小さな図書館からみる 「場づくり」と「コミュニティ」
先日、一冊の論文を頂きました。
まちライブラリー提唱者である礒井純充さんの研究論文です。
まちライブラリーは、全国の小さな図書館を応援している団体で、本を介して、様々な場づくりの支援や、イベントなどを行っています。「星空の小さな図書館」もメンバーに入っています。
礒井さんとの出会いは、ちょうど、私が「星空の小さな図書館」をはじめて、半年ぐらいたったころ。友人が「こういう活動をしている人がいるよ」と、1冊の本を紹介してくれました。
『人とまちをつなぐ小さな図書館』なんて、今の自分にぴったりじゃない!と思い、早速購入。読み進めてみると、なんだ、小さな図書館って、日本全国こんなにもたくさんあったのか! と、とにかく驚いた。
そう、「図書館をやろう」と決め時、周りに参考となる場所はなく、何をどうしたらいいのかわからないまま、一人で右往左往しながら立ち上げたので、本当に、図書館を始める前に知っていたら、こんな苦労はしなかったのになぁ、、なんて思ったものです。
本を読み終わり、まちライブラリーのHPから問い合わせをしてみると、礒井さんがすぐに来てくださいました。
短い時間でしたが、いろいろな話をしました。とにかく、礒井さんは、日本全国様々な個人図書館を訪ねていて、お話を聞けば聞くほど、自分と同じような「仲間」がこんなにもいたのか!ということが本当にうれしかったです。
その後、大阪で開催された「マイクロライブラリーサミット2015」に呼んでいただき、発表の機会を頂いたり、
(そのときの様子は、書籍「コミュニティとマイクロ・ライブラリー」にまとめられています)
翌年には、礒井さんをいすみ市にお呼びして、星空スペースでイベントも開催しました。
詳しいイベントの様子は、こちら
『「はじめよう!まちの小さな図書館」トークイベント 開催しました。』
大阪府立大学院に入学し「まちライブラリー」を通した、個の活動について研究をされていると聞いていたのですが、今回、無事に論文が出来上がったということで、1冊頂いたのです。
“まちライブラリー”を活用した地域の場づくりに関する研究とは。
最初に、私は、論文読むの苦手です。私自身「卒論」を書くことなく、大学を卒業してしまったこともあり、この手の硬い文章に抵抗がああります。なので、正直、ちゃんと読めるかなと不安でした。
が、とにかく、おもしろかった!興味深かった!そうそう!と頷きながら読んでしまいました。
論文は、全部で6章に分けられ、第1章では、研究の背景、目的。第2章では、都市計画から見るまちづくりとは、従来の図書館について、また、コミュニティと場づくりなど、先行研究についてまとめられています。
研究の背景として、社会が巨大化してしまったことで、人間関係の希薄化が進み、個々の役割が喪失感を感じるようなった中、人は一体どのようにして対処しえるのか、磯井さん自身の経験から、関心を持ったと言います。
『大規模な組織や資本、公的な制度に依存しなくても、個々が自ら個性を活かし、生き生きと活動できる社会を生み出すことはできないか』。
それを、まちライブラリーの活動を通して、検証していくというのです。
全国のまちライブラリーから見えてきたこと
研究にあたり、全国のまちライブラリーでアンケート調査を行っています。論文では第3章にまとめられています。
詳細なアンケート結果については割愛しますが、運営者の約50%は、一人で運営をしている小さなもの。ボランティアを含め複数名で運営しているのは2割ほどでした。
図書館を始めた動機は「地域や施設を活性化させたかったから」「本が好きだったから」「人が来るようにしたかった」など、様々。
意外な結果だったのは、運営状況の自己評価について。
「あまりうまく運営できていない」「うまく運営できていない」が約4割を占めていて全体的に運営について自己評価は低く、戸惑いがあるとのこと。
複数人で運営している場合と、個人(お一人さま)で運営している場合では傾向が違うことも、おもしろい結果。
第4章では、様々な運営者のヒアリング内容をまとめているのですが、中でも興味深かったのは図書館の運営を停止してしまった方のお話。
ある方は、「場づくり」のマーケティング手段として、まちライブラリーを利用しようとするも、うまく行かず閉館。
ある方は、イベントなどを定期的に開催していたものの、忙しくなってしまい、手が回らず休止。
行政や図書館が段取りした事例の中には「人が集められていない」という理由から、続けていくこと苦しくなり、関わる人のモチベーションが上がらず休止。
本を活用して、人を集めようとしたり、定期的なイベントをしたりして場所の活性化を図った人が結果を得られず閉鎖しているそう。
一方で、運営者側ではなく、利用者側のアンケート結果を見てみると、本の閲覧や貸し出し、一人の時間を目的に利用している人が多い。
カフェを併設したライブラリーでは、実は、カフェよりもライブラリーの利用が多いという結果。
人とのコミュニケーションを感じるときは、利用者同士というよりもスタッフとの会話の時に感じるそう。
実は、図書館は、様々な人と出会うための「出会いの場」ではなかったのです。
実際に、様々な人と交流ができるようにと、イベントを開催していたけれど、本の閲覧、貸し出しをはじめてみたら利用者が10倍に増えたという事例もあるという。
イベントって、一度にたくさんの人を集めることができるけれど、コストと労力が本当にかかる。それを何度か続けてしまうと、主催者が疲れてしまうほど(その気持ち、よくわかります)。
そんな大変なイベントを企画するよりも、来る人が気軽に、かつ何度もこれるような場づくりをしたほうが実は、利用者が多く、かつ、運営側も長く続けることができる。
アンケートやヒアリング結果から、そんなことが見えて来ました。
個人からはじまるコミュニティとは。
様々な状況のまちライブラリーがある中、ゆるやかに長く続いているライブラリーの特徴もありました。
それは、運営者本人が楽しんでやっているということ。「楽しい」「勝手に集まってきた」「周りを見ているとうよりは自分の好きなことをしている」。うまくいっている人との会話からはよくこんな言葉が出てくるそうです。
一方で、うまくいっていない人は、依頼をされてはじめたり、やり方にこだわっている人が多い。
人を巻き込んだりしようとせず、自らの楽しみでやっている人のほうが総じてうまく運営できているそう。
自己充足感があるかどうかが一つのポイントなんですね。何においてもそうですが「自分ごと」かどうかって本当に大事。
正直、「場づくり」とか「コミュニティ」とか、もう使い古されている言葉のようにも思います。手垢がたくさんついてしまったような、もはやどこにでもあるような言葉になってしまって。(それでも、「わかりやすさ」から「伝わりやすさ」を求めて使ってしまうのだけど)。
でも本来は、言葉が先にあるものではなくて、自然発生的に生まれるもの。
なんとなくこんなかんじ、と思っていたものに、わかりやすさを求めて名前をつけてしまった。言語化してしまった。ただそれだけのこと。
だから、本来は、「つくる」ものではなくて、自然発生的に「つくられるもの」なのかもしれません。
私もいすみ市に移住して来た当時は、かなり前のめりに、勢いを持って、肩にぐっと力を入れて、やれ「場づくりだ」とか「コミュニティだ」とか、いろんなことに向き合って来たけれど、「もっと力を抜いていいんだな」とか、自然なもの、に気づくようになってから、無理がなくなった。すると不思議なことに、いろんなことが前向きに進むようになりました。
『目標に向かって計画的に進行する場づくりではなく、自然ににじみでる個性的で融通のある活動が結果として、場づくりになっている』
まさに、その言葉どおりなのかもしれません。
最後にまとめられていたことが、まさに、今まで自分が実践してきたことをわかりやすくしてくれているような気がします。
個人が参画しやすい地域社会への提唱。
1 融通性:計画性より融通性を大切にした社会
2 個別性の視点:汎用な解より個々の人に焦点をあてた社会
3 日常性の視点:非日常的なものより、日常性を大切にする
4 双方向の視点:相互の関係性を大事にする地域社会形成
5 媒介性の視点:人々を引き寄せる媒介物(象徴となるもの)の設定
右往左往しながらも、自分の進んできた道が、これでよかったんだな、と、少し自信になりました。
私が図書館を続ける理由
論文を読み終えて、改めて、私が図書館を続ける理由ってなんだろう、と、考えました。
週に2日とはいえ、開館時間は必ずその場所にいなければならないし、しっかりとした売上が立つものでもない。誰も来ない日だってある。掃除だって蔵書の整理だって、結構な労働。
それでも続けている理由ってなんだろう。
でも、思うのです。私にとって、図書館は、心の安定剤みたいなものなんだ、と。
「場づくり」とか「地域活性」とかそんな理由ではじめた訳ではない、小さな図書館。
もちろん、シェアハウスを続ける上で、開かれた場が必要だ、と思ったことは事実だけど、はじめた動機に優先順位をつけたら、一番上にくるのは「私が、本がたくさんある空間がほしかったから」。
だから、お客さんが全く来なくても、あまり気にせず「今日は、1冊本が読めたから、ま、いっか」とか「ゆっくりできたからよかった」と、思えるのかもしれません。
仕事が立て込んでくると、日々バタバタしてしまうけれど、図書館の開館日であるこの2日間だけは、この空間で、本と向きいながら自分の時間が過ごせる。この時間が私にとってのいい意味での息抜きになっているんだと思います。
目に見える『売上という利益』はないかもしれないけれど、目に見えない利益をもたらしてくれている。
図書館はただの場所だけど『目に見えないなにか』が宿っているんでしょうか。ちゃんと、想いを持って接していないとすぐにダメになってしまうような気がして、ゆるくともちゃんと向き合おうと思うのです。
店主のそんな思いがちゃんと詰まっている場所には、不思議と人も集まるものなんですよね。心地のいい場所って、そんな気がします。
自分の欲しいコトを突き詰めていったら、地域のこととか、社会につながっていった。図書館は、私と社会をつなぐ場所なのかもしれません。
私の場合は、たまたま図書館だったけれど、「個」の活動は、人それぞれ違うもの。それぞれが自分らしくなれる「個」の活動を見つけて、その小さなものが少しずつ社会とつながっていったら、世の中、少しだけでも、いい方向に進んでいくんじゃないかな、と思う。
先の見えない世の中だけど、建前とか規模とか、そういうものではなくて、今だからこそ、とことん自分の好きなことに向き合ってみるのもいいかもしれませんね。