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恋が実らなくてもタルトを食べよう


恋人とお別れをした。生後4ヶ月のトイプードルが家族になった。短かった髪を伸ばし始めた。肌荒れが綺麗に治った。少しだけ夜に眠れるようになった。


あの日から数週間が経った。何をしても誰といても、やっぱり同じ記憶を思い出してしまうし、あの日の夜の君の涙の意味を探し続ける毎日だった。ほんの少しの寄り道だったり、わからない程度のスパイスだったり、そんなものでなんとか誤魔化して、溢れそうになる感情に蓋をした。

連絡するとかしないとか、会いに行くとか行かないとか、話しかけるとかかけないとか、そういう細かな駆け引きが恋愛には欠かせなくて、安心感とか安らぎだけでは退屈してしまうし、刺激だけでは不安になってしまうし、こんなもの一生習得なんてできる気がしない。

世に出回っている恋愛攻略本だとか、恋占いなんて一つも当てになんてならないし、彼の行動が、発言が、何を意味するのかなんて私にはさっぱりわからない。ただ今一つだけはっきりと確信していることは、私は彼に惹かれているということだけで、そんなもの何の役にも立たないじゃないかって思ったり、それだけで空をも飛べちゃいそうな気分になったり、心も身体もここ数日はずっと忙しなく走り回っている。


恋って会わない時間に生まれるものだって何かで聞いたけれど、それを真だとするのならやっぱりこれは恋で、案外人って簡単に恋に落ちるのだと思ったりして、その反対側で何かを諦めるような感情が芽生えたりもして、やっぱりなんだかずっと忙しない。

最近の私、なんか、どこか忙しないのだ。


夢ができた。ずっと変わっていないけれど、改めて夢だと思えた。夢の中で、夢を叶える私を見た。やっぱりそれは夢だったけれど、夢のような夢だった。


世界は残念ながら夢と希望に溢れてはいないし、絶望感と孤独に苛まれて眠れない夜はあるし、目的もなく歩き続けた先が楽園なんてこともやっぱり起こらないのだけれど、ふと見上げた空がオレンジ色に染まっていたり、俯いて泣いていたら目の前に綺麗な花が咲いていたり、そんな愛おしい瞬間はどこかにちゃんと転がっていて、ずっとそうして、丁寧に、慎重に、この世の均衡は保たれているのだと思う。


彼からの突然の電話で目覚めた夜に、大事なブレスレットが千切れてしまった。

やっぱり、バランス。平衡?釣り合い?大切なのは、調和なのだ。

時に素直で軽快な女よりも重宝されるのは、頑固で鈍重な女で、時に恋は安定よりも刺激が求められたりするから、理由なんてどこかにあるようでないのかもしれない。


親友に彼の話をした夜。

「上手くいってもいかなくても、私と一緒にタルト食べようね」

そう言われて、携帯の画面に映る私の顔が思わず綻んでいた。

素直で軽快な女は好まれなくても、やっぱり私はそうでありたい。あなたの好む私ではなくて、私の好きな私でいたい。そう思えたの。

まあ、どっちにしてもタルト食べられるしいっか。

彼女に、彼女の言葉に、またまた救われた夜。


とびきり甘いイチゴのタルトを口いっぱいに頬張りながら、とびきりの笑顔の彼女の隣で、とびきり愉快な話をするシーンを頭にそっと浮かべながら、眠った。



恋なんて、盲目で構わないのだ。

私の世界は今日も、愛に満ち溢れているの。






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