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「閃光のハサウェイ」、究極の悲劇ブロマンス。

何度も感染危機によって公開日が延期され、やっと2021年の5月にお披露目された最新のガンダムサーガ。物語は富野由悠季監督が作り出した宇宙世紀ガンダムの、純血たる後継ストーリーに仕上がっています。

私が原作小説本を読んだのが15歳で、それ以降は一度も手に触れていません。「ガンダム史上最高に救いの無い結末」として語り継がれる伝説について、まだラストをここでは語れませんが、とにかく当時の私は、余りにも富野監督に大切なキャラクターを奪われる事に疲れ果ててしまって。


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悲劇のガンダム継承者、ハサウェイ。


舞台は、劇場版「逆襲のシャア」にて、シャア・アズナブルとアムロ・レイが死闘を繰り広げ、二人が行方不明になったまま12年が経過した地球、ダバオ諸島。主人公は、TVシリーズ「機動戦士ガンダム」にて活躍したブライト・ノア艦長とミライ・ヤシマの一人息子であるハサウェイ・ノア。

彼は「Zガンダム」にも7歳の幼い姿で登場しており、まるで私にとっては親戚の男の子のような存在。その彼が今や25歳の青年に成長し、テロリストの「マフティー・ナビーユ・エリン」を名乗り地球に住む裕福層の人々を大勢粛清している。第二次ネオジオン戦争「シャアの反乱」の中で、初恋の少女であるクェス・パラヤを死に追いやってしまって以来、既にハサウェイの心も魂も死んでしまっているから。


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まず、ハサウェイの声優担当が佐々木望氏から小野賢章氏に変更になると聞いた時点で、私は新作映画を見に行かない気持ちになっていました。やはり私の中でハサウェイはずっと佐々木望ボイスのキャラクターであったし、この頃の日本アニメ業界が、声優を若手に総入れ替えして焼き直しをする「売り専目的」のリメイク作りばかりしていることへ、ずっと苛立ちを燃やしていたので。


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諏訪部順一声のケネスを、もっと大好きになれた。


原作を子供の頃読んだ時に唯一救われたのは、ハサウェイと敵対する地球連邦軍の士官であるケネス・スレッグ大佐とハサウェイの究極の友情にあります。

富野由悠季監督が書いた小説では、金髪のいささかヒステリックそうな人物に描写されてるんですけど、今回の映画版では褐色の肌に金色の瞳を持つ長身の美丈夫。性格や言い回しなどが「ファースト・ガンダム」でミライさんの初恋相手だったスレッガー・ロウ中尉にとても似ているので、優れたニュータイプ一族であるヤシマ家の人は、ワイルドで包容力ある大人の男性に惹かれるのかもしれないですね。


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諏訪部順一さんがケネス役のオーディションを受けた時に「手応えがあった。やれると思った」と語っているように、私も諏訪部さんならば素晴らしいケネスを演じられるだろうと確信がありました。「テニスの王子様」の跡部景吾様以来、彼の実力派演技は多々聞いてきたし、「fate/staynight unlimited blade works」のアーチャー役では、見事に心を奪われましたから。

結婚や恋愛に疲れた彼の大人の部分と、ハサウェイを揶揄って笑う少年の純粋さが絶妙に混ざり合っていて、諏訪部順一ボイスが泣けてくるほど素晴らしい!


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ケネスは、貧困層の人々を拉致して宇宙に放逐する「マンハンター」を擁護する地球連邦軍にいながらも正義の心を忘れていない人物ですが、時に作戦執行の為には冷酷な一面も隠しません。感情に流されず的確な指示を出し、気が利かない部下達も上手に展開させることが出来る非常に優秀な軍人。

彼自身の言動から、名門ヤシマ家の子孫であり名将ブライト・ノアの長男として育ったサラブレッドであるハサウェイとは、対極な家庭環境で育成されたであろう過去が匂うのですが、その家柄コンプレックスや成り上がりの自分の地位に卑屈になることなく、真っ直ぐハサウェイに友情をぶつけてきます。また、ハサウェイも聡明で明るく優しいケネスに、畏怖すべき敵と知りつつも心を許してしまう。本当に不思議な関係です……。


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心を通わせながらも、戦う二人。


「敵対する組織の重要人物が二人、巡り合って悲劇を迎える」これこそまさに富野由悠季が構築したガンダム伝説の柱になっているお約束の物語です。今までもアムロとララァ、カミーユとフォウ、ジュドーとハマーンなどの登場人物が何十年も積み重ねてきたように。しかし今回、ハサウェイとケネスは男性同士でケネスはモビルスーツには既に乗ってはいない、現在では「対マフティー」キルケー部隊総司令官なんですね。


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本来なら初日舞台挨拶の映像を映画館で観て、そのまま帰る予定が「あ、これはもう、初回限定版Blu-rayを買っていくしか無いな……」と諦めたのが、まだハサウェイの正体を知らず、二人がそれぞれの父親について語り合う場面。ここでケネスが、ヒョイッとハサウェイが食べているホテルのルームサービスをつまみ食いするんですね。

このシーンは原作小説には無く、アニメの演出にて入れられたカット。おそらく脚本家のむとうやすゆきさんが、村瀬修功監督と相談しつつ導入したのではと憶測します。むとうさんは「ガンダムUC」や「戦国BASARA」でも、こういう何気ない所作で人物を動かせる名人なので。

小説が発売された当時には、まだ「ブロマンス」という表現はなかったし、同性同士の恋愛が明確にアニメにて描写されることもありませんでした。しかし私には、誰も間に入れないこの二人の関係こそが「究極の友情ブロマンス」であると断言せざる得ません。


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ハサウェイを中心とした、ミステリアスな三角関係。


本来なら、ヒロインであるギギ・アンダルシアを挟んで、ハサウェイとケネスが男二人の火花を散らす恋愛パターンが、この作品では主人公であるハサウェイを挟んでギギとケネスがそれぞれ、ハサウェイの気を引こうとします。

これも富野由悠季監督の原作の技というか、彼が長い年月私達に魅せつけてきた人間ドラマ構成の絶妙なるテクニックなのですが、ハサウェイがギギに引き摺られるのは、あくまで初恋の少女クェスの面影を持つニュータイプだからなんです。恋心とか淡い甘やかな繋がりでは無く。

安っぽい男女の恋愛ではなく、あくまで主役格二人の男性のハラハラする敵対関係と、そしてこの悲劇ストーリーの中で唯一救われる美しい友情を貫かせている。ここにこそ「閃ハサ」の、30年以上ファンを虜にし続けている秘訣があります。最後の銃声を映画で聞いた瞬間、私のこの言葉を思い出して下さい……。


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続編のタイトルは「ブライトの息子」


先日、「閃光のハサウェイ」の続編タイトルが決定。「Sun of Blight」……「名将ブライト・ノアの息子、ハサウェイ」を表す言葉そのものなのですが……。これ以降ハサウェイとケネスが直接顔を合わせるのは、原作通りならラストです。

ガンダムを愛する私を含めた全ての「富野由悠季の子供達」が、この30年背負い続けてきた十字架をやっと肩から下ろせるのか、それとも更に長いゴルゴダの丘をハサウェイと共に歩くことになるのか。まだ誰にも分かりません。

私……、「鬼滅の刃」の映画でもそれ程悲しくなくて泣けなかったんですけど、ハサウェイが澤野弘之サウンドを背景に、美しい地球に降下して行くシーンを見た時に……なんだかどっと、胸から溢れる物があって。

「そうか、この元気にご飯食べている青年はもう幸せになれないんだ。せっかくケネスと素晴らしい友人になれたのに、もう何もかも遅いんだ」

と猛烈なやるせなさに襲われてしまったんですね。


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「これからが、地獄だぞ」


Twitterでたくさんの人が「閃光のハサウェイ」映画について自論を発信する中で、「ハサウェイは心優しく生真面目な青年の面と、残忍で無慈悲な殺人者の顔を併せ持つ重度の分裂症患者」と評している方がいて。まさにその通りだと私も思います。

また「ガンダムらしくないガンダム映画」と評価されているのも、事前のインタビューでプロデューサーが話しているように「あえて、ガンダムらしさを無くした」アニメなのです。だから「らしくない」とレビューされるのは、実は大正解だったりするんですね。


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主役モビルスーツのクスィーガンダムも、ペーネロペーも今までのデザインとはかけ離れた姿をしています。私が思うに、余りにも「ガンダムユニコーン」シリーズがメカもキャラクターも物語も音楽も完璧過ぎて、サンライズは「これからのガンダム」も100年続けて行くにあたり、大きな変革をせざる得なかったのではないかと。

ただ、美しい澤野弘之の音楽の中で、ハサウェイとケネス、そして若者達が命を燃やし尽くす心意気は理解しています。シャアとアムロの意思を継いで自ら大罪人となったハサウェイは果たして魂を救済されるのか。地獄に突き進むハサウェイを、ケネスは止める事ができるのか……。ずっと見守ってきた一人のファンとして最期まで覚悟と共に見届けようと思います。


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まだ感染危機の前、2020年1月に新宿駅南口にて開催されていた「閃光のハサウェイ」コラボ。指定食品を購入するとクリアファイルが貰えました。


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通勤前に必ずここを通過するんですけど、鳥肌が止まらなくなるんですよ……。期待と不安で。


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