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ボツネタ御曝台【エピタフ】混沌こそがアタイラの墓碑銘なんで#036



元歌 チェッカーズ「ギザギザハートの子守唄」

ララバイララバイ おやすみよ
ギザギザハートの子守唄


ぽたぽた焼やく ゴブレット
まるまるメガネのハリー・ポタ




前回は最終回っぽい感じで終わりましたけど、違ったんすね、先輩

「だよな、いさぎよく終われば良かったのにな」

それでも人生は続いていくっつーことですよ

「そんで、ぽたぽた焼き?」

そうなんです、今までのストーリーは全てこの一枚のぽたぽた焼きにたどり着くための布石だった、ってことなんです

「宇宙空間に浮かんでいる、この一枚のぽたぽた焼きに?」

はい、『2001年宇宙の旅』に出てくるモノリスみたいなものですね

「でも、音楽がなんか違うぞ」

良く気づきましたね、リヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』に間違いないんですが、演奏は普通の交響楽団ではないんです

「なんかビービーいってんな」

はい、カズーなんで

「カズー?」

正確にいうと、TEMPLE CITY KAZOO ORCHESTRAの『ツァラトゥストラはかく語りき』ですね

「これ、メチャメチャ笑えるんだけど」

はい、親が死んでも自分が死んでも笑えます

「へえー、じゃあ、この曲、自分の葬式の時にかけてもらおっと」

そうやって、弔問客を苦しめるんですね、性格悪いなー

そんじゃ、アタイは、TEMPLE CITY KAZOO ORCHESTRAの『胸いっぱいの愛を』を葬式でかけてもらいますよ

「そっちの方がマズイだろ」

『ツァラトゥストラはかく語りき』は、まだ我慢できるんですけど、レッド・ツェッペリンの『胸いっぱいの愛を』のカバーになると、もう限界を超えてしまうんですよね

「笑いすぎて死にそうになるもんな」

はい、笑いすぎて時空が歪んでしまいます

「開いちゃうんだろ? スターゲートとかいうやつが? 『2001年宇宙の旅』ではめっちゃカラフルだったよな」

はい、ワームホールによる空間転移

イサオも『胸いっぱいの愛を』が流れ始めた途端、挙動不審状態になってしまいました、ボーマン船長みたく瞳孔も開きっぱなしで

「へえー、そんなに凄い反応してたんだ」

猫が反応するってことは本物ってことですよ、ブルース・リーと一緒です

「ブルース・リー?」

はい、この前『燃えよドラゴン』のテーマ曲をソノシートで聴いてたんすよ、ポータブルレコードプレイヤーで

あれってインスト曲だけど、時々ブルース・リーの雄叫びが入ってるじゃないっすか

そんで「ホ、アチャーー!!」って聴こえた瞬間、たまたま近くを通りかかったイサオが、ビックリして、ピョーンって飛び上がったんすよ

「マジで?」

マジで

動物が反応するってことは、本物っちゅうことでしょ?

やっぱ、ブルース・リーは本物中の本物なんだな! ってアタイは思ったわけです

……

「いや、ちょっと待てよ、ブルース・リーとカズー・オーケストラを同じフォルダに入れっちゃってイイのか?」

イイんです! 先輩だってブルース・リーの雄叫びを初めて聞いたときは、思わず笑っちゃったでしょ?

「うーん、まあ、笑った……かな?」

イイんですよ、笑って

人は本当の天才を見たとき、思わず笑っちゃうものなんですよ、脳が処理しきれないから

そんで、その後に「スンゲー!」ってなるんすよ

エルヴィス・プレスリーの腰ふりも、マイケル・ジャクソンのしゃっくりも同じです

「しゃっくりでまとめるなよ!」

……

「でも、お前、カズー・オーケストラでは、ずっと笑ってるだけじゃねーか」

そうっすね、そうっすけど、本当の凄さなんて死ぬまでに気づけばイイんですよ

臨終の直前に「ああ、やっぱ、カズー・オーケストラは、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』より上だったな~」って

「無い無い、それは絶対に無い」

……

さあ、そういうわけなんで、アタイラもぽたぽた焼きの味の宇宙へと旅立ちましょう!

「なんだよ、いきなり、相変わらず支離滅裂だな」





しかし、ぽたぽた焼きってどうしてこんなにも美味しいんでしょうね?

「そりゃあ、お前、お婆ちゃんが作ってるからだろ?」

そこなんすよ、アタイらが子供の頃に婆さんがくれたお菓子って100%不味かったじゃないですか

「だな、100パー不味かったな」

友だちの家に遊びに行って、帰ろうとすると奥からババアが出てきましたよね

「そうそう、広告の紙に包んだお菓子を持ってな」

そんで、「ほら! 食え!」って突きだすんですよね

「令和の小綺麗なお婆ちゃんみたく「よろしかったらどうぞ」なんて絶対いわなかったよな」

そうです、汚いババアが「ほれ! これ食え!」って命令口調で突きだすんです

「汚いババアって……そのいいかた」

まあ、アタイラも汚い子供でしたけどね

「昭和の子供はみんな汚かったよな」

金持ちの子供だけが蝶ネクタイにサスペンダーで、それ以外は全員汚かったです

「やめろ! 令和の子供たちが本気にするだろうが!」

……

あれ? なんの話でしたっけ?

「ババアのくれる不味いお菓子の話だよ」

そうでした、そうでした

そんで、ババアがくれるお菓子って、たいがい粉吹いてましたよね

そんなお菓子、不味いからいらないんだけど

でも、アタイは全部食べてましたよ

貧乏だから全部食べました

捨てようとする友だちの分も、もらって食べました

「貧乏人は味の前に、まずカロリーだからな」

はい

今は感謝してますよ

馬鹿なアタイだって、この歳になればさすがにわかりますよ、あの不味いお菓子の価値と婆さんの思いが

終戦直後なんかの食べ物の無い時期には、甘いモノがとても貴重で、どんなに不味いお菓子でも、とんでもない御馳走だったってこと

そして、あの婆さんのような先輩たちが、空腹に耐えながら頑張ってくれたおかげで、今のこの豊かな日本があるんだってことも

でもね、ごめんなさい、子供にとってはね……やっぱ、不味いモノは不味い

「子供は正直だからな」

はい、正直以外に子供に取り柄なんて無いんですから

……

「でも、令和時代にこんなババアが出てきたら大変なことになるよな」

なります、なります

昔の婆さんがくれた定番の黒糖色のアレが、新聞紙なんかにくるまれてたら、さすがにヤバいっしょ

「令和時代だったらビジュアル的にNGだろうな」

そんなモノを令和の子供に差し出したら、大変なことになりますよ

すぐに通報されて、防犯アプリの不審者情報に「犬の糞を食べさせようとする老婆が目撃されました」って書かれちゃいます

……

「話は戻るけど、ぽたぽた焼きは何であんなに美味いんだ? 婆さんが作ってるんだろ?」

そこなんっすよ、だから、あの婆さん、なんか怪しいなって……

「確かに、婆さん婆さんしすぎてるよな」

いかにもっていう、典型的な婆さんすぎて、逆に怪しいですよね

「……本当は婆さんじゃねえんじゃね?」

なんですかね

……

あっ、もしかしたら『寺内貫太郎一家』で婆さん役をしていた樹木希林みたく、本当は31歳くらいだとか

「そうだよ! ぜってーそうだよ!」

じゃあ、ぽたぽた焼きのおばあちゃんの正体は、婆さんのコスプレをした料理研究家31歳、ということで

「だな」





K君がアジトにやって来ました

K君は、ハリー・ポッターにソックリです

というか、ハリー・ポッターがそのまま大きくなって、レーシック手術をしてメガネを外したような顔をしているのです

……

お前、目パッチリ男子だっただろ?

「え? なんですか?」

小学校のクラスに必ず一人はいる、目パッチリ男子だよ

先輩も小学校の時にクラスにいたでしょ? その隣のクラスにも、そのまた隣のクラスにもいたでしょ? 目パッチリ男子

「いたいた」

ほら!

「いや、「ほら!」っていわれても……」

勉強ができるわけでもなく、かといってスポーツができるわけでもない、ただ目がパッチリしてるだけの男子

「ひどいいいかたですね」

色白で、肌なんか女子よりも綺麗で……

いじめられてるわけでもなく、かといってクラスの人気者ってわけでもない

無口でほとんど喋らないんだけど、いつもニコニコしていて、気がつくといつの間にか友だちの輪の中に入ってる

「違いますって、それ、僕じゃないですって」

……

先輩もそうだったと思いますけど、小学生の女子たちって、そんなに仲が良いわけでもないクラスメイトの家に遊びに行くじゃないですか、家庭環境の偵察のために

「うん、行ったな」

アタイ、行ったことあるんですよ、目パッチリ男子の家に、友だちと一緒に

「マジか!?」

はい、マジで

そしたら、案の定、一人っ子で、お母さんに物凄く愛されている感じで

しかも、そのお母さんが、息子の友だちが遊びに来てくれたと大喜びで、お菓子をいっぱい出してくれて

目パッチリ男子がニコニコしながら子供部屋にお菓子を持って来てくれたんですけど

そのお菓子が、見たことも聞いたことも無いお菓子で

でも、そのお菓子、不味いわけでもなくて、かといって美味しいわけでもない

ますます謎は深まるばかりなんだけど、特に調べようとはしませんでした

貴重な時間を使って調査するほどの興味も、正直無いし

「何だか腹が立ってきました! 自分とは関係ないのに、無性に腹が立ってきました!」

だろ? それはお前が、目パッチリ男子だからだよ

「そ、そうなんですかね?」

……

実をいうと、小学校の同窓会の時にアタイ、目パッチリ男子の事を話題に出したんですよ

「どうだった?」

それがどういうわけか、誰も覚えていなくて

しまいには、「そんな目パッチリ男子なんかいなかった!」 とまでいわれちゃって

なので「そんなことねえだろ! 一緒に目パッチリ男子の家に遊びに行っただろ! わけのわからないお菓子が出てきただろ!」 っていうと

「いないヤツの家になんかに行けねえだろ!」 って返されちゃって

「そんなわけねえよな」

そうですよ

そんで、帰って小学校の卒業アルバムを確認したら……

「ど、どうでした?」

……

何回確認しても、そんな男子、どこにもいなくて……

……

……

あの、目パッチリ男子は、いったい何者だったのでしょう?

「知りませんよ!」

信じるか信じないかは、あなた次第です

「都市伝説風に終わらないでください!」

……

そんなにいうなら、目パッチリ男子に関するアタイなりの仮説を聞かせてあげよう

「もう、興味ないです」

目パッチリ男子の家族の正体はな……

実は宇宙人なんだよ

「え? 宇宙人!?」

悪い宇宙人に追われて、地球にたどり着いた良い宇宙人が、人間に紛れてひっそりと暮らしているんだよ

「今度は、どこかのSF映画っぽくなってきたな……」

……

おい、K! お前ホントは宇宙人だろ!

「な、なんですか」

額が左右にウイーンって開くと中にコックピットがあって、そこで小っちゃいKが操縦してるんだろ?

「そんなわけ無いでしょ!」

あれ? お前、額の真ん中にそれっぽい縦ジワが一本あるじゃねえか、よし、開けてみよう!

「ちょ、ちょ、ちょ、やめてください! 痛い!痛い!痛い!」

……

あれ? 何か落ちたぞ、何だそれ?

「ああ、手土産です」といってK君はレジ袋を拾い上げました

手土産?

「はい、一袋だけですけど……ぽたぽた焼き」

……

……

は? 何でぽたぽた焼きなんだよ!

「別に理由は無いんですけど……嫌いですか? ぽたぽた焼き」

大好きだよ!

あれば食べるなんてレベルじゃなくて、わざわざ買ってでも食べるくらい大好きだよ!

「じゃあ、イイじゃないですか、ぽたぽた焼きで」

そういう問題じゃねえんだよ!

イイか、よく聞け

これはな、美しい成人女性が二人も暮らしているお屋敷に、手土産として持参するモノが、はたしてぽたぽた焼きで良いのか? という問題なんだよ!

「いらないんならイイですよ、別に、持って帰りますから」

食べるるよ! 馬鹿野郎! 

だから、食べる食べないの問題じゃねえっていってんだろ!

……

あっ、今、めんどくせーな、って顔しただろ!

「してません、してません」

イイんだよ、めんどくせーんだよ! 女は!

……

童貞のお前に、ひと言アドバイスしとくけどな

「勝手に童貞って決めつけないでください」

女ってのは全員、めんどくせーものなんだよ!

だから、お前の前に現れた女が、もしも、めんどくさくない女だったら、その女は何かを企んでいる女ってことなんだよ! わかったか?

「はい、わかりました、童貞ではないですけど、わかりました」

お前の母親だって、めんどくせーだろ?

「ああ、まあ、そうですね」

でも、覚えておけよ! お前がこうして大きくなれたのはな、お前のめんどくせー母親が、色んなめんどくせー事をしてくれたおかげなんだって事をな!

……

「あのー、すいません、そろそろ家にあがってもイイですか?」

おお、イイよ、あがれ、あがれ

「すいません、玄関にずっと立ちっぱなしだったんで、足が疲れちゃって」





ところで、お前は何者なんだ? 今更だけど

「人間ですけど……」

そうじゃねえよ、暮居カズヤスとどこで知り合ったんだ? ってことだよ

「暮居センパイとですか?……それはいえません」

なんで?

「すいません、いえない理由もいえません……」

……

でも、プロジェクトのメンバーではあるんだろ?

「プロジェクト? なんですか? それ」

とぼけんなよ『サザンライトパーソンプロジェクト』だよ

〈量子双子〉と〈朝焼け〉と量子コンピュータのなんだったっけ? えーと、ああ、〈モナドン〉とかいう奴らがメンバーの

「はあ……暮居さん、またそんな事いってたんですか? 信じちゃダメですよ、あの人は頭がおかしいうえに、とんでもない大ウソつきですから」

「てめえ! センパイに対してそのいい方はなんだ!」と先輩がK君につかみかかりました

まあまあ先輩、落ち着いて、落ち着いて

しょうがないですよ、確かに頭がおかしいって思われても仕方がない奴ですよ、暮居は

「まあ、そうかも知んねーけどよー」

……

で、アタイラのことは何ていってたんだ? 暮居カズヤス先生は

「いやあ、それは、チョット……」

怒らねえからいってみろ

「本当に怒りませんか?」

怒らない、怒らない、怒るわけねえだろ

……

「えーと、その……彼女たちは、自分と同じ誇大妄想狂だから、優しくしてあげてね、っていってました……」

……

……

なんだとコラーーー!!!

アタイは、思わずK君の胸ぐらをつかんでいました

K君は、ほうきに乗っているわけでも無いのに、少しだけ浮いていました

……

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