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小匙の書室376 ─歪曲済アイラービュ─
明日か、一週間後か、一月後かわかりませんが。
世界は滅亡します。
そんなとき、本性隠したまんまで終わらせたいですか?
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他人から迫害されないために、隠してしまう本性や本音がある。
そこで生まれる苦しさを何とか封じるのは、この先何年も世界が続いていくと、半ば諦めの気持ちで理解しているからだ。
そんなとき、「もうすぐ世界が滅びる」と告げられたら?
まともなんて、捨ててしまえ。
というわけで今回ご紹介するのはこちら、
住野よる 著
歪曲済アイラービュ
だ。
最初に言っておこう。
イラストレーター『いつか』さんの装画が華やかな表紙だが、裏面を見て、カバーを外してみればわかる。
著者史上最凶火力の群像劇である、と。
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発端は、底辺YouTuber『こなるん』が自身のチャンネルで『地球の滅亡』を予告したことだった。
嘘か、真実か、誰にもわからない。
だけど、終末を信じる者たちには一つの共通点があるのだ──。
収録されているのは、12の『本性』。
「いい子」を演じる女子高生、悪魔な先生、ある種の自傷行為に及ぶ大学生、お料理会に招かれた女性──。
滅亡を前に誰もが曝け出す本性は、ひょっとしたらあなたが抱えているそれを狙い撃ちにするかもしれない。
先に最凶火力と記したように、綴られている言葉の一つ一つにはほとんど遠慮がない。
人物造詣には『よる節』が炸裂しているものの、コミカルやユニークさ、ふわっとした文体の中には摂取し続けると危険な毒が潜んでいるのだ。
中でも篇の一つ『嗜好性ボロネーゼ』において、「デビュー作をあんな形で話に組み込んでしまうのか」と唖然とさせられたのである。
帯には『住野よる、暴走』とあるが、間違いないのだ。
ここにきて、著者は新たな扉を開いた。
その興奮で心は滾っていた。
……とはいえ、他の著作と完全に一線を画しているわけではない。
もちろんどれよりもダークサイドなので、「著者を知るための最初の一冊」としてオススメしにくいのだけれど、通奏低音は変わらないのだ。
すなわち、『生き方』への認識だ。
生きるのは美しい、と壮大に装飾するのでもなく、
この世は最悪だね、もう諦めるしかないね、と放棄するのでもなく、まるで、
「世のなか悪いことばっかりだけど、まあたまには良いこともあるんじゃない? 歪曲した心も、愛そうぜ」
って肩を組まれたような気分にさせられる。それも、片手にビールを持って。
だからある意味で馴染みやすいとも言えるのだ。
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大人になって、自分を隠さねばならなくなったあなたへ。
最高な短編集が、ここに。
特設サイトでは第一章が全文公開されている。
⇩ぜひ、著者渾身の火力に炙られてみてほしい⇩
ここまでお読みくださりありがとうございました📚