
「もう一度みたいライブはなんですか?」 #2 チャットモンチー
スカパー!ユーザーに、「もう一度みたいライブ」というお題で、心に残っているライブや思い入れのあるライブについて綴っていただいた記事を紹介しているこちらの連載。
昨日はTHE YELLOW MONKEYのギター・菊地英昭さん("EMMA")のコラボレーションプロジェクトであるbrainchild’sの2013年に開催されたライブについていただいたエピソードをお届けしました。
第2回目となる今回は、2018年に惜しまれながら解散をしたチャットモンチーのライブについてです。ぜひお楽しみください。
実家にスカパーが来たのは私が高校生だった四半世紀ほど前。まだインターネット回線すら通っていない頃でした。IT革命によって人々の生活が一変したというのが一般的な認識かもしれませんが、私にとってはスカパーのほうがはるかに大きなブレイクスルーでした。スペースシャワーTVやvibe、Viewsicなど今となっては名前が変わってしまったチャンネルもありますが、それぞれのチャンネルで毎日生放送の音楽番組もあって、最新の音楽情報を食い入るように見ていたのをつい昨日のように思い出します。
そんな中で出会ったのがチャットモンチーでした。スーパーカーやBump of chicken、ナンバーガールは自身より少し上の世代で雲の上の存在だったのに対し、チャットモンチーの3人は同年代。同じ教室にいそうな雰囲気の女の子(失礼な表現かもしれませんが)なのに、スリーピースとは思えない迫力や、予想した通りには絶対にいかない進行、リズム……。どんどんはまっていきました。
それぞれのメンバーが作詞していて、それぞれ特色があったのも魅力でした。えっちゃんの歌詞は女性が誰でも持っている業や独占欲をぐさっとストレートに表現して(蝉がアイスコーヒーを飲んでるは除く)、くみこんは何度か読み返してみると実はこういうこと? といった謎解き要素が多くて、こういう解釈で合ってるのかなと分かりかけた時のどきっとしてぞわぞわする深さ。あっこちゃんの歌詞はあるある、こういうのある! と画面がすぐに目に浮かぶことが多く、CDの歌詞カードを広げては共感したりぞくっとしたり考えさせられたり……。
チャットモンチーがデビューした頃には私も社会人になり、学生時代は行くことさえも叶わなかったライブに狂ったように通い、ライブとフェスのために働くような数年間を過ごしていました。
両手からあふれるくらいにチャットモンチーのライブには足を運びましたが、その中でも印象に残っているのが2007年の七夕に開催された日比谷野外音楽堂。
当日は確か天気がとても不安定で、今にも雨が降りそうな天候。無事に天気が持ちますように、と祈りながら開演を待っていました。
そんな中始まったライブは、『女子たちに明日はない』から一気にぶっ飛ばしてくれて、『恋愛スピリッツ』ではえっちゃんのマイクなしアカペラを野外で披露。鳥肌どころではなく、天気の心配も吹っ飛びました。
この3人を生で見られて同じ空間を共有している奇跡に感謝して、ライブの後、いつも通勤で使っている新橋駅まで歩いて帰ったのに、その周囲がふわふわした景色でいつもと違って見えました。
七夕ライブに一緒に行った、時間厳守でネクタイセンスのない、ペティギュアの蝶々どころか靴を新調しても気づかないような人と結婚し、数年後の七夕には第一子も産まれました。
転勤族で見知らぬ土地での生活、まともな会話ができるのは夜遅く帰ってくる夫だけ、子供たちは揃いも揃って寝ない、ベビーカー大嫌い、何度も入院、幼稚園入園前まで続く壮絶な夜泣き……。
子供が寝たちょっとの間にスマホで閲覧するのは好きなアーティーストの動向でもなく、『赤ちゃん 〇カ月 症状』などの子供関連の履歴ばかり。テレビだって主導権は子供になり、世の中の動きからはどんどん離されていきました。あれだけ生きがいだった音楽も、全て消えました。目の前にいる物言わぬ子たちのオーダーを叶えていた日々の中において、音楽が入り込む隙間は全くありませんでした。
この文章を書くにあたって、古いパソコンのMusicフォルダに入れたままだったチャットモンチーの音源を再生してみました。『親知らず』なんて、今になって聴くと膝枕に頭をのせる方ではなくのせられる方になったし、七夕生まれの中学生の息子がいつか独り立ちしたときに家族写真を飾ってくれるのかどうか思いを馳せてしまいました。
20年経ってもチャットモンチーの3人は手の届きそうで届かない、とんでもない才能を持った女の子たちだったんだなと再認識しています。
チャットモンチー大好きだった20年前の私いいセンスしてるじゃん、とちょっと褒めたくなったおばちゃんになった私がいます。
歌詞カードをめくった日、日比谷の野音に足を運んだ日…。
そんなチャットモンチーとの日々が、音や匂いも伴ってこちらに届いてくるようなエピソードでした。
家事に育児に忙しい日々を送っていると、なかなか音楽を聴けなかったりライブに足を運べなくなってしまうこと、ありますよね。
けれど、その「今」を作っている過去の一つに大切なライブがあるーーこの記事を読ませていただき、そんな風にも受け取れて素敵だなと思いました。
ぜひ、文中に出てきたチャットモンチーの音楽たちもお楽しみください。
「もう一度みたいライブ」、第3弾投稿もお楽しみに。
現在コンテスト実施中!くわしくはこちら。
