリムチッといった食感に変化する。
香ばしさによって個性のある香りは無くなってしまうのは惜しいところ。
そして何より笑ってしまったのが炙った際のバットである。
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炙る際には特段、食用油の類いは使用していないのであるがバーナーで火を当てただけでこの量の脂がにじみ出てサクの形に形状を留めてしまっている…。
なんちゅー魚だ…。
ちなみに肝臓も出てきたので肝醤油にした。
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トクビレの肝臓が有用なのは魚好きには有名な話なのだが今回のものは身の方の油分が強すぎて本来の役割の「淡泊な身に肝臓の脂をつけて食べる」から「淡泊な肝臓に身で脂をつけて食べる」と逆転してしまっている。
血抜きはしたのだがどうにも鉄臭さが残ってしまった。
もっと鮮度の高いものを使えば解決するだろうか?
トクビレの丸焼き。
さてトクビレの焼き物といえば開いて調味味噌と合わせて焼いた軍艦焼きが有名だが…。
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個人的には丸焼きをお勧めしたい。
内臓を取り去り水洗いしたトクビレの中に肝臓だけ戻し塩などは振らずそのままグリルや火に放り込んで鰭は表面が焦げるまでじっくりこんがり焼くという実にシンプルなものだ。
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見た目は炭そのものだが身は水分を失っておらずふっくら&しっとりと蒸し焼きになっている。
芳醇で甘い脂と泡雪のような白くて緻密な筋繊維がふわっと解れ塩や醤油を使わずとも抜群に旨い。
この原始的な調理法がどんな焼き魚料理よりも完成しておりどうかこれだけは目を通した読者諸氏にも是非真似してほしいと思う。
トクビレでやるとグリル内で唐揚げを揚げてる音すっから!
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トクビレのアラ汁。
さていよいよ後半だが捌くに当たってで出るのは頭や中骨、骨質板などが出るがこれらからもひじょ〜〜〜〜に良い出汁が出るのだ。
これを炙って味噌汁にしたてる。
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色味は味噌ラーメンだが質感は完ッ全に背脂ラーメンだ。
玉油が浮くだけでなくその下に脂の層が上澄みを形成しており本当に味噌汁か疑ってしまう。脂が凄くて冷めないッ!!アトゥイッ!
立ち上る湯気が既に香ばしく食欲をそそる。一番最初に来るのは言わずもがな濃厚な脂質だ。それを通り過ぎるとエビ味噌を入れていないエビの甲殻っぽい風味の出汁が喉にクーッと来て後味にタイやカサゴの淡泊だけどもしっかりとした白身のうま味が残っていく。
プハァッとため息を付くと既に舌の上や口周りがペットペトになっており以下にゼラチン質にも富んでいるかが分かる。
クッソうめぇ。
トクビレの皮揚げ。
さてここまで身、頭、骨、内臓(肝臓)を食べてきたが最後は凶器さながらの鱗と皮が一体化した外皮の部分を食べて締めようと思う。
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魚食いなら誰もがご存じ「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」にもこの食べ方は載っている。
特に難しい調理は必要としておらず剥きとった皮を油に入れて揚げるというだけである。
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こんなに攻撃的な見た目をしてはいるが非常に軽やかに砕ける。
カリッとした食感を楽しんでいると皮に残る肉やゼラチン質が溶けネトッとした舌に絡みつく感覚も楽しめる。
甲殻類の風味とはよく言われるがホッコクアカエビ(甘エビ)のような華やかさやテナガエビ(川エビ)のような淡水感は無く、一番近いのはクロザコエビ(泥エビ)の殻の風味だ。
それでいて魚のうま味も楽しめて中々に楽しい料理となった。
まとめ。
トクビレはとっても有用な魚。
タイトル通りトクビレを食べ尽くしたわけだが本当に捨てたのは肝臓を除く内臓で骨も味噌汁で二日煮込めばサケの水煮缶同様、噛み砕けるようになった。
あんな見た目をしているものの非常に利用できる部位は多く値段以上に楽しめるのだ。
フードロスが騒がれる昨今だが未、低利用魚問題以外にも「身だけを利用すると魚は全体の重量の半分程しか利用できていない」という話がある。
当たり前じゃんと思われるかもしれないがこれもなかなかに問題でまだまだ利用できる資源を無為にしているという面があるのだ。
そんな中でマイナーでありかつ歩留まりのよいこのトクビレは廃棄する部位が極端に少なくお勧めできる魚種だ。
欠点としては北を中心に寒い季節しか取れないという点だ。
まぁ後はそれを抜きにしても非常に味のよい魚であるというのが一番なんだけどね。
いやぁ、味わい尽くしたネ。
さて次は何の魚を取り上げようか?