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サラダレストランSweetgreenの黒字化の要因と直面する課題
概要:
米国発のファストカジュアルサラダチェーンであるSweetgreenは、2021年の上場以来しばらく赤字が続いていましたが、近年は積極的な改革によって業績が改善し、黒字化(収益性の向上)に向け大きく前進しています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。2023年通年の売上高は前年比24%増の5億8400万ドルに達し(2022年は約4億7000万ドル)、既存店売上も4%増加しました (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)。店舗レベルの利益率向上やコスト削減策により最終損失も大幅に縮小し、2024年には調整後EBITDAがプラス転換する四半期も報告されています (Sweetgreen, Inc. Announces First Quarter 2024 Financial Results | Business Wire) (Sweetgreen, Inc. Announces First Quarter 2024 Financial Results | Business Wire)。以下では、Sweetgreenが黒字化を達成した要因と現在直面する課題について、財務データや経営陣のコメント、業界動向をもとに包括的に分析します。
黒字化を達成した主な要因
コスト削減策と運営効率化の徹底
Sweetgreenは収益改善のために徹底したコスト管理と効率化策を講じました。特に本社・管理部門のスリム化による固定費圧縮が奏功しています。2022年には「不確実な環境下で黒字への道筋を守る」ためとして本社従業員の5%をレイオフし (Sweetgreen lays off 5% of its corporate workforce)、ロサンゼルス本社を小規模オフィスへ移転するなど運営費用の削減を実行しました (Sweetgreen lays off 5% of its corporate workforce)。この結果、2022年時点で計画より20%少ない人員体制に抑え、企業のサポートセンター(本部)コスト約1,080万ドルを2023年には約980万ドルまで削減する方針も示しています (Sweetgreen lays off 5% of its corporate workforce) (Sweetgreen to slow the pace of growth to focus on profitability)。加えて店舗オペレーションの効率化にも注力しました。地域ごとの運営体制を再編成し、各地域にゼネラルマネージャーを置いて権限移譲するとともに、本社との重複業務を縮減しています (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。また、人件費管理の面では、労働集約的な作業プロセスの簡素化(食材準備工程の見直し等)やスタッフのシフト最適化によって必要人員を適正化し、生産性を向上させました (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。例えば、店舗のチームリーダー(ヘッドコーチ)のスケジュール調整を行い、管理業務よりも現場での指揮に時間を割けるようにすることで現場効率を上げています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。加えて2023年には店舗でチップ制度を導入し、人件費上昇圧力に対応しつつスタッフのモチベーション向上とサービス改善を図っています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。原材料の調達面でも、仕入先との関係強化や季節メニューによる柔軟な食材調達で原価率の管理を徹底し、食品廃棄の削減とスケールメリットによる単価引き下げを追求しています(例えば食材費・包装費は売上の28~29%程度で、業界平均の下限に近い水準を維持 (The Economics of a Sweetgreen Salad | Hacker News))。このようなコスト削減と効率化策の積み重ねが、Sweetgreenの損益改善を下支えしました。
価格戦略と収益向上策
積極的な価格戦略も黒字化への大きな原動力となりました。近年のインフレ環境に対応しつつ利益率を高めるため、Sweetgreenは段階的なメニュー価格の引き上げを実施しています。例えば2022年1月に約6%の値上げを行ったほか (Sweetgreen lays off 5% of its corporate workforce)、その後も食材高騰に合わせて価格改定を継続しました。その結果、2022年Q4の既存店売上の伸び率4%のうち6%ポイントは価格上昇によるもので(取引数は2%減) (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)、2023年Q4でも既存店+6%増加の内訳は価格効果+5%、客数・購買ミックスの増加+1%となっています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。このように客単価の向上によって売上を押し上げ、原材料や人件費の上昇分をカバーしました。また収益構造改善策として、新規事業モデルの導入や顧客当たり売上拡大にも取り組んでいます。例えば、企業向けケータリング/デリバリー拠点「Outpost」の展開により法人需要を取り込み、追加の売上源を確保しました。さらにサブスクリプション型ロイヤルティプログラム「Sweetpass+」を導入し、月額10ドルで毎日3ドル割引などの特典を提供することで顧客の購入頻度を高めています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。この施策は一定の増分効果を生み出しており、リピート顧客による売上底上げにつながっています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。価格戦略の巧みな実行と収益機会の拡大が、売上総利益率の改善に寄与し黒字化に貢献しました。
メニュー戦略の強化と健康志向トレンドへの対応
商品ラインナップの拡充とトレンドへの適合も、Sweetgreenの収益向上に大きな役割を果たしています。元々ヘルシー志向のサラダボウルで人気を博した同社は、近年その強みを活かしつつ新商品の導入やメニュー構成の見直しを行いました。特筆すべきは2023年Q4に実施した過去数年で最大規模の新メニュー導入で、新たに「プロテインプレート」のラインを発売したことです (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。味噌グレーズドサーモン、スパイシーファヒータチキン、ホットハニーチキンなど複数の主菜を中心としたプレートメニューを投入し、従来のサラダ中心メニューから幅を広げています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。このプラットフォームはディナー需要の取り込みを狙ったもので、夕食として満足感の高いメニュー構成により夜間の売上拡大に寄与しました (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。経営陣によれば、投入後のプレートメニューは社内予想を上回る好調な滑り出しを見せており、客単価と来店頻度の向上につながっているとのことです(Neman CEOの発言) (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。また季節限定メニューや地元食材を使ったサラダの開発にも継続的に取り組み、健康志向トレンドに敏感な顧客の興味を引き続き惹きつけています。消費者の嗜好が植物由来の食事や高たんぱく・低カロリー志向に移る中で、Sweetgreenは「プラントフォワード」(野菜中心)のメニューを強化し、ヘルシー志向層の支持を獲得してきました (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)。実際、ヘルシー志向の高まりも追い風となり、2023年には景気減速でファストカジュアル業態全体の来店客数が落ち込む中でSweetgreenの店舗訪問客数は前年を上回る増加https://amzn.to/432HpKIを見せています (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)。以上のようなメニュー戦略の充実と健康トレンドへの的確な対応が、新規顧客の取り込みと顧客ロイヤルティ向上をもたらし、売上と収益性の向上に直結しました。
テクノロジー活用(モバイルオーダー&キッチンの自動化)
デジタル技術の活用はSweetgreenの成長戦略の中核であり、黒字化の重要な推進力となっています。まず、モバイルオーダーやデジタル決済の浸透によって顧客利便性とオペレーション効率を高めました。2024年現在、総売上のうち約59%がデジタル経由で、その中でも自社運営のモバイルアプリ/サイト経由が33%を占めるなど、非常に高いデジタル比率を誇ります (Sweetgreen, Inc. Announces First Quarter 2024 Financial Results | Business Wire)。モバイル注文によりピーク時の行列負担を軽減し、回転率を上げるとともに、注文データの蓄積による需要予測の高度化やパーソナライズドマーケティングも可能にしています。さらに、キッチンの自動化投資にも先進的に取り組んでいます。2021年にロボットキッチンのスタートアップであるSpyce社を買収し、その技術を活かした自動調理ライン「Infinite Kitchen」を開発・導入しました (Sweetgreen's bet on technology pays off with 10% higher checks at ...)。2023年にまず2店舗でテスト導入したところ、通常店舗に比べ客単価が10%増加し、食材の計量精度向上によるロス削減で店舗利益率が約7%ポイント改善するなど有望な成果が得られています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。Neman CEOも「自動キッチンはオペレーションにもたらすメリットが大きく、郊外店舗でも十分機能することを確認できた」と述べており、テスト店舗では労務コストの削減や注文精度向上による売上捕捉など多面的な効果が出ていると報告しています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine) (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。2024年には新規出店する店舗のうち7店舗でInfinite Kitchenを採用し、既存店3~4店も自動化改修する計画です (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine) (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。将来的には5年以内に全店舗へ自動化キッチンを展開するビジョンも示されており(投資家向け説明) (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)、省人化とスピードアップによる生産性向上でさらなる利益率改善が期待されています。加えて、2023年にはドライブスルー型ピックアップレーン「Sweetlane」付き店舗も初導入し、デジタル注文客がそのまま車で商品を受け取れる仕組みを整えました。郊外の試験店舗(イリノイ州)ではピックアップ利用者の75%がドライブスルーを選択し、同市場平均のピックアップ客単価より20%高い消費が確認されており、年商300万ドル超の高い収益が見込まれています (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine) (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。さらに店舗のフロント(対面注文カウンター)を撤廃しデジタル注文専用とした実験店舗も首都ワシントンD.C.で運営し、従来店からの移転後に売上高が30%増加するといった成果を収めています (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine) (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。こうしたIT・テクノロジーの活用は、人件費やリードタイムの削減によるコスト面の恩恵と顧客体験向上による売上面の恩恵を同時にもたらし、Sweetgreenの黒字化達成に大きく寄与しました。
マーケティング戦略(ブランド強化とプロモーション施策)
Sweetgreenはマーケティング面の戦略によってブランド価値を高め、固定ファンの拡大と新規顧客の獲得を実現しました。元々ミレニアル世代を中心にカルト的な人気を誇るブランドでしたが、上場後はさらに全国ブランドとしての地位確立に向けた施策を展開しています。まずブランドの核となるミッションの強調です。同社は「リアルフードで人々をつなぐ」という使命を掲げており、サステナビリティ(持続可能性)や地域コミュニティとの関わりを打ち出したストーリーテリングでブランドイメージを向上させました。環境に配慮した包装や店内設計、地元農家との提携などを積極的に発信し、単なるサラダチェーンに留まらないライフスタイルブランドとして認知されています。またデジタルマーケティングとSNSをフル活用し、若年層へのリーチを拡大しました。InstagramやTikTokなどで視覚的に訴求力のある商品写真や動画コンテンツを発信し、健康的でおしゃれな食習慣の象徴としてのポジショニングを確立しました。さらに、新メニュー発売時には著名シェフやインフルエンサーとのコラボレーション企画を行い話題性を創出しています。プロモーション施策では、期間限定キャンペーンやデリバリー無料サービス等で新規顧客のお試し利用を促す一方、上述のロイヤリティプログラム(Sweetpass)によって既存顧客の囲い込みと頻度向上を図りました (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。加えて、経営陣は2024年に向けてマーケティング投資を増強する方針も示しており、新規顧客層の開拓や客数増加に向けてさらなる促進策を展開しています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。このような統合的マーケティング戦略によるブランド力・集客力の向上が、売上成長と黒字化に貢献したのは言うまでもありません。
店舗拡大・最適化戦略の転換
出店戦略の見直しもSweetgreenの損益改善に大きな影響を与えました。かつては積極的な店舗拡大による成長路線を歩んでいましたが、近年は成長速度の調整と既存店の最適化に舵を切っています。2022年には39店舗を新規開店し計186店舗まで拡大しましたが、その反動で本部コストや立ち上げ費用が膨らみ赤字幅が拡大しました (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine) (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。この反省から、経営陣は「利益重視」の戦略転換を図り、出店ペースを見直しています。2023年の新規出店数は前年より減少し、さらに2024年は新規23~27店舗(前年実績35店舗)に抑える計画です (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。出店ペースを意図的にスローダウンさせる理由は、前述の自動化技術を店舗モデルに組み込む準備期間とするためであり、拡大の勢いを落とす代わりに各店舗の収益性向上を優先しています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。実際、2023年末時点の店舗数は221店となり前年から+35店の増加でしたが、平均ユニット売上高(AUV)は約290万ドルで前年と同水準を維持できています (Sweetgreen, Inc. Announces First Quarter 2024 Financial Results | Business Wire)。これは拡大による既存店Kannibalization(自社競合)を抑え、出店戦略を慎重に最適化した成果と言えます。また不採算店舗の閉鎖や移転も適宜行っています。例として、ワシントンD.C.では収益性の低かった店舗を閉じて数ブロック離れた場所にデジタル専用店舗としてリロケーションしたところ、売上が先述の通り30%向上しています (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。このように立地ポートフォリオの見直しと業態転換によって各店舗の収益ポテンシャルを最大化する取り組みを進めています。さらに地理的戦略として、郊外マーケットへの進出を加速させた点も重要です。パンデミック後のリモートワーク普及で都市中心部のランチ需要が伸び悩む中、Sweetgreenはサブurbs(郊外)での店舗網拡大に注力し、2022年時点で都市部対郊外の店舗比を50:50としました (Sweetgreen lays off 5% of its corporate workforce)。郊外店は家族層や在宅勤務者の需要を取り込み、都市部店舗の落ち込みを補っています。これら店舗戦略の転換と最適化により、新規出店による成長と既存店の収益改善のバランスを取り、黒字化への道筋を確実なものにしました。
消費者嗜好の変化への柔軟な対応
上記の各戦略の根底には、消費者の嗜好変化を的確に捉えた対応がありました。現代の消費者は以前にも増して健康志向・環境志向が強くなっており、Sweetgreenはそのニーズに合致した価値提案を磨いてきました。前述の通り植物由来の健康的メニューや高品質な生鮮食材の提供は、健康とウェルネスを優先する層に強くアピールしています (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)。特にCOVID-19パンデミック以降、人々の健康意識が高まった追い風も受け、低カロリーで栄養バランスの良い食事を外食で手軽に取れるブランドとして支持を集めました。さらに利便性やデジタル体験を重視する嗜好にも対応しています。モバイル注文やデリバリー対応を拡充し、忙しい顧客がスムーズに健康食を入手できるようにしました。都市部で顕著になったデリバリー需要には、社内デリバリーチームや外部サービスとの連携で応え、オフィスへの大量注文ニーズには前述のOutpostサービスで対処しています。加えて、消費者の外食における体験価値志向に応じて店舗デザインや接客も洗練させました。店内は清潔感とモダンさを両立し、スタッフはフレンドリーでミッションに共感した人材を配置することで「食事の質」だけでなく「ブランドとの接触体験」自体に価値を感じてもらえるよう努めています。環境配慮やサステナビリティへの関心にも応えるため、廃棄物削減やカーボンフットプリントの公表など透明性ある取り組みも行っています。これらすべてが総合的に評価され、Sweetgreenは健康志向消費ブームの代表的ブランドとして市場での地位を確立しました。消費者ニーズの変化を先取りし柔軟に戦略へ反映できたことが、同社の黒字化達成を支える重要な要因となっています。
Sweetgreenが直面する課題
Sweetgreenは順調に業績を改善していますが、持続的な成長と収益性確保のために乗り越えるべき課題もいくつか抱えています。
激化する競争環境
ファストカジュアル業態におけるヘルシー志向レストラン間の競争が激化している点は、大きなチャレンジです。Sweetgreenと同様にカスタムサラダやグレインボウルを提供する競合チェーンが増えており、市場シェアを巡る争いが熾烈です。代表的な競合には、東海岸を中心に展開するChoptやJust Salad、地中海風ヘルシーボウルで急成長中のCavaなどが挙げられます。特にCavaは2023年にIPOを果たし、同年Q4の売上高1億7550万ドル(前年比+52.5%)とSweetgreenを上回る規模に成長しており (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)、2023年通年の売上も約7億1710万ドルとSweetgreenを凌駕しています (Sweetgreen and Cava outperform much of the fast-casual category)。Cavaは既にレストランレベルでの高い利益率を達成しつつあり、投資家からは「第二のSweetgreen」として注目を浴びる存在です。このように競争優位の維持が課題となる中、Sweetgreenは差別化要因を磨き続ける必要があります。具体的にはブランドの独自性(ミッションやサステナビリティの訴求)、メニューの絶え間ない革新性、顧客ロイヤルティの強化などで他社との差をつける戦略が不可欠です。また、従来は直接の競合ではなかった大手チェーンも健康メニューを拡充しており、Panera BreadやChipotleなどがサラダ・ボウル領域で存在感を増す可能性もあります。こうした状況下でSweetgreenが成長を続けるには、競争環境に適応した柔軟な戦略と絶え間ない顧客価値向上の取り組みが求められます。
原材料コストの変動リスク
食材費の高騰と変動も収益性への大きなリスクです。Sweetgreenの提供するメニューは新鮮な野菜や果物、品質の良いタンパク源に依存しており、食材市況の影響を受けやすい構造です。近年のインフレ環境やサプライチェーンの混乱により、例えばレタスやアボカドなど主要野菜の価格が急騰した時期もあり、原価率を圧迫しました。実際、2022年Q4には食品・飲料・包装コストが売上の29%に達し、前年同期より1.7ポイント増加しています (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。天候不順や農作物の疫病(例:レタス不作や流通障害)といった外的要因で仕入れ価格が不安定になるリスクは常に存在し、それが同社の利益率を左右します。Sweetgreenは産地分散や契約栽培、代替食材の活用などで極力リスクを緩和しようとしていますが、完全に避けることは困難です。今後も原材料コストの変動に対しては、機敏なメニュー調整(高騰品目の一時的な代替メニュー投入等)や価格戦略の見直しで対応する必要があります。またオーガニックや地産地消にこだわるブランドポリシーとの両立も課題で、原価低減だけを優先するとブランド価値を損ねかねないジレンマも存在します。持続的な黒字を維持するには、仕入コスト管理力と商品価格への転嫁力を高め、変動リスクに強い体質を確立することが求められます。
労働市場と人件費の課題
人件費の上昇と人材確保の難しさも依然として課題です。外食産業全般で最低賃金の引き上げや人手不足が深刻化しており、Sweetgreenも例外ではありません。特に主要市場であるカリフォルニアやニューヨークなどでは法定最低賃金が上昇しており、今後も店舗スタッフの人件費負担は増加傾向が見込まれます。Sweetgreenはチップ制度の導入や労務配分の見直し、自動化による省人化などでこの圧力に対応していますが、人件費はなお売上の3割前後を占める重要なコスト項目です (Sweetgreen Alters Growth Strategy for Sake of Profitability - QSR Magazine)。また労働市場の逼迫により、サービス業ではアルバイト・パート人材の確保と定着が難しくなっています。失業率低下局面では求人競争が激化し、優秀な店舗スタッフの採用には賃金・福利厚生面で競合他社以上の条件を提示せざるを得ない場合もあります。仮に人手不足で各店舗のスタッフ数が不足すると、サービス品質の低下や営業時間の短縮といった影響で売上にも悪影響が及びかねません。また近年は外食チェーンで労働組合結成の動きも散見され、労務管理上のリスクも存在します。Sweetgreenが成長を持続するには、適切な人件費コントロールと同時に従業員エンゲージメントの向上が不可欠です。従業員にとって魅力ある職場環境(キャリアパス、企業文化、待遇面)を維持し、人材流出を防ぐことで、採用・育成コストの増大を抑えつつ高いサービス水準を提供し続けることが求められます。労働市場の変化に柔軟に対応し、人的資本を安定的に確保することが今後の課題となるでしょう。
成長の持続可能性
急成長を遂げてきたSweetgreenにとって、成長の持続可能性そのものも考慮すべき課題です。同社はこれまで都市部を中心に店舗網を拡大し市場を開拓してきましたが、長期的には成長余地の頭打ちや新市場開拓の難しさに直面する可能性があります。国内ではすでに主要都市圏で一定の知名度と店舗展開を達成しており、追加出店による売上成長は徐々に鈍化することが予想されます。一方、新たな市場として郊外や地方都市、あるいは国際展開も考えられますが、ブランドの訴求力がどこまで通用するか不透明です。例えば郊外では既に地元志向のオーガニックレストランとの競合や、健康志向がそれほど高くない消費者層へのアピールといった課題が出てくるでしょう。また急激な店舗増はオペレーションの質低下を招くリスクもあります。Sweetgreenは成長より利益に重きを置く方針に転換したとはいえ、依然として株主からの成長期待は大きく、慎重なバランス経営が求められます。新規出店を抑制した場合の売上成長率の低下と、拡大しすぎた場合の収益性悪化というトレードオフの中で、持続的成長路線を模索する必要があります。したがって、1店舗あたり売上の向上(AUV引き上げ)やデジタル売上の拡大による既存店成長にも注力し、「店舗数×売上/店舗」の両面で成長するモデルを確立することが重要です。さらに将来的な海外展開やフランチャイズ化など、新たな成長ドライバーの検討も課題と言えます。現時点では全店舗直営・国内展開のみですが、長期ビジョンとして成長の第二ステージを描くことが投資家からも求められるでしょう。以上のように、如何にして現在の成長軌道を持続可能なものにするかがSweetgreenにとって戦略上の重要課題となっています。
デジタル化への対応課題(IT投資とUX向上)
デジタル戦略は強みである反面、技術投資とユーザーエクスペリエンス(UX)の継続的向上という課題も伴います。前述の通りSweetgreenは高度にデジタル化されたオペレーションを展開していますが、そのためのITインフラ投資やシステム維持には多額のコストがかかります。例えばモバイルアプリの開発・アップデート、オンライン注文システムやデータ分析基盤の整備、そしてセキュリティ対策など、最新のデジタル環境を保つには継続的な資金投入が欠かせません。これらIT関連費用が利益を圧迫する可能性があり、特に同社のように自社開発志向が強い場合には内製コストが膨らむリスクもあります。また、ユーザーエクスペリエンスの飽くなき改善も課題です。デジタル注文比率が高いからこそ、アプリやウェブの使い勝手・安定性が売上に直結します。もし不具合やUIの使いにくさでユーザーが離れてしまえば、競合他社のプラットフォームに流れてしまう恐れもあります。特に新規顧客はアプリ体験の善し悪しでリピートするか決めることも多いため、SweetgreenはCX(顧客体験)チームを強化し、注文プロセスの迅速化やパーソナライズ機能の充実に努めています。さらに、店舗自動化という点でも新たな課題が見えてきます。ロボットが調理を行うInfinite Kitchenは魅力的な効率化策ですが、大規模導入に際しては初期投資費用の回収や技術トラブルへの対処といった現実的な問題があります。自動化設備のメンテナンスやアップデート、予期せぬ機器停止時のバックアップ対応など、従来とは異なる運営上の注意点も増えます。IT投資の成果がすぐに利益に直結しないケースも多く、ROI(投資利益率)を慎重に見極めつつ進める必要があります。以上のように、デジタル化を更に推進する中で費用対効果の管理と顧客体験の質維持を両立させることが、Sweetgreenの今後の課題となるでしょう。
ブランドポジショニングの維持
最後に、ブランドポジショニングの維持も長期的な課題として挙げられます。Sweetgreenは現在、「ヘルシーでサステナブルな高品質ファストカジュアル」の代表格としてブランドが確立されていますが、成長・拡大する中でその鮮明なポジショニングを維持し続ける必要があります。ブランドが大きくなるにつれ、初期の熱狂的ファンからは「昔ほどクールでなくなった」と捉えられたり、あるいは大量出店によって高級・洗練イメージの希薄化が起こる可能性があります。また価格帯の高さゆえに「富裕層向け」の印象を持たれることもあり、健康的ではあるものの値頃感とのバランスをどう取るかも課題です。インフレ下では特に、消費者の節約志向が強まると高価格のサラダボウルは「贅沢品」と見なされ来店頻度が落ちる懸念があります。Sweetgreenはブランド理念として「誰もがアクセスできるリアルフード」を掲げているため、価格価値比への納得感を提供し続けなければなりません。今後、競合が増える中でブランドの独自性を高めつつ価格面の最適化を図ることが重要です。また食品安全や品質管理の徹底もブランド維持には不可欠です。ヘルシーさが売りの同社にとって、万一食中毒事件や品質スキャンダルが発生すれば信頼失墜は避けられません。これは常に注意すべき経営リスクと言えます。さらに、企業姿勢として社会的な評価にも配慮が必要です。過去にSweetgreen幹部の発言が物議を醸した例もあり(例:パンデミック期の発言)、ステークホルダーとの関係性にも注意を払いながらブランドイメージを守ることが求められます。要するに、「健康的で持続可能」というブランド約束の維持と価格・価値バランスの最適化、そして信頼の継続的な醸成が、長期的にSweetgreenが直面するブランド面の課題となるでしょう。
財務パフォーマンスの現状と投資家の反応
Sweetgreenの最新の財務実績を見ると、着実に黒字化へ近づいていることがわかります。2023年度通年では売上高が前年の約4億7010万ドルから24%増の約5億8400万ドルに成長し、営業損失・純損失は大幅に縮小しました (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。店舗レベル利益率は2022年の約11%(Q4時点)から2023年通年で17.5%へと改善し (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)、効率化の成果が数字に表れています。実際、2023年第四四半期単体では、売上高1億5300万ドル(前年同期比+20%)に対し純損失2740万ドルと、損失幅は前年同期(4930万ドルの損失)からほぼ半減しました (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。既存店売上は価格引き上げを主因として+6%伸びており、客数もわずかながら回復傾向です (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。
2024年に入るとさらに改善が続き、ついに四半期ベースでの黒字化指標が現れました。2024年第一四半期(1~3月)には売上高1億5790万ドル(前年同期比+26.2%)を達成し、既存店売上も+5%と堅調でした (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)。この増収は新規出店効果(前年以降に41店舗増加)による約2,110万ドルの上乗せと、価格改定による約640万ドルの増収が主因です (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)。営業損失はなお2690万ドルありますが、レストランレベル利益率は18%と前年同期比で4ポイント改善しています (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)。また調整後EBITDA(利払い・税金・減価償却前利益)は0.1百万ドルとわずかながら初のプラス転換を遂げました (Sweetgreen, Inc. Announces First Quarter 2024 Financial Results | Business Wire)。これは同社にとって初めて既存の事業収益で運営費用をまかなえたことを意味し、黒字化へ向けた重要なマイルストーンです。
こうした業績改善に対し、投資家の反応も好意的です。2024年1月にはJonathan Neman CEOが「今年中の黒字達成に自信を持っている」と発言しており (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)、市場もその目標達成に期待を寄せています。実際、2024年Q1決算で売上・利益が予想を上回りガイダンス(業績見通し)も上方修正されると、発表翌日の株価は一時前日比40%以上急騰し、2年以上ぶりの高値水準に達しました (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices) (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)。同社は通年見通しとして既存店売上+4~6%(従来+3~5%)、レストラン利益率18.5~20%(従来18~19.5%)、調整後EBITDA 1,000万~1,900万ドル(従来800万~1,500万ドル)へ上方修正しており (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)、成長と収益性改善への自信を示しています。株式市場もこれを好感し、発表直後の株価は33.26ドルまで上昇しました (Sweetgreen Stock Soars on Sales Beat, Boosted by New Restaurants and Higher Prices)(参考:IPO直後の2021年11月に一時50ドル台をつけた後、2022年末には10ドル台前半まで下落していました)。その後も業績トレンドは順調で、2024年第三四半期までの累計で純損失は前年より縮小のペースとなっています。2024年Q3(7~9月)は売上高1億7340万ドル(前年同期比+13%)、純損失2080万ドル(前年同期2510万ドルの損失から改善、純損失率12%)を計上し、調整後EBITDAは680万ドル(売上の4%相当)と着実に収益力が向上しています (Sweetgreen reports Q3 2024 revenue of US$173.4M, up 13% year-over-year; company posts net loss of US$20.8M, improved from US$25.1M loss in Q3 2023 | Industry Intelligence Inc.) (Sweetgreen reports Q3 2024 revenue of US$173.4M, up 13% year-over-year; company posts net loss of US$20.8M, improved from US$25.1M loss in Q3 2023 | Industry Intelligence Inc.)。
総じて、Sweetgreenの財務パフォーマンスは高成長と赤字縮小の両面で顕著な改善を示しており、黒字化(少なくとも収支トントンないしプラス領域)達成が現実味を帯びています。投資家からは、このままの軌道でコスト管理と売上拡大を両立できれば近い将来に持続的な黒字企業へ転換できるとの期待が高まっています。ただし同時に、「依然として最終損益は赤字である」点や「成長鈍化時のリスク」について慎重な見方も残っており、継続的な成果の証明が求められる段階と言えます。
今後の展望と結論
Sweetgreenはこれまで述べた施策により、黒字化への道筋を着実に歩んでいます。コスト構造の改善、価格戦略の成功、商品・店舗・デジタル戦略の革新によって、収益性と成長性のバランスを取り戻しつつあります。経営陣も「従来型の運営モデルでも店舗レベル利益率20%は視野に入っている」と述べ、Infinite Kitchen導入などの追加施策でさらに高い収益性を目指せるとの自信を示しています (Can Sweetgreen Turn a Profit in 2024? - QSR Magazine)。
しかし、持続的な成功のためには複数の課題に対応し続けることが必要です。競争環境の変化に機敏に適応し、ブランドの魅力を磨き続けること。外部要因である原材料価格や労働コストの変動にも耐えうる効率的な経営体質を維持すること。成長戦略と利益確保のバランスを保ちながら、新市場や新業態への挑戦も視野に入れて企業価値を高めていくこと。デジタルとリアルの融合による顧客体験向上を追求しつつ、その基盤となるテクノロジー投資の最適化にも留意すること。そして、創業来のミッションである「人々をリアルフードでつなぐ」という理念をぶらさず、顧客・従業員・社会から信頼され愛されるブランドであり続けることが肝要です。
Sweetgreenの現状は、黒字化達成へ「あと一歩」という段階と評価できます。財務数値は改善傾向にあり、戦略面でも正しい方向に舵を切っています。投資家の期待も高まりつつある中、この勢いを保ち短期的には四半期ベースでの純利益黒字転換、長期的には安定成長路線の確立を目指すでしょう。ヘルシー志向ブームの追い風と自社の革新力を活かし、直面する課題を克服できれば、Sweetgreenはファストカジュアル業界における持続的成長企業としてさらなる飛躍を遂げる可能性があります。その動向は今後も業界関係者や投資家から注目されることでしょう。