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エッセイ『宇宙を漂う』

 
 少し前、某大型書店にて3冊の本を見つけることが出来ず「書店内在庫の状況」と「置いてある棚の位置」を確認するため、電子検索を行った。
 1冊目の『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』は、

(中略)
お探しの本棚の情報
ーーーーーーーーーー
分類は『(中略) 自己啓発本』 です。

とのことで、たぶん5年以上振りくらいに「自己啓発本」の棚を訪れることとなった。
 「自己啓発本」は大枠としては「ビジネス」に該当するため、個人的には若干予想外の棚であり「幸福論なわけだから、人文→哲学→幸福論な感じで置いてあるのかと思ったけれど全然違ったし……」と、若干の違和感と悔しさをにじませつつも「まぁ売ろうとするなら自己啓発本の棚が妥当か……」と、出版社や書店の「大人の事情」も考慮し、渋々ながら自らの気持ちを収めた。
 
 2冊目は、準備中の「書籍に関する有料記事」に使用する予定のためここではタイトルを伏せるが、個人的には「日本の政治」あたりの分類が妥当であると確信していたものであった。
 しかし……

(中略)
お探しの本棚の情報
ーーーーーーーーーー
分類は『(中略)  陰謀論』 です。

との表示……。
 「えっ、陰謀論いんぼうろんて……えぇぇっ!?」と思わず声を出してしまった。「これ絶対何かの間違いでしょう!」と本気で思ったのであるけれど、その棚の前に(爆速にて)到着してみると、お目当ての書籍はちゃんと「陰謀論」関連の書籍として面陳列されていたのであった。 
 「コレは……おかしいって絶対……コレは無いって……」と独り言をつぶやきながら(一応周りに誰も人の居ない状況)、しばし放心しその場に立ち尽くしてしまった……。

 そのようなわけで、かなりの精神的ダメージを負ったものの、しかし人生において辛酸しんさんを舐め尽くしてきた「(自称)歴戦の猛者」である私の回復は自分でも驚く程に早く、ひるむことなく3冊目の検索を行った。
 のだが、画面に映し出された表示を見て、我が目を疑った……

(中略)
お探しの本棚の情報
ーーーーーーーーーー
分類は『(中略)  UFO・宇宙人 です。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」。

 意識が徐々に遠のいてゆく中、ふと、子どもの頃に読んだ格言が脳裏に浮かんだ。

 「人は、言いたいことが全くない場合と、言いたいことが余りにも多過ぎる場合に、沈黙する」
 
※遠い記憶につき正確ではないかもしれません
 

 『UFO・宇宙人』の棚にあるらしいお目当ての書籍のタイトルは『電気汚染と生命の地球史 インビジブル・レインボー  電信線から5G・携帯基地局・Wi-Fiまで』。
 至らない私はその書籍の内容が、あたかも人間に関するものであると思い込み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あろうことか「環境汚染」→「電磁波関連」という全く見当違いの棚を、まるでこの世に存在することのないまぼろしを追い続けるかの如く、懸命に探しまわっていたのである。見つからないのは、必然であった。
 
 そのような予想だにしない過酷な現実の壁にブチ当たった私は、精神的に深いショックを受けてしまったらしく、その後自分がどのようにして『UFO・宇宙人』の棚の前まで辿り着いたのか……、その一切の記憶が無い。
 しかしながら『UFO・宇宙人』の棚には、お目当ての書籍『電気汚染と生命の地球史 インビジブル・レインボー  電信線から5G・携帯基地局・Wi-Fiまで』が、「当然ここだろうがお前!」とでも言わんばかりに、サクッと陳列されていた。
 私はその様子を、まるで「未確認飛行物体」を目撃しおののき、身動きが取れなくなってしまった人のように、暫くのあいだ唖然あぜんとして眺めていたものの、やがて正気を取り戻し、周囲を確認した。
 するとその棚の左右には、『トンデモ本』『占星術』『西洋神秘主義』『スピリチュアル』等の、香ばしい棚がズラリと並び、その棚の前には私よりも若干年上の女性客が左右に1人ずつ、どうやら先客として存在していたのであるけれど、私が『UFO・宇宙人』の棚の前に仁王立におうだちし、お目当ての書籍をまるで舐めるように探し始めると、両者は共にこちらを「チラ見」した上で(←ここポイント)ほぼ時間差無しにそそくさと、その場から退散していったのである。

 私は粉々に砕け散ったプライドのカケラをかき集め、冷静に自分が巡ってきた3カ所の棚を、脳裏に思い浮かべてみた。
 
 『自己啓発本』、『陰謀論』、『UFO・宇宙人
 
 3つ並べるとその相乗効果により
 
めっちゃヤル気満々の完全にヤバい奴

 としか思えない様相を呈しており、危うく正気を失いかけた……
 
 のだけれども、呼吸を整え、そこからさらに冷静に考えてみたところ、上記の「分類」はそもそも他人がおこなったものであり、何かしらのデータからマジョリティーな客の行動パターンを予測したり、出版社の意向等を反映しただけに過ぎない「他人の評価」であり「分類」である……ということに思い至った。
 であるならば、ヤバいのは私ではない。
 と、そう悟った瞬間、自分の進む道の先に柔らかな光が射すのを見た。
 私は『UFO・宇宙人』の棚に「この棚にあるんかいっ!」と言い放って微笑み、書籍を購入し、書店を後にした。
 
 外はいつの間にか「ひかりのまち」になっており、その中をスイスイと泳ぎながら「UFO」や「宇宙人」に思いを馳せつつ、満ち足りた気持ちで帰途についた。
 
 

 
 


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