百合ゲーぜんぜんやらない人が『Sugar,sugar,sugarcoat』で心打たれたよ
※『Sugar,sugar,sugarcoat』のネタバレを含みます。
パンくず工房の『Sugar,sugar,sugarcoat』というノベル・アドベンチャーを遊びました。いわゆる百合ゲーなので(詳しくはロマンシス寄りらしい)僕の守備範囲外なのですが、興味深かったので感想を残しておきます。
本作の主人公である「ヘレナ」は、学園でさまざまな少女たちと交流していきます。そのうち彼女たちの秘密を知り親しくなっていくわけですが、それ自体は目的ではありません。
では何が目的なのかというと、悪魔である「マリー」に愛を捧げること。つまり、ほかの少女と恋仲になることによって愛を手に入れ、それをマリーに渡すという倒錯した状況なわけですね。
※以下からネタバレありありです。(とはいえ、なるべく作品の魅力を損なわないような表記にしています。)
◆テンプレキャラの皮を剥がす悦び
本作では、悪魔であるマリーから特別な能力を授けられたあと、仲良しの友達と一緒にティーパーティーを楽しむ日常風景が描かれます。この序盤がなかなかネックで、日常パートはどうしても退屈になりやすいです(恋愛ノベル・アドベンチャーの常だと思われますが)。
ただ、このふつうの景色を見せておくからこそ、キャラクターたちの本当の姿を見たときのギャップにもなるわけです。
攻略対象は3人。軽薄で自由奔放な「クラリス」、ツインテールのかわいい後輩「ミシェル」、そしておっとりとした「サラ」と、かなりテンプレな印象を受けますが、それも意図したものでしょう。
個人的に特に気に入ったのがミシェルのシナリオでした。彼女は明るくてかわいい表情豊かな後輩という極めてありがちなキャラクターで最も興味がなかったのですが、蓋を開けてみれば最も哀れで、一番ギャップが際立つ存在だったのです。
彼女が救われるには、それこそ悪魔からもたらされた特別な能力が必要なほど。にも関わらず、明るい笑顔を見せる彼女の健気な姿に心打たれました。
◆あえて「浅いメタフィクション」構造を採用した作風
とはいえ、上記3人はあくまで愛を奪い取る存在なわけで、本命は悪魔であるマリーなわけです。マリーとのシナリオにおいてはメタフィクション構造が採用されており、これこそ僕が本作に興味を持ったきっかけでした。
ノベル・アドベンチャーは特にメタフィクションが採用されやすいようです。メタフィクションを利用することにより、キャラクターが単なる物語上の存在ではなく、現実に存在する生き物のように見えてくるから、というのが一番大きな理由だと考えられます。
ただ、本作はメタフィクションでありながらもやり方が控えめで、第四の壁を越えようとはしません。具体的にはプレイヤーや制作者に対して触れることをなるべく避けており、ヘレナやマリーが自分のいる世界について認知する程度に留まっているのです。
メタフィクションを期待していた身としては踏み込みが甘くて残念だったのですが、しかしこうしたことは理解できます。本作を少女たちの交流を見るゲームだと捉えるのであれば、その間に挟まる存在(プレイヤー)はノイズでしかありません。ノベル・アドベンチャーという世界に囚われている少女たちだからこそ哀れであり、美しいのです。
『Sugar,sugar,sugarcoat』は、たとえるならば「絵画のなかに閉じ込められた美しい少女たち」を描いたのではないでしょうか。メタフィクションというか額縁を描いたような形式ですが、これはこれで好感を持てる構造で興味深かったです。
◆細かい部分について
最後に細かいところをいくつか記しておきます。
文字表示速度などオプションが充実してて嬉しい。
話者がわかりづらいので、喋っていないキャラはグレーアウトしてほしい。
トゥルーエンドへの道筋がわかりづらかったというか、プレイヤーの行動と結びつきづらいのがもったいない(ただ、これは僕がこの手のゲームに不慣れなだけか、あるいは少しハイコンテクストなだけかも)。
スチルでは光や影が少しだけ動くのだが、そのちょっとした演出がかなり効果的。