無花果の木
いちじくが好きだ。
どんな味?と言われるとものすごく困る。
すごく甘いというわけでもない。
酸っぱいということもない。
種がプチプチしていて、
ちょっともやっとした風味で、
でもほっこり心が温まるような、優しい味がする。
実家の庭の隅にいちじくの木が生えていた。
あたたかくなると その木の幹の細さに不釣り合いなほど、とても大きな葉を茂らせるので、木の下には日陰ができる。
4年前に亡くなった愛犬は、よくそのいちじくの木の下で涼んでいた。
夏になって、実がたくさんなる。
その実で母とコンポートを作る。
次の日の朝食に出るヨーグルトにはそのコンポートがたくさん入っていた。
ヨーグルトにコンポートが入っているのか、
コンポートにヨーグルトをかけているのか分からないくらいたっぷり。
今でもいちじくを食べると、あの夏の日を思い出す。
いちじくの木の下で暑そうに舌を出して呼吸する愛犬が見える。
その顔が笑っているように見えるから愛おしい。
彼が死んだ時、骨をいちじくの木の下に埋めてやるか最後まで迷って、結局雨や雪を凌げる軒下に埋めてやった。
彼が死んだのはまだまだ寒く、雪もちらつく初春のことだったからだ。
今でもいちじくの木の下で、彼が笑っているような気がしてならない。
私が小学生の時に彼は我が家にやってきた。
そして私と彼は一緒に成長して、私は家を出て、ひとりでも生活できるようになった頃、
役目を終えたかのように、彼は亡くなった。
未だに彼の不在を受け入れられない私は、何かにつけて一緒に過ごした日々を思い出す。
いちじくを食べると、彼と過ごした夏休みを思い出すから、私はいちじくが好きだ。