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スカパー!ユーザーに聞いた「もう一度みたいライブはなんですか?」 #1 brainchild’s

「あなたのもう一度みたいライブはなんですか?」

初めてのライブ、憧れの海外アーティストが初めて来日した時のライブ、好きになった時にはもうライブが開かれない存在で、もっと前に出会っていれば…と思うようなライブ、友人ができたライブ…。

ライブに行った数に関わらず、きっと皆さんの中にもそんな風に心に残っているライブがあるのではないでしょうか。

今回、スカパー!ユーザーのみなさまに、noteでも共有させていただく内容として同じ問いを投げかけさせていただきました。すると、編集部もびっくりするほどたくさんの"もう一度みたいライブ"に関するエピソードが集まりました。(皆さんありがとうございます…)

その中から僭越ではありますが、特に印象に残ったエピソードやみなさまに共有したいエピソードを厳選して5つお届けしていきます。

前置きが長くなりましたが、1つ目にご紹介するのは、THE YELLOW MONKEYのギター・菊地英昭さん("EMMA")のコラボレーションプロジェクトであるbrainchild’sの2013年に開催されたライブ、「brainchild’s TOUR 2013 Electric na tei de WHO”sou-desu Watasu-ga Henna Ojisan-desu”@東京」について綴っていただいた記事です。
(改行などの編集上の修正以外、原文ママ掲載とさせていただいています)


ずっと、ライブはガチファンしか行っちゃいけないものだと思っていた。
イントロ2秒で曲を判別できて当たり前。コール&レスポンスや手の振りを間違えようものなら、他のファンに会場から叩き出される。わりと本気でそう思っていた。
そんな私がなけなしの勇気を振り絞って行った人生初ライブハウスで、たまたま古参ファンのお姉さんと隣になった。
あのお姉さんのお陰で、私は今、ライブが楽しくて仕方がない。

10代の終わりごろになって吉井和哉さんのソロ楽曲と出会い、そこからTHE YELLOW MONKEYにハマった。バンドはとっくに解散していて、再集結なんか夢のまた夢だった時期だ。
家でも出先でもずっと吉井さんかイエローモンキーの曲を聞くほど大好きだったが、自分をファンと呼ぶことにはずっと抵抗があった。ファンという称号を掲げるにはそれ相応の覚悟と実績が必要だと思っていたのだ。ましてやイエローモンキーの場合、すでに解散しているのだ。リアルタイムで活動を追っていた人との差は一生、埋められない(そのときは再集結してくれるなんて思わなかったし)。

ようするに「私ごときがファンを名乗ったら本物のファンに怒られる」と腰が引けていたのだ。


転機が訪れたのは2013年。ドキュメンタリー映画『パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE』を見に行った。映画館の音響でイエローモンキーのライブを疑似体験した私の中には、ムズムズとライブへ行ってみたい気持ちが沸き上がっていた。
映像でこれだけ興奮したのだから、生はきっとすさまじいに違いない。割れんばかりの歓声に混ざって、会場を渦巻く熱気を体感してみたい。想像が無限にふくらんでいく。自分もこの映像と同じ時代を生きていたはずなのにどうして会場にいなかったのかと、悔しさすら覚える。
そんなタイミングで、ギターのエマのソロプロジェクト「brainchild’s」がライブを予定していた。

行きたい。

シンプルで強烈な衝動が、それまでの躊躇を吹き飛ばした。

10月29日「brainchild’s TOUR 2013 Electric na tei de WHO”sou-desu Watasu-ga Henna Ojisan-desu”@東京」会場は新宿BLAZE。

私はとんでもなく緊張しながら当日を迎えていた。というのも、brainchild’sの曲はほぼ知らなかったのだ。当時は今みたいな音楽のサブスクサービスがなく、聞きたい曲は購入するかCDをレンタルするしかなかった。地元のレンタルショップにはなく、チケットにお金を使い果たしてしまったのでアルバム単位の購入もできず、わかるのは数曲だけという状態だった。とにかくメンバーの今を見たい。欠片でもいいからイエローモンキーの音を生で聞いてみたいという気持ちが先走っていたのだ。
 
私が会場に入ったときには、すでに前の方は熱心なファンでぎゅうぎゅうだった。みんな仲間と一緒に来ているようで、他のライブや曲の話に花を咲かせている。
とりあえず、中央列のはしっこあたりに隙間を見つけて身を置いてみる。椅子がある公演と違って、隣との距離が近い。邪魔にならないように、ぎゅっと肩をすぼめて開演を待った。
みんな完全武装であることにまず驚く。女性客が多いのに、ほとんどがパンツ・スニーカー姿。楽しむ気満々なのか、10月末だというのに上はライブTシャツ一枚だ。いつものパーカーにジーンズで来てしまった私は、自分だけが場違いな人間に思えて急に不安になる。
今でこそ、初参加なのだからグッズを持っていないのは当たり前だし、別に着飾らなくても楽しむことはできると思う。しかしそのときは、ライブに臨むオーディエンスの気合いに完全に圧倒されていた。

「おひとりですか?」

ふいに声をかけられた。

隣に立っていた小柄な女性だ。三十代くらいだろうか。私より少し年上で、彼女もまたひとりらしい。
戸惑いつつ、肯定する。お姉さんが、ころころと転がるようなかわいらしい声でまた尋ねた。
「お目当てはだれですか?」
「エマです。イエローモンキーが好きで」
私は内心、かなり慎重に、おそるおそる答えていた。というのも、ウィキペディアに「コアなファンは『イエモン』という呼びかたを嫌う」と書いてあったからだ。だからこうした場でうっかり「イエモン」なんて口にしようものなら古参のファンにボコボコにされるのではないかとビビっていたのだ。brainchild’sはあちこちから実力のあるミュージシャンが参加しているが、知名度的に言えばやはりエマファンが一番多いはずで、多勢に無勢は必至。言い終えてからも、エマに「さん」をつけた方がよかっただろうか? でも本名ならわかるが、あだ名に「さん」つけるのって変じゃないか? などと頭の中では葛藤がぐるぐる渦巻いていた。
「私もです!」
そんな私の不安を、お姉さんは満面の笑みで吹き飛ばしてくれた。
聞けば、お姉さんはイエローモンキー解散前からのファンで、ライブにもよく行っており、各メンバーの現在の活動もすべて追っているという。
私は嬉しくてすっかり舞い上がっていた。あれほど恐れていた古参ファンにエンカウントした衝撃よりも、同じものが好きな人にめぐり会えた興奮が勝っていたのだ。喜びに気が緩んだのか、お姉さんの人柄ゆえか、私はあっさりと新参者であることを白状していた。
「ライブハウス自体が初めてで、浮いてないかなって内心めっちゃキョドってるんですけど」
「もう全然ウェルカムです! ファンが増えるのはいつでも嬉しいです」
お姉さんのその言葉に、私がどれだけ救われたかわからない。
あの瞬間、それまで自分にまとわりついていた余計な気負いがすべて蒸発して、ようやくライブを楽しむ準備ができたような気がする。

開演を待つ間、お姉さんはイエローモンキーやライブのことについて色々と教えてくれた。
「モンキーちゃんのエマちゃんはセクシでクールな感じだけど、ブレチャのエマちゃんはおしゃべりでかわいいんですよ。よくMCがグダグダになってるけど、それがいいんです」
興味深く聞きながら、私は「本当にイエモンって言わないんだな」と静かに感心していた。
ウィキペディアを読んだときから疑問だったのだ。イエモンと呼ばないなら、なんて呼ぶのだろう? まさか毎回THE YELLOW MONKEYと言っているのか? そこも知りたいポイントだったのだが、まさか「モンキーちゃん」とは。ギラギラとカッコよく、ときには猥褻で猥雑ですらあるバンドにはいささか、かわいすぎやしないか。しかしお姉さんの「モンキーちゃん」は親戚の子をかわいがるような愛に満ちあふれていて、お姉さんが「モンキーちゃん」と口にするたびになんだか微笑ましい気持ちになった。
なお、他に「モンキーちゃん」を使っている人に出くわしたことは、今のところない。

ライブが始まってからは、正直、あまり覚えていない。曲を知らないというのもあるが、ただただ、音に圧倒されていた。
映画館みたいな調整された音とはまったく違う。ステージに所狭しと並べられたバカでかいアンプから、今生まれたばかりのむき出しの音が束になって迫ってくる。落ち着こうと深呼吸したら肺がベースでブルブルと震えた。バスドラムに腹を直接叩かれているみたいに、体の内側にダイレクトに音が響いてくる。しかし、音の洪水にもみくちゃにされていた体が、いつしかエマのメロディアスなギターに合わせて揺れていることに気づく。中学の体育で創作ダンスだけはどうしても好きになれなかった私が、音楽で身を揺らしている。それは衝撃的なことだった。
横のお姉さんに目をやると、曲に合わせて手を上げたり、サビの一部を一緒に歌ったりしている。他のオーディエンスと動きがそろうことがあるので、曲によってある程度の「お約束」があるようだ。けれど、やらない人もいる。好き勝手に体を揺らす人もいる。直立不動でじっくり聞く人もいる。みんなそれぞれの好きな方法で楽しんでいる。
それに気づいてからは、私も深く考えるのをやめた。曲を知らない申し訳なさも忘れて、ただ自分が気持ちいと感じるように体を揺らした。

聞くのではなく、体感する。
初めての感覚だった。


イエローモンキーの曲とはまったく違うが、フレーズのひとつひとつから香り立つエマ節がミストのように会場を満たす。私がすっかりそのフレーバーにやられてクラクラし始めたころ、先述の「グダグダなMC」が始まった。
本当にグダグダでびっくりした。進行はエマなのだが、どうも締まりがなく、すぐに脇道にそれる。のんびりした彼の話しかたもまた、間延びしたトークのさらに自由に遊ばせてしまう。オーディエンスはその様子を見て目尻を下げているから、これはこれでいいようだ。

「イエローモンキーの曲で何が好き?」
エマがメンバーに問いかけた。ひとりひとり曲名と、その理由や思い出を語っていく。ただbrainchild’sは結構人数がいる。このときも6人くらいはいただろうか。なのでなかなか時間がかかる。けれどエマはさして気にした様子もなく「え、それって」とさらに話を掘ったりしている。
「俺はやっぱり『空の青と本当の気持ち』かな」
最後に順番が回ってきたエマは、自分が作曲した曲を上げた。
「今日も歌おうかと思ったんだけど、あれ歌うの大変なんだよね」
オーディエンスから期待の声が上がったが、どうやら歌う気はないようだ。過去にbrainchild’sのライブで歌ったとこがあるそうで、その時の苦労を語った。
「吉井にいつも『エマの曲は息継ぎが大変』って言われてたんだけど、自分で歌ってみてやっと意味がわかった」
そう苦笑いをしたエマは、ちょっともったいつけた感じで会場を見回すと、イタズラっぽい笑みを浮かべた。

「じゃあ、本人に歌ってもらう?」


会場が驚きと喜びの悲鳴で包まれた。
吉井さんがサプライズ登場。
私も「うええええええ⁉」と野太い声を上げていた。
ふたりが並んでる! 私の目の前に、イエローモンキーの半分がそろった!
「ヤバいですよねこれ!?」
私が言うと、お姉さんも「ヤバいです!! 信じらんない!」と声をうわずらせた。
そこからエマと吉井さんの肩の力が抜けたトークを少しあって、そしてぬるっと『空の青と本当の気持ち』が始まった。
思えばこれが、私が生まれて初めてイエローモンキーの曲を生で聞いた瞬間だった。
それまでだるんだるんのMCを繰り広げていたのと同じ人とは思えない、乾いたサウンドでありながら艶やかなギター。伸びやかに翼を広げる吉井さんのボーカルを、空高く押し上げていく。

すごい。
これがイエローモンキーなんだ。

鳥肌が止まらない。

曲の終わりが近づいてくると「ああ、終わってしまう」と急に寂しくなった。まだ聞いていたい。終わらないでほしい。叶わぬ願いを胸の中で唱えながら、エマのギターを、吉井さんの歌を、一瞬一瞬、噛み締める。

吉井さんは一曲歌ったらあっさり帰った。
会場はまだちょっと夢見心地。温度が上がったまま、brainchild’sのライブは続いた。アンコールでメンバー全員がヒゲダンスを始めたときは大爆笑。あのふざけたツアータイトルの謎も解けて、私は笑いすぎて痛いお腹をよじりながらもスッキリとした気持ちで拍手を送った。

終わったあと、お姉さんが興奮した様子で尋ねた。
「どうでした?」
「めっちゃ楽しかったです!」
私が食い気味に答えると「よかったぁ!」とお姉さんの笑顔が弾けた。まるで我がことのように喜んでいる。ああ、本当にこの人はライブが、イエローモンキーが好きなんだな、となんだか私まで嬉しくなってくる。私自身、会場に来る前よりもイエローモンキーのことが好きになっていたし、ライブへの恐怖心はすっかり消えていた。耳にちょっと膜がかかった感じや、倦怠感や爽快感に似た興奮の余韻も、心地いい。
私はお姉さんにお礼を言い、体を揺らした拍子に何度か手が当たってしまったことを詫びた。お姉さんは「そんなの全然大丈夫」とこれまた笑い飛ばしてくれる。
「私、関東の公演にはよく出没するので、どこかでまた会えたら声かけてください」
そう言い残して、お姉さんはひと足先に会場を去っていった。
お姉さんを見送ってから、私は彼女の名前すら知らないことに気づいた。

どこかでまた会えたら。

約束というにはあまりに不確かで、それでいて奇跡を夢見るようなちょっとロマンティックな言葉を口の中でつぶやいてみる。

どこかでまた会えたら。


それから楽しいライブはいくつも経験したけれど、お姉さんの横で見た『空の青と本当の気持ち』は、やはり私の中で特別な位置にい続けている。

あれから10年以上経った今も、イエローモンキーのライブに行くたびに、私はささやかな期待をこめて周りの客席を見回してしまう。

もしかしたら、どこかにあのお姉さんがいるかもしれない。


いかがでしたでしょうか。
このライブ、"イエローモンキー"ファンの方にとっても、伝説のライブになったのではないでしょうか。(当時のTwitte...Xの投稿を見に行ってみて、皆さんの当時の興奮を拝見するなどしました)

ファンを名乗るって、ライブに初めて行くって、なぜかハードルありますし「私なんかが…」って思ってしまいますよね。でもいざライブに行ってみると例えばMCで「初めて来たよって人〜!」という呼びかけに結構手が上がって「私だけじゃないんだ!」って安心したりするし、そもそも最初の心配なんてどうでも良くなるくらいの多幸感と興奮に包まれますよね。

「あ、これからも好きでいていいんだ」

ライブはいろいろな”好き”を肯定してくれる場。そんなライブの素敵な魅力がギュッと詰まった記事でした。

「もう一度みたいライブ」、第2弾投稿もお楽しみに。

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