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T字迷路にアメとムチを仕掛けたときのマウスの行動

恩威並行(おんいへいこう)
→ 人の上に立つ者は、賞罰のバランスが大切だということで、飴と鞭を意味する。

アメとムチという言葉の意味は、人を思いどおりに動かしたり、意欲をかき立てたりするときに、自分の意図どおりに動いてくれたらアメ(報酬)を与え、意図どおりに動かなければムチ(罰)を与えるというものだ。

そもそもは、1880年代のドイツのビスマルクのとった国民懐柔策で、一方では弾圧法規を制定し、また一方では国民生活に役に立つ政策を実施したことからきている。

果たして、このアメとムチは実際に効果があるのだろうか。

マウスによる行動心理学の実験

アメとムチに関してマウスを使ったこんな実験がされている。

T字型の迷路をマウスに歩かせて、T字の部分に差しかかると、マウスを常に右側に進ませるようにしたい。

そのために、T字の右側に行けばクッキー(アメ)が食べられるようにして、左側に行けば電気ショック(ムチ)が流れるように設計した。

何回かこの迷路に挑戦させると、マウスは常に右側に進むようになるという。

まさに、アメとムチの効果が現れている。


ところが、電気ショックの強さを少し強くすると、全く別の結果になる。

その結果とは、全く効果が得られなくなるというというものだ。

実際にどうなったかというと、マウスが間違って左側に進んだときに強い電気ショックを流すと、その場でうずくまって動かなくなってしまったのである。

その後、再びT字の迷路にトライさせてみても、マウスは右にも左にも行かなくなるそうだ。

無気力なマウスになってしまうというのである。

それから、この実験をしたマウスの容体を調べてみると、すべてのマウスがストレス性胃潰瘍を発症していたという。

ここから、ムチを恐れてトライすること自体をしなくなる、リスクを冒してまでクッキー(アメ)を取りに行く意欲がなくなってしまうという結果に繋がることがわかった。

要するに、ムチを与えすぎると防衛本能の方が強く働き、行動そのものを起こす気力が萎えてしまうのである。


また、軽度の電気ショックをムチとして続けていく場合にも変化が起きる。

軽度の電気ショックを連続で与えても、結局は飽きがきて、アメがもらえて当然だという気持ちになる。

すると行動意欲は停滞し、怠惰な気持ちが生まれてくるのだ。

そう、アメとムチだけではやる気を維持できないのである。

人間にとってアメとムチは必要か?

一般的に、お金や褒め言葉など、相手が喜ぶようなインセンティブを与えることで、やる気を引き出そうとすることが広く行われている。

マウスでは最終的に行動意欲が停滞し怠惰になることが確認されているのに、人間では継続できるのだろうか。

マウスの実験で行ったことは、心理学では外発的モチベーションという。

自分の心の中に興味や関心といった頑張る理由を持っているのではなく、お金や叱責のような、自分の心の外に理由が存在して発生するモチベーションのことだ。

確かに、こうしたやる気の引き出し方は、シンプルで即効性がある。

けれども、この外発的モチベーションを効果的に発揮させるには、TPOが重要となる。

外発的モチベーションを効果的に発揮させる3つのポイント


・いつ:ただちに
・どこで:多くの人の前で
・どんな場合に:思いどおりの動きをしたらアメ、思いどおりにいかない動きをしたらムチ

この3つのポイントを押さえることができれば、外発的モチベーションを効果的に発揮できるという。

とはいえ、所詮人間も慣れてしまう生き物だ。

やる気を促すためのアメの正しい与え方としては、次のことを実行しなければいけなくなる。

・一度与えたアメは永久に与え続ける
・与えるアメは常にアップグレードしていく必要がある
・アメを与えるタイミングをどんどんはやくする

アメを与え続けるにも、難しいコツやテクニックが重要になるのだが、当然その弊害も出てくる。

例えば、純粋にパズルを楽しんでいた学生たちに、パズルを解くたびに報酬を与えるようにした実験が行われた。

その結果、そのパズルへの関心は一気に冷めてしまうことがわかった。

つまり、いくらアメを与えたとしても、心の奥底では自分の意思や自分の気持ちで物事に取り組みたいという本質的なものが人間には備わっているということだ。

いくらインセンティブを与えてもやる気が起こらないという状態が一定の条件で生まれるのだ。

ムチの効果はアメよりも難しい

ムチの特徴は下記のとおりだ。

・ストレスがかかる割に情報が伝わらない
・アフターフォローが万全であればムチの効果は出てくる
・乱発すると相手は全く動かなくなる

とりわけ、3つ目に書いたことが全てといっても過言ではなく、結局はムチを打つタイミングが難しいということだ。

なにかしらの罰則を設けたとしても、そのギリギリ上の通過地点を狙うという設定になる。

となると、最低限はクリアすればいいというマインドになるので、それ以上は頑張らないということに繋がるのである。

心の底からやる気を出させるためには?

アメとムチの効力はなかなか発揮させることが難しいということは理解できたと思う。

となると、必要なことは目標を立てることだということに行き着く。

ただし、その目標設定が大切で、目標を設定する際には、その人の心を動かすような適切なレベルを考慮しなければならない。

壮大過ぎる目標や万人受けを狙ったような目標では意味がない。

先述したマウスの実験でも証明されていることがある。

それは、電気ショックを受けているマウスを3つのグループに分けて、そのストレスの度合いを解剖して観察するというものだ。

1)スイッチを1回押せば電気ショックが止まるグループ
2)なにをしても電気ショックが止まらないグループ
3)スイッチを8回押さなければ電気ショックが止まらないグループ

果たして、どのグループのマウスが最もストレスを感じていたか、わかるだろうか。

一見、2)を選択する人が多いと思うが、実は3)のグループのマウスの胃潰瘍のサイズが大きく最もストレスを感じていたのである。

8回スイッチを押すことはマウスにとっては途方もなく難しい課題だ。

でも、頑張ればなんとかなるという環境なのだから、乗り越えそうに思えるのだが、実はそういう環境こそが生き物にとって最も過酷な状況なのである。

8回押さなければという大目標を課されたマウスは、一切目標を課されずになにをしてもダメという状況のマウス以上にストレスをためてしまっていたという結果は興味深い。

まとめ

目標を設定することはやる気を促すために重要なことだ。

けれども、大きな目標だけを与えられている状態では、やる気が薄らいでいくばかりか、次第に心身を崩してしまうことになることも考えなければいけない。

心理学では、目標の立て方を遠隔目標と近接目標の2つの概念から考えるとされている。

遠隔目標とは、大きな目標のことで、遠くに立てられた旗のようなイメージだ。

それに対して、近接目標とは、遠隔目標として立てられた旗へと近づくために、今すぐなにをするのか具体的な目印のことだ。

遠くの目標を目指すとき、それに繋がる目下の目標が与えられて、それをこなしていけば大丈夫だと明確に示される状況が必要なのである。

遠い目標は、近い目標とセットにして提示されなければ、ストレスが掛かるだけだということを今一度頭に入れておきたい。

アメとムチについて、今一度考えるいい機会になった。


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植田 振一郎 Twitter

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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。