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ホラーじゃない、「ふざけっぷりを笑うゲーム」だ! 実は奇怪なアクションゲームとして楽しい『野狗子: Slitterhead』

2024年11月8日にリリースされた『野狗子: Slitterhead』はあまり芳しくない評判になっている。Metactiricの評判は62/100(記事執筆時点)で、期待を大きく下回るといってもいいだろう。

その状況を見て筆者は恐る恐るプレイしてみたのだが、思っていた以上におもしろく感じた。とはいえ否定的なレビューに対して真っ向から反論したいわけではなく、“ゲームに対する捉え方”が異なるがゆえに楽しめているようなのだ。

逆にいえば、『野狗子: Slitterhead』に対する印象を変えれば楽しむことができるようになるユーザーも増えるかもしれない。5つの注意すべきポイントを書き記しておこう。

1:ホラーではなく「奇怪なアクションゲーム」である

敵と戦っているとき、なぜかそばに一般人が“湧く”のが本作の特徴。
『野狗子: Slitterhead』

「SIREN」シリーズの外山圭一郎氏がクリエイティブディレクターを担当しているということもあり、本作をホラーだと思っている人もいるかもしれない。しかしそれは誤りで、本作にはまったくと言っていいほどそういった要素はないのである。

『野狗子: Slitterhead』はむしろ、“奇怪なアクションゲーム”といえる。とにもかくにもふつうの物差しでは測れないのだ。

本作には「野狗子」(「やくし」と読むが、読みづらいので以降はモンスターと表記)と呼ばれる怪物が現れる街を舞台に、特別な力を手に入れた人間たちが抗う物語である。

『野狗子: Slitterhead』

プレイヤーは記憶と肉体を失った幽体のような存在「憑鬼(ひょうき)」となり、さまざまな人間の力を借りて戦っていく。一般人はもちろん特別な「稀少体」(いわゆるメインキャラクター)も存在する。つまり、メインキャラクターが複数体いるうえに一般人も使える奇妙なアクションゲームなのだ。

ゲームシステムは一見すると一般的な3Dアクションゲームに見えるかもしれない。なんせチュートリアルでは、「ディフレクト」と呼ばれるパリィのようなシステムを教えてくれるのだから、そうやってうまく攻防するゲームと思ってもなんらおかしくない。

敵の背後からガドリングガンを当てると、相手はヒットストップで動けなくなり撃ち続ける限りHPを削ることができる。そういうズルで勝つゲームなのだ。
『野狗子: Slitterhead』

しかし、そこもふつうとは一味違う。キャラによってはショットガンやガトリングガンが近接攻撃を凌駕するほど強かったりと、常識の通じない思い切ったアクションゲームなのである。

2:怖いゲームではなく「ふざけっぷりを笑うゲーム」である

ユムシのようなモンスターもいる。怖さよりも下品なジョークを感じる。
『野狗子: Slitterhead』

本作のモンスターは内蔵をひっくり返したような姿、あるいはマンガ『寄生獣』から多大な影響を受けたようなデザインだが、怖さはほとんどない。なぜなら、プレイヤーはそれを狩る側だからだ。

モンスターは確かにか弱い一般人を殺しまくるが、プレイヤー側のキャラはその死を免れるし、その後は追いかける側に回る。そもそもゲームプレイ中、モンスターを追いかけ回すシーンが非常に多いのだ。

そして、バトル中の行動を見てみれば「怖さ」よりも「おもしろさ」が勝るゲームであることがわかるだろう。

マインドコントロールされた一般人に袋叩きにされ殺されるモンスター。モンスターが「我々はか弱い だからあまりいじめるな」とでも言い出しそうだ。
『野狗子: Slitterhead』

メインキャラクターのうちひとりは、一般人を召喚したうえマインドコントロールしてモンスターに突撃させられる。序盤はこれがとても強く、モンスターは押し寄せる一般人になすすべなくボコボコにされて死んでしまう。笑うしかないだろう。

そのうち主人公たちはスパイダーマンのように看板に触手をひっかけて高いところへ飛ぶし、一般人を爆弾にして突撃させることもできるようになる。なかなかぶっ飛んだアクションゲームなのだ。

そして、バトルの定石もふつうのアクションゲームとは違う。確かにディフレクトで真面目にやる方法もひとつなのだが、むしろそれは効率が悪い。

憑依を繰り返して後ろから殴り……というチキン戦法が安定する。
『野狗子: Slitterhead』

本作の効率的な攻撃方法は、「一般人を切り替えまくってとにかく敵の背後からぶん殴る」「モンスターの背中をガドリングで撃ちまくってハメ殺す」など、まともなやり方ではない。

メインキャラクターも謎の過去を抱えるホームレス、足腰の弱いおばあちゃん、メガネの優等生など、とにかくユニークな存在が揃っている。多様性を逆手に取ってふざけているかのような状態だ。

プレイ中は「同じおじさんのように見えるが、よく見るとパンツの色が違う!」と興奮していた。
『野狗子: Slitterhead』

私はこのゲームにうまく馴染めたので、ゲームプレイ中にどんどんふざけるようになっていった。真面目なミッション中にパンツ一丁&長靴のおじさんに憑依し、双子を探す遊びをはじめてしまったほどである。

3:AAAタイトルではなく「小規模なタイトル」である

『野狗子: Slitterhead』

本作は随所に予算の限界を感じるタイトルである。

キャラクターのグラフィックはモブとメインキャラクターで差が激しすぎるし、ボイスは一部カットシーンのみ。各キャラと会話できる場面もあるのだが、そこもカットシーンにはなっておらずイメージ映像が流れながらテキストが表示されるのみだ。

一番厳しいのが、同じステージを何度も繰り返すところにある。本作はタイムリープものなのだが、ストーリーのためにそうしているというより、実態としては水増しのためにそうなっているのだろう。

泣き言を言いながら逃げるモンスター。自然とプレイヤーも「オラッ! 待てッ!」と言う側になる。
『野狗子: Slitterhead』

同じ時間帯・場所・シチュエーションのステージをどうしても使いまわしたいのがよくわかる。なぜなら、このゲームは同じ場所で似たようなミッションを何度も何度も繰り返すうえに、最終的にそれらをもう一度やり直すような流れになるからだ。

先ほどモンスターが逃げ出すシチュエーションが多いと書いたが、それもおそらく引き伸ばしのためだろう。一昔前のソーシャルゲームが「敵が現れたから会話は後回しだ!」とやっていたように、本作ではモンスターが逃げ出すことによって話を先送りにするのである。

『野狗子: Slitterhead』は決してリッチな作品ではなく、限られた予算のなかでやりくりしているゲームだと理解すべきだろう。ゆえに苦い部分もいくらかは飲み込む必要がある。

4:ストーリーは別にモンスターものではない

『野狗子: Slitterhead』

本作は、「九龍と呼ばれる街にモンスターが出てきてたいへんだ!」という導入なのだが、実際のストーリーはそこからどんどん離れていくことになる。

前述のようにモンスターは人間に狩られる側であり、早々に軍隊が登場して捕獲を試みている。こうなると物語はモンスターが主題ではなくなる。ネタバレになるので詳細は避けるが、とりあえずタイムリープものといったほうがよいだろう。

アクションゲームでは、ストーリーはおまけ扱いになるケースもしばしばある。ましてや前述のようにリッチなゲームではないわけで、ストーリーにはあまり期待しないほうがよいだろう。

5:中盤でやめてよい

『野狗子: Slitterhead』

『野狗子: Slitterhead』を楽しむうえで最も重要なのが、途中でやめることである。

コアなゲーマーほどどんな作品でもクリアを目指すかもしれないが、状況によっては投げ出すことも重要だ。読書においても興味のない章は読み飛ばしてもよいし、映画の間延びしたシーンではポップコーンに集中してもよい。ビデオゲームもまた、(娯楽として受け取るのであれば)すべてを完全に鑑賞・体験する必要はないのだ。

私は確かに本作を楽しんでいた。しかし、それはあくまで中盤までの話である。終盤の同じステージのやり直しラッシュ&モンスターがひたすら逃げまくる作りは、さすがに心が折れそうになった。

筆者の感じた楽しさを大雑把なグラフにするとこんな感じ。終盤までプレイした人の評価が下がるのも理解できるような右肩下がりだ。

逃げるモンスターは頑張って攻撃しても倒せず、必ず次のイベントまで追いかける必要がある。そしてイベントの場所へ行くと邪魔するザコがでてきて足止めされ、それを倒すとまた追いかけっこの再開……を何度も繰り返す。もはやゲームプレイ自体がループしているのではと勘違いしそうになるほどだ。終盤はこういうミッションを何度もやるのだから嫌になって当然である。

筆者は本作をクリアするまで約12.5時間かかったが、その半分くらいは同じミッションをやり直していたのではないかと感じるほどだった。ゆえに、本作の終盤は擁護不能である。

『野狗子: Slitterhead』は、一般人がモンスターをボコボコにしている姿を眺めて楽しんだり、裸のおっさんになって暴れまわったり、ゲラゲラ笑いながら一般人自爆をさせるようなゲームである。

そして、「繰り返しが増えてきたな」と思ったらコントローラーを置くべきゲームだ。アップデートで根底から大きく変わらない限りは、この認識が本作の魅力を保つ最も重要な方法となるだろう。

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