今さら聞けない時効という概念と時効の成立と中断
世の中には一定の悪人がいて、悲しいかなこれはゼロにすることはできない。
犯罪を犯す人をどのように捉えるかは人それぞれだし、一定の確率で冤罪というものは存在するので、一概に全ての事件の犯人を悪人、危険人物とする考え方こそ危険だ。
とはいえ、世の中には明らかに悪人と呼ばれる危険人物がいることも事実で、犯罪を犯したとされる人がなかなか捕まらないということもある。
日本の警察の事件解決能力は世界的にも高く、故に日本は世界でもトップクラスの治安の良さを誇っている。
けれども、やはり100%ではない。
時効を迎えた事件というのは、しばしば話題になるし、未解決で永遠に葬り去られてしまう。
今さら聞けない時効ってなぁに?
犯罪には時効がある。
正確には公訴時効といい、公訴時効とは一定期間の経過によって検察官が被疑者を起訴できなくなる刑事手続きの制度のことをいう。
公訴時効とは、犯罪が発生した時点から一定期間にわたって公訴が提起されなかった場合に、検察官の公訴権が消滅することを意味します。
公訴とは、検察官が罪を犯したと疑われる人物に対する有罪判決を裁判所に求めることをいう。
犯罪が発生して長い時間が経過すると、被害者や社会が持っている厳しく罰するべきという処罰感情が弱まり、処罰の必要性が失われる傾向にある。
また、時間経過によって重要な証拠が散逸することで、刑事裁判における適正な審理も期待できなくなるということもある。
こういった事情から、公訴時効の制度が設けられているというわけだ。
また、近年では迅速な裁判の保障や一定期間にわたって起訴されていないという事実状態を尊重するといった考え方も公訴時効が設けられている理由だとされている。
公訴時効の起算点
公訴時効の計算が始まる、つまり起算点は、犯罪による結果が発生したときだ。
刑事訴訟法第55条1項には、時効期間の初日は、時間を論じないで1日としてこれを計算すると明記されている。
例えば、1月1日の0時ちょうどに起きた事件も、1月1日の23時59分に起きた事件も、時効計算の上では同じ1月1日として扱われ、この日が起算点となる。
それから、共犯者が存在する犯罪で、犯行が2日以上に渡って実行された場合は、最終の行為が終わったときが起算点となることも知っておくといいだろう。
また、2010年(平成22年)の刑事訴訟法改正によって、人を死亡させた罪であって死刑にあたる罪の公訴時効が廃止された。
この改正によって、改正法が施行されるまでに時効が完成していない殺人など凶悪犯罪の一部については公訴時効が適用されなくなった。
なお、この改正では、人を死亡させた罪のうち死刑にあたらず懲役・禁錮にあたるものについて公訴時効が延長されている。
公訴時効が完成する期間
公訴時効が完成するという表現よりも、時効が成立するという言い回しの方がピンとくる人が多いだろう。
犯罪の種類から公訴時効が完成するまでの期間、時効が成立する期間は下記のとおりだ。
人を死亡させた犯罪で、法定刑が禁錮以上のものは、法定刑に応じて公訴時効が異なる。
この場合の公訴時効は、刑事訴訟法第250条1項に明記されている。
死刑にあたる罪:時効なし
無期懲役・無期禁錮にあたる罪:30年
法定刑の上限が20年の懲役・禁錮にあたる罪:20年
法定刑の上限が懲役・禁錮で上記以外の犯罪:10年
刑事訴訟法第250条2項では、その他の犯罪についても法定刑の重さに応じて公訴時効が明示されている。
死刑にあたる罪:25年
無期懲役・無期禁錮にあたる罪:15年
法定刑の上限が15年以上の懲役・禁錮にあたる罪:10年
法定刑の上限が15年未満の懲役・禁錮にあたる罪:7年
法定刑の上限が10年未満の懲役・禁錮にあたる罪:5年
法定刑の上限が5年未満の懲役・禁錮にあたる罪:3年
拘留または科料にあたる罪:1年
刑事訴訟法上の表現だといまいちわかりにくいので、ぐて大敵に身近な犯罪の公訴時効を見ていこう。
窃盗罪(刑法第235条)
万引きなどの窃盗罪は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金なので、法定刑の上限が15年未満の懲役・禁錮にあたるため、公訴時効は7年となる。
傷害罪(同第204条)
喧嘩などで相手に怪我をさせてしまう傷害罪は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金なので、法定刑の上限が15年以上の懲役・禁錮となり、公訴時効は10年となる。
その他、脅迫罪(同第222条)は3年、横領罪(同第252条)は5年、詐欺罪(同第246条)は7年、業務上過失致死罪(同第211条)は10年といった具合だ。
公訴時効の停止
罪を犯して結果が発生した時点で公訴時効の計算が始まるのは先述したとおりだ。
ところが、計算上は公訴時効の期間が経過していても時効が成立しないことがある。
時効の停止が起きると、公訴時効の進行が停止するのである。
時効の停止とは、時効が停止する事情がある期間、時効の進行が止まることをいう。
公訴時効が停止すると停止期間分の日数は算入しないため、起算点から計算すると時効が成立している場合でも検察官は公訴を提起できる。
そして、公訴時効が停止する要件は、刑事訴訟法第254条と第255条1項に明記されている。
検察官が当該事件について公訴を提起した場合
共犯のひとりに対して検察官が公訴を提起した場合
犯人が国外にいる、または逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合
公訴時効の停止を受けた後、時効が停止する事情がなくなった場合は、停止前までに進行した期間から引き続いて進行が再開する。
民法上の時効では、それまでに進行してきた期間がリセットされて再び起算点が設けられる更新が存在するが、公訴時効にはこのような制度が存在しない点は注意が必要だ。
公訴時効直前および直後の逮捕
時効直前では、逮捕および起訴される可能性は低いといわれている。
法律の規定に従えば、時効成立の前日でも逮捕および起訴は可能だ。
ただ、逮捕後は逮捕事実に関する取り調べや送致手続きに時間がかかり、送致を受けた検察官も起訴あるいは不起訴を判断するためには取り調べや証拠の精査に時間を要する。
どんなに急いでも数日で捜査を遂げるのは不可能なので、時効成立の直前で逮捕および起訴される可能性は低いというわけだ。
一方で、時効成立までに数週間から1ヶ月程度の時間があれば、逮捕および勾留して取り調べを尽くす時間は十分だ。
この程度の時間的な余裕があるケースでは、警察が逮捕に踏み切る可能性が高い。
それから、警察が時効計算を誤って逮捕に踏み切ってしまうケースも実際に存在する。
例えば、令和3年3月には、児童買春・ポルノ禁止法違反の容疑で会社役員の男が逮捕されたが、すでに時効が成立した事実での逮捕だった。
この事例では、逮捕後に逮捕状を請求する緊急逮捕によって身柄を拘束し、裁判所への令状請求の段階で裁判官の指摘によって時効成立が判明した。
警察が時効成立に気づかず誤認逮捕してしまった場合でも、検察官や裁判官が誤りに気づけば釈放されるというわけだ。
まとめ
時効とか時効成立という概念について、ある程度は理解できたと思う。
公訴時効という言葉、公訴時効の完成という表現が一般的には、時効、時効の成立と置き換わっているというわけだ。
公訴時効が成立すると、検察官が起訴できなくなるため警察によって逮捕されることはない。
けれども、一部の犯罪では公訴時効の制度が撤廃されていたり、思いがけず時効の進行が停止している場合もある。
もちろん、犯罪を犯すことを推奨などするつもりもないが、制度のことを知っておいて損はないはずである。
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