日本国憲法とウクライナ戦争
アメリカでトランプ大統領は勝利したら、ウクライナ戦争はどうなるのか。同氏は「1日で戦争を終わらせる」と述べている。
どういう形で終結させるつもりなのか。
ロシアのプーチン大統領は「ウクライナという国はもともと存在していない」と主張しており、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ソ連の占領から解放されたウクライナ共和国の主権を維持する」立場だかから、折り合うはずがない。
1938年のミュンヘン融和※のようなことを他国が取り決めても、それが恒久平和の礎になることはなく、かえって後により大きな戦争の惨禍をもたらすことになるというのが、歴史に詳しい人の共通認識だ。
※ヒトラーがチェコのズデーテン地方の割譲を要求した際、当事国のチェコの頭越しに、英国、仏国がその要求を承認した外交事案。英仏の譲歩によって戦争を避られたと称えられたが、結果は逆で、ヒトラーは図に乗って新たな領土要求を繰り返すことになり、第二次世界大戦という大惨禍に発展した。
ウクライナ戦争の帰趨は、「台湾有事」問題に直面しているわが日本にとっても自身の問題である。国論をどうまとめ、この国難に対処すべきか。
いろいろな主張がかまびすしく論じられているが、ここでは純粋に日本国憲法(特にその趣旨を明確に表明している『前文』)の純粋解釈の立場から考えてみよう。
他国とはいえ、戦争状態が続くのはよろしくない。
前文では、日本国民のみならず「全世界の国民が…平和のうちに生存する権利を有する」のであり、「われら(日本国民)は、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」と宣言している。
ウクライナとロシアのどちらに義があり、どちらに非があるのか。
これはもう明らかである。岸田総理自ら、「力による現状変更の試みを認めない」と再三再四繰り返しているのだから。悪いのはロシアであって、支援されるべきはウクライナである。
とは言え、いつまでも戦争を続けていると戦争による惨禍は拡大するばかりであるから、早期終結を考えなければならない。これがトランプ氏の真意だろう。
以上を前提に終結案を考える。
従来ロシアの軍事力は強力で、ヨーロッパで対抗できる国はひとつもないと考えられてきた。束になれば対抗できるかもしれない。そうして作られたのがNATO軍事同盟であり、西ヨーロッパ諸国が束になるだけではまだ不足ということで、アメリカやカナダも加わった。
ところがウクライナ戦争で明らかになったのは、ロシアの軍事力はウクライナを多少凌駕する程度に過ぎないことだった。力が均衡状態にあることで戦争は長引いている。これを早期に終わらせるには?
NATOの全軍が、ウクライナに終結し、ロシアとの国境線に殺到すれば、戦争は数日で終わるだろう。陸上兵力の前に、航空戦力をウクライナ上空に全面展開するだけで、ロシアの将官たちは怖れをなして兵を退くはずだ。プーチンによる粛清は怖いが、NATO軍によって配下の部隊兵士が全滅させられるのを避ける指揮官の使命感の方に忠実であろうとするだろう。
この図式は当初から指摘されていた。バイデン大統領が「NATO軍は介入しない」と軽々に宣言しなければ、戦争は長引いていないし、そもそもプーチンが進軍を命じることはできなかった。ただこの時点ではロシアの軍事力への過大評価があった。(現に、事前にはウクライナは三日も持たないだろうと軍事専門家が指摘していた。)
アメリカの新大統領には、戦争早期終結の二つの選択肢がある。一つはウクライナの頭越しにロシアのプーチンと交渉すること(プランA)。
もう一つは、バイデン氏の非介入方針を撤回し、NATO軍の戦争介入を同盟国に働きかけること(プランB)。
戦争終結に重きを置くならば、どちらが現実的か。答えは明らかなはずだ。そしてわが日本はどうすべきか。先に紹介した日本国憲法の立場では、ヨーロッパ諸国にプランB選択を働きかけることであろうし、要請があれば積極参加することになる。そうすることで憲法が明記する「日本国家の名誉」を実現することができる。
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