詩歌ビオトープ019: 坪野哲久
詩歌ビオトープ19人目は坪野哲久です。
この人は1906年に石川県で生まれました。大学に行くために上京、大学生のときにアララギに入会して島木赤彦に師事しました。でも、すぐに島木赤彦が亡くなってしまうのですね。
その後は新興短歌連盟に参加、大学卒業後は東京ガスに入社します。で、労働組合運動に参加しながらプロレタリア短歌を推進していきました。この頃は、自由律短歌をしていたそうです。でも、労働組合運動をやっていたことが原因で東京ガスをクビになり(すごい時代ですね)、その後は「蟹工船」の版元である戦旗社で働いていましたが、戦旗社の社員であったという理由で検挙(なんて時代だ)、その後はまた別の仕事をしたりと、職を転々としていたそうです。
歌人としては、第一歌集「九月一日」を24歳のときに刊行、これは先述の自由律短歌の歌集でした。戦後は文語定型短歌に移行し、「桜」や「北の人」、「碧巌」などの歌集で知られています。
さて、いつもの通り、参照するのは小学館の昭和文学全集35です。
本書には、「桜」から56首、「北の人」から49首、「碧巌」から66首の合計171首が収められていました。
で、僕の分類ではxが12、yが8で音楽的かつ自然主義的な人になりました。
ちょっとこれは、我ながらびっくりしました。読みながらカウントしていたときの感じでは、もうちょっと写実的な感じがしたのですが、まあ、計算上こうなったので仕方ありません。
なんというか、オールラウンダーな歌人だな、と思いました。プロレタリア短歌で有名ということなので、土岐善麿とかに似た感じかなと予想してたのですが、むしろ前川佐美雄風の幻想的な歌もたくさんあったし、さすがアララギから入った人なだけあって自然詠もいい歌がたくさんありました。
「碧巌」の中にこんな歌があって、この歌はまさにこの人のことを表していると思いました。
どっちでもないのではなく、まさにどっちものエキスが混ざって、しかも濃い油としてどろっと出てきているような、そんな感じ。
たとえば、こんな歌。
これなんかは、幻想的な光景、あるいは夢の描写のような、そんな感じがします。実際、夢を詠った歌も結構ありました。その辺は、前川佐美雄ばりのシュルレアリストっぽい。
かと思えば、
のような、社会の底辺をじっと見据えているような歌もあり、かと思えば
のような生活感のある歌もある。なんかもう、すごい振れ幅です。本当に短歌が好きで、とにかくありとあらゆるものを詠んでいった、そんな感じがします。
ちなみに、この人の遺作となった歌集「人間旦暮」には、なんと1240首も収められているのだとか。もう本当に、とにかく死の間際まで詠んで詠んで詠みまくった人なのですね。そしてまた、歌にもその生と歌へのバイタリティが溢れている、そんな気がしました。すごい。そして濃い。
ということで、20人目に続く。
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