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映画『女神の見えざる手』

2016年/製作国:イギリス、アメリカ/上映時間:132分
原題
 Miss Sloane
監督
 ジョン・マッデン



予告編(日本版)

予告編(海外版)


STORY

 大手ロビー会社で辣腕をふるうエリザベスは、銃擁護派団体から仕事を依頼される。女性の銃保持を認めるロビー活動で、新たな銃規制法案を廃案に持ち込んでくれというのだ。信念に反する仕事はできない……エリザベスは部下を引き連れ、銃規制派のシュミットの小さなロビー会社へ移籍。奇策ともいえる戦略によって、形勢を有利に変えていく。だが、巨大な権力をもつ敵陣営も負けてはいない。エリザベスの過去のスキャンダルが暴かれ、スタッフに命の危機が迫るなど、事態は予測できない方向へ進んでいく……。
 
 銃規制法 可決か、廃案かー
 政府を陰で動かす「戦略の天才」ロビイストが
 銃社会アメリカに仕掛けた究極の一手」とはー

DVD 解説より

【ロビイスト】
 
政権の決定に深く関与し、マスコミや世論も陰で操作する、戦略のプロ集団。
 
 ロビイストという言葉が使用され始めたのは、ユリシーズ・S・グラント大統領(任期1869~1877年)と言われており、ワシントンD.C.のホテルのロビーに陣取って酒や葉巻を楽しみにバーへと向かう政治家を捕まえ、酒をおごる等しながら政策や会議での投票について嘆願したことに端を発しているとのこと。


レビュー

 人気があり高評価なのも頷ける、秀逸なエンターテイメント作品です。
 脚本が良く、初見も面白いのですけれども、再鑑賞時はまた別の角度から楽しめて「このセリフには二重の意味があったんだぁ……」、「あぁ、あの時のあのキャラの表情や感情にはそういう意味があったのかぁ……」等々、細部の意図にも気づけるため、さらに本作の好感度と面白さが増します。
 また本作は間違いなくジェシカ・チャステインの代表作のひとつであり、脇役たちも皆粒ぞろい。衣装は初見時には「若干野暮ったいな……」と感じたものの、再鑑賞時には「あぁ【鎧】としての表現だったのね……」と納得。その衣装とのシナジーを最大限に活かす小物や口紅の色の選択も抜群で、その威力とジェシカ・チャステインの演技の相乗効果により主人公の印象は鮮明に、そして力強く、観る者の記憶へと焼き付きます。

 ネタバレを避けるためストーリーについてはほぼ言及いたしませんけれども、鑑賞中に考えていたことを少し記したいと思います。
 まず個人的な本作の価値は大きく3つあり、1つ目は主人公マデリン・エリザベス・スローン(以下:スローン)の(他人の思考範囲を超える能力を持つ故に他人に理解してもらえない)孤独や苦しみを描いている点。2つ目は作中に何度か登場する「インドネシア共和国からアメリカがパーム油を輸入する際のインドネシア共和国側に請求する輸入課徴金を無くすためのキャンペーンの仕事」に関する件を複数回登場させている点。そして3つ目は本作の争点である「アメリカの銃規制問題」に関する点です。

  1つ目の、スローンの(他人の思考範囲を超える能力を持つが故に他人に理解してもらえない)孤独や苦しみ(悲哀・葛藤)の描き方には、グッときました。
 普通に観ていればわかりますけれどもスローンは終始、「二重思考」のような状況に苦しみ、葛藤を抱えています。「勝利し続けること(結果を出し続けること)」と、「(本当は善いことのために自分の能力を発揮したいという)自分の良心」との間にて板挟み状態となってしまっているわけです。

 ロビイストという仕事においては「勝利すること」=「結果を出すこと」ということであり、ゆえに「勝利」し続けなければ社会で認められることはありません。それゆえにスローンは「巨大な資金力を背景に比較的容易たやすく勝利を得ることの可能な保守系(共和党系)の大会社に所属」し(そう言い切れるのはCEOの机にCEOがブッシュ大統領のソックリさんと仲良く映っている写真があるため)、「11年に渡りキャリアを積んできた(勝利を積み重ねてきた)」という設定となっています。しかしそれはスローンにとって「自分本来の良心や信念とは逆の立場で仕事を優先(勝利を優先)し心を犠牲にしてきた」ということでもあるため、そのことがスローンの心を引き裂き深く蝕んでしまっているというわけです。ですから冒頭のスローンの表情は「虚ろ」で、食事もまともに取らず(トイレで毎回水を流さないとジェーンに指摘されています)、不眠症、且つ薬(何かしらの合法的なドラッグ)に頼る生活となってしまっており、身体的にも精神的にも、もうこれ以上自らの良心に背いて(キャリアのためとはいえ)仕事を続けることは限界となってしまっている、ギリギリの状況に置かれています。
 そしてそんな状況の中、銃擁護団体の「女性を人間として観ていない(間違いなく性的対象としか観ていない)腐りきった思考の持ち主」サンフォードから、「女性を操って銃を擁護させる」という最高にクソな依頼を持ちかけられ、それに若干キレて断ると、同じく腐りきった思考の持ち主である所属会社のCEOデュポンから、(女性であるがゆえに)これまでの11年の実績にまともな敬意を払われることもなく、まるで捨て駒のように(「お前の替えはいくらでも居る」とでもいうように)「サンフォードの要求に応じる気がないなら、君に会社に居てもらう必要は無い」とクビをちらつかせて脅されます。仕方なくその場は無言で退散したものの、その依頼を受けてしまったら「自分が完全に壊れる」ことをわかっているため、スローンは精神的に追い詰められて薬の接種量が一気に増えてしまいます。しかしそこへタイミング良く銃規制法案を可決させようとしている弱小ロビー会社のCEO、ロドルフォ・シュミットから直々に引き抜きの誘いを受け、それを承諾することにより、エリザベスは多分これまでの人生で初めて「自分の良心と信念に従い、自分の意志と選択によるロビー活動」に挑むこととなります。しかしそれは資金力の差を考えても、通常であれば勝ち目の無い戦いで……という。
 ※ちなみに引き抜きの依頼を受けることにしたスローンは、その前にしっかりと勝利への道筋を見いだし、それを実行出来るかどうかを確認&確信し、作戦を整えてから会社を移籍しますけれども、その勝利への道筋を見出した(閃いた)時に読んでいた書籍はJohn Grisham(ジョン・グリシャム)の『The Litigators( 巨大訴訟)』で、とてもオシャレでした。
 『巨大訴訟』上巻 内容紹介

 こんな仕事、やってられるか! ハーヴァード・ロースクール出のエリート若手弁護士デイヴィッドは金、金、金の超大手法律事務所をある朝、辞めた。高給代わりに「奴隷」のように働かされるなんてうんざりだ。バーで飲んだくれ、さてどうする? たどり着いたのはみすぼらしい事務所。やがて薬害を巡る巨大訴訟の法廷に初めて立つこととなる彼の運命は……。

『巨大訴訟』下巻 内容紹介

 妻に頭が上がらず、離婚・引退を夢見るオスカー。大企業相手に一攫千金を狙うウォリー。彼らの弱小事務所でひたむきに働くデイヴィッドは、ウォリーが起こした和解金目当ての集合訴訟に振り回されていた。敵は大製薬会社、加えて古巣の超大手法律事務所。法廷では素人同然、「三馬鹿」と自嘲しながら、金の亡者で巨大化していく訴訟に追い詰められる三人に――一発逆転はあるのか?


 2つ目の「インドネシアのパーム油~」の件。
 これは脚本家がいわゆる「世界最大の金融スキャンダル」と言われた「ボルネオ事件」とそれに伴う「自然破壊」「生態系破壊」「汚職」「各国銀行及び建築会社等の薄汚い行為」に関して関心があり、暗にその事件のことを世界にむけて知らしめたかったのではないかと感じました(汚い奴らは他の汚いことにもカネ目当てに複雑に協力し合っているということを、鑑賞後にネット検索し詳細を知って欲しいという)。
 で、日本の企業や銀行も(またその背後には政府の関係者その他も暗躍し)ガッツリその不正に関わった「ボルネオ事件(『ボルネオ事件 熱帯雨林を破壊するダークマネー』というドキュメンタリー映画)」に関しては近くレビュー予定です。
 とにかくそういった細かい(ウォール街占拠等々にもチョロっと触れてゆく)言及までを含め、「正義感(情熱)」を強く感じる案件が複数盛り込まれていることに、とても好感を持ちました。
 

 そして3つ目。
 本作の争点である「アメリカの銃規制問題」に関してですけれども、これは多くのアメリカ人の映画関係者にはまともに扱えない領域(案件)です。だから銃規制をまともに扱った作品はハリウッド映画にはほぼ無いわけですけれども、その理由は多岐にわたります。まず観客動員数に大きく影響します。アメリカには憲法修正第二条の内容を好み、銃規制を強化されたくない銃器愛好家が大統領選挙の勝敗にモロに影響するくらいビックリするほど多数存在します。それゆえに場合によっては、制作に関わった人々は身の危険も考えないといけません(意味わかりますよね?)。さらにはアメリカ映画を観ればよくわかりますけれども銃をバンバン撃って人を殺しまくって楽しむ作品が多く、しかも人気です(当然興行収入も高い)。 ということは軍需産業と映画産業には古くから深い繋がりがあるということが推測できます。スポンサーであったり、武器等使用時の協力関係であったり、まぁ色々と。ですからそこを批判すると作品制作後に様々なデメリットが制作関係者に必然的に生じるわけです。
 ※本作の製作はスピルバーグも狙っていたそうですけれども、もし彼が関わっていたら間違いなく骨抜きな内容にされてしまい、駄作となっていたことでしょう。

 そのため本作は、イギリス人の脚本家ジョナサン・ペレラ、同じくイギリス人監督のジョン・マッデン、デンマークを中心に活躍してきた撮影監督セバスチャン・ブレンコー、カナダ出身の衣装デザイナージョージ・ナヤーリ、編集はドイツ出身アレクサンダー・バーナー、制作にいたってはベン・ブラウニング、クリス・サイキエル、アリエル・ゼトゥンとヨーロッパにゆかりのある3人、脇役もカナダやイギリス出身のアクター多めと、アメリカ人以外のスタッフが大多数を占めております。
 というかそうしなければ、本作の内容を薄めずに観客へと届けることは不可能であったに違いありません。

 アメリカにはNRA(全米ライフル協会)があり、この19世紀から続く銃所持者の権利団体は、現在会員数約500万人と言われており、総人口の約1.5%程と推定されています。
 またこの団体は2億ドルを超える予算を毎年ロビー活動に費やしており、これまでに幾度も銃規制法案を退ける原動力となってきました。
 ※本作で描かれているサンフォードの銃擁護団体はこのNRA(全米ライフル協会)を模しています
 それからNRA(全米ライフル協会)の支持基盤は共和党ですけれども、南西部や中西部のいわゆるド田舎の多い地域では、全世帯の5割以上が銃を所持しているらしく、そういった地域にて立候補する政治家は銃規制に賛成すれば確実に敗戦することとなるため、たとえ民主党の候補であっても、それらの地域出身の議員として銃規制に賛成することは出来ない状況にあるわけです。そのため規制がなかなか思うように進まないという現実もあり……、というのが建前なのですけれども……、その背後にはもっとドス黒い権力と利権の闇が横たわっていて……。ただ、そのあたりの事情に関してはまだまだ勉強不足のため、本記事では割愛いたします。


というわけで、そういった問題を出来る限り盛り込みながらも、エンターテイメント性をしっかり持たせて2時間弱をスピーディに、且つ楽しめるよう描き、多くの観客を魅了した本作は、傑作であると思います。

最後に、
スローンの台詞の中でとりわけ好きだったものを2つ記し、レビューを終えます。

 あなたの感情や人生に義務を負っていない、
 目的に義務がある

 現在の社会の状況が嫌なら(不満なら)、あなたがそれを変える(改革者の)ひとりになるしかない




本作の理解を深めてくれた記事等

※鑑賞以前に私が読んだり見たりしていたものの一部につき、後で差し替えるかもしれません

⇩ この全編後編の記事は、アメリカの銃規制の現在の状況等を、広く浅く大まかに知ることができます(直近ではありませんけれどもそれほど変わっておりませんので役立つはずです)。
 記事の前編には「バックグラウンド・チェック」という言葉が出てきますけれども、説明がありませんので少し記しておきますが、バックグラウンド・チェックはその名の通り、銃の購入者の過去の犯罪歴や精神病の有る無し等のチェックを法によって義務付けることです。
 本作に登場する「銃規制法案」も、このバックグラウンド・チェックを含めた規制法案となっています。

 後編では、銃規制の厚い壁となっている「憲法修正第2条」について記されていますけれども、かなり良くまとめられており、「銃規制」を学ぶ際の良い入り口となるように思います。



 ⇩ のBBCの記事には、オーストラリアが大幅な「銃規制法」導入後に、とても良い結果が出ていることを示す証拠が記載されており、多くの人が知っておく価値があるように思います。
 というか、予想可能な結果ですよね。


 ⇩ このアメリカの規制強化(と言う名ばかり法案)に関しては、抱き合わせの案件が酷すぎて、正直デメリットの方が大きい、ほぼ無意味な法案である……と、個人的には思います

 本作が公開された時点でアメリカでは、かなりの数の州にて、精神病の有る無しや犯罪歴に関係なく銃を購入することが可能な状況にありました。
 上にリンクをペタリンコした記事等も含め、そういった状況も少し頭に置いて鑑賞すると、より本作を楽しめるように思います。



ラストの展開に関する個人的な感想 (ネタバレ注意!!!)

 鑑賞後、他の方のレビューをnoto等にて少し拝見し、「どんでん返し」というような言葉にかなりの確率で出会ったのですけれども、個人的には初見時の前半部分でも、ラストの展開はある程度予測することが出来ていたため、「えっ?」と思いました。
 本作はちゃんと観ていれば、スローンやジェーンの発言や行動から、ラストの展開の半分は前半でも予測できるよう、観客に対しフェアに作られている作品であるため、「どんでん返し」とか「予想できなかった」というような感想にはならないような気がします。
 ラストの残りの半分の予想は、中盤から後半にかけてあからさまに伏線を張っていましたから、これもラストに至るまでにある程度把握することが出来ました。というか把握出来るように作られていました。
 最後まで分からなかったのはその2つのカードをどのように組み合わせ、どのようなタイミングにて使用して勝利するのか……のみでした。
 ですから個人的な印象としては「どんでん返し」というものはありませんでしたし、むしろスローンの「最悪の状況まで考え抜いて構築した作戦通りだった」と言ったところでしょうか。

 それとラストの展開もよかったですけれども、スローンの最後まで明かされることのない数々の謎も、刺激的且つ魅力的でした。

 以下、(多くの人が「どんでん返し」と記している)ラストの展開の半分に、個人的にどのように気付いたのかを記します。

 最初に感づいたのは、スローンがロドルフォ・シュミットから直々に引き抜きの誘いを受けたあと、勝利への道筋を見いだし、それを実行出来るかどうかを確認するために、深夜にジェーンに電話した場面です。
 上のレビューにも記しましたけれども、その勝利への道筋を見出した(閃いた)時に読んでいた書籍はJohn Grisham(ジョン・グリシャム)の『The Litigators( 巨大訴訟)』で、その後の深夜の電話におけるジェーンとスローンの会話は以下の通りとなっております。

スローン:ソクラテスが何も書いていないなら、どう民衆を引き付けたの?
ジェーン:いったい何の話ですか?
スローン:会って話がしたい。

 で、ここでソクラテスがどのように行動していたのかを知っている人は、スローンが何をしようとしているかを理解するわけです。

 で、その直後のシーンで、インドネシアに視察と言う名の遊興に行くジェイコブズ議員のための書類にスローンがサインして書類を「上院倫理委員会」へ提出するようにジェーンに手渡す姿が映し出され、その行為に対してフランクリンが「厳密に言って、ロビイストは議員の海外視察を手配できないことになってます。暇なとき、倫理規定を読んだんで……」と疑問を呈するもスローンに強引にスルーされる場面があります。
 そこでまた、ピンッです。これも伏線かも……と。

 その後、会社を移籍すると宣言したスローンに対してジェーンが反旗を翻します。しかしこれはおかしい。「えっ?」と思いました。だって直前に深夜に会って話していて、その前の段階で打ち解けた様子でふたりは以下の会話をしていたのですから

ジェ―ン:やっぱり私 大学院へ行く方が良い
スローン:実社会に出るのが目的で勉強するんでしょう?
ジェーン:私実社会は苦手で……
スローン:ソクラテスでも読んで勉強するの?
ジェーン:ソクラテスって著書を残してないんですよ
スローン:論点がずれてる。実社会が苦手ならあなたが変えるしかない

 ここで、3回目のピンッ。
 で、2年間の親密な関係は野心を持ってチャンスが来るのを待っていたのだという風な言動をするジェーンと、自分を敵に回すのなら一切手加減はしないと話すスローン。おかしくないですか? 直前の深夜に会って密会しているのに(しかもその内容は描かれておりません)。
 で、またピンッ。

 その直後のシーンは、また聴聞会のシーンに戻りますけれども、スローンが弁護士の助言を守らずに、不可解なキレ方をして「アメリカ合衆国憲法修正第5条」を自ら放棄してしまいます。
 しかしながら、その少し前のシーンにて語られていたスローンの「ソクラテスが何も書いていないなら、どう民衆を引き付けたの?」というセリフとソクラテスがどのように民衆を引き付けていたのかを知っていれば、「あぁ、なるほどこれは作戦か……」と、追加でさらにピンッとくるわけです。

 その少し後の「銃規制法案」を否決に持ち込みたい組のランチのシーンでは、サンフォードはスローンに仕事を断られたため、雇うロビー会社を変更しようとしているというシチュエーションですけれども、それをされてしまうとスローンの作戦は丸つぶれとなり勝算の行方が全く分からなくなってしまうため、ジェーンが潜入することに成功していてスローンとジェーンにて「仕込み」も完了しているパット・コナーズのチーム(スローンが元居た会社のチーム)との勝負に持ち込みたいわけです。
 そこでジェーンが良い仕事をしてサンフォードの信頼を勝ち取り、パット・コナーズのチームが仕事を請け負うことになります。
 そのとき全員がランチの料理を注文するのですけれども、ジェーンは「アーミッシュ・チキン・サラダ」を注文します。このときアーミッシュの人々の生活や考え方(欲望の抑え方)についての知識が有れば、鑑賞者はピンッとくるはずです。
 ちなみに注文の前の会話にて、サンフォードはアーミッシュ・チキン・サラダを評し「パソコンが使えない(奴らが古臭い育て方で作ったチキンだ)から美味しいかな」と見下して馬鹿にしています。ですからジェーンはアーミッシュの人たちのことを思いその立場に立って、あえて「アーミッシュ・チキン・サラダ」を注文したのでしょう。しかしそれを見たサンフォード達はジェーンの真意を見抜けず、ジェーンが場の笑いを取るために注文したものと誤解し、皆で下卑た笑いを発します。
 ※あとアーミッシュの人々はしっかりと「規制」を設けることにより、現代の利器であるパソコンを使用しております。ですから脚本家はその辺りの事情も知っていてこのシーンを記したはずです

 その後しばらくしてパット・コナーズのチームにて「銃規制を訴える母の会」の映像を観て対策を練るシーンがありますけれども、そのシーンにおいては、銃により娘達を失ったパターソン家について、パット・コナーズがパティンソン家と名前を言い間違えるシーンがあり、ジェーンはムッとした感じで「パターソン。彼らの名前はパターソンです」と訂正するシーンがあります。
 ここでまたピンッとくるわけです。というのも、ジェーンが銃による被害者の人々の側に立ってものを考えていることがわかるからです。ちなみにジェーンの訂正に対しパット・コナーズは「名前なんか、どうでもいい」と言い放ちます。
 ジェーンはまだ未熟ですから正義感が先行してしまい、あわやと言うシーンも多く、もしパット・コナーズがスローンのように鋭い洞察力を備えていたなら、スローン側のスパイであることを見抜かれてしまっていたことでしょう(見ていてかなりヒヤヒヤしました)。
 
 そんなこんなでそこまで観たところで、私は120%確信しました。ジェーンは間違いなくスローン側であるということを(ジェーンはソクラテスを学ぶような子で、スローンの付き人を2年も勤めあげたうえに、且つスローンが暗にこのまま一緒に働かないかと誘うような子ですからね)。
 
 そしてそこまで描いた後、今度はチームスローン側の裏切り者をスローンが自ら見つけ、排除するという展開が描かれてゆきます。
 資金力(カネ)では大きく負けていても、その差を別の部分(知恵)により相殺し勝利を手繰り寄せてゆく過程は、観ていてとても爽快でしたし楽しかったです。

 というわけで、本作はちゃんと観ていれば初見でもある程度予想がつくように(推理できるように)、ヒントはいくつもあるわけです。
 ※初見時は気付けませんでしたけれども、他にもオープニングの聴聞会への準備のシーンにて、スローンが身支度中に「薬」を捨てていたり、弁護士に言う「ダニエル、証人台に立ったら【厚い壁になる】」というセリフと表情であったり等々……本当にいくつものヒントが上手に散りばめられています
 ですから「どんでん返し」とか「全く予想できずに驚いた」とレビューしている方達は、もしかすると上記したようなサインを「全て見逃してしまっていた」のではないでしょうか。
 まぁ、そういった楽しみ方も全然アリですし、見抜けても見抜けなくとも観客を楽しませてしまう本作の素晴らしい魅力を感じるわけですけれども……
 ただ、観ていて全くラストを予想できなかったという方達は、ロビイストのような職業には向かないでしょうね。


 

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