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【この記事は見ないでください】マーケティングにおけるカリギュラ効果と心理的リアクタンスの活用事例
「この記事は見ないでください」が気になって、このページを訪れたあなたも「カリギュラ効果」の影響を受けているかもしれません。
カリギュラ効果とは、禁止されると逆に気になってしまうという心理現象のことです。同様の心理現象を表す学術用語が「心理的リアクタンス」です。
この記事ではカリギュラ効果と心理的リアクタンスの用語解説を行い、マーケティングにおける活用事例について紹介します。
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一部で上映禁止となった映画『カリギュラ』が語源の「カリギュラ効果」
禁止や制約により、その事物に対する欲求が高まるのが「カリギュラ効果」です。その語源は、1980年に公開された映画の『カリギュラ』です。
映画『カリギュラ』は、暴君として知られる帝政ローマ三代目皇帝のカリギュラを主人公に、ローマ大国の退廃を描いた作品です。その描写の過激さから、一部地域で上映禁止となりました。
ところが、上映禁止になったことで逆に興味を持つ人が増えて大ヒットになりました。そこから、禁止されるほどやりたくなってしまう人の性を「カリギュラ効果」と呼ぶようになりました。
自由の制限に抗おうとする「心理的リアクタンス」
カリギュラ効果のような人の性質を表す心理学の学術用語としては「心理的リアクタンス」があります。
心理的リアクタンスとは、選択や行動の自由が制限されたとき、それに抗おうとする現象のことです。1966年にアメリカの心理学者ジャック・ブレームによって提唱されました。
心理的リアクタンスは「ブーメラン効果」を呼び起こすことがあります。ブーメラン効果とは、説得により期待とは反対の行動を招くことです。
親子の会話でよくある、「(親)勉強しなさい!」「(子)今やろうとしてたところ!あーあ、もうやる気なくなった!」というのがまさにそれです。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、ブーメラン効果を意識したコミュニケーションについて日本説得交渉学会会長の榊博文氏が次のように話しています。
勉強を嫌がる子ども(「陰の意見」)に対して「勉強しなさい」(「陽の意見」)と言い続けるよりも、「じゃあ勉強しなくていい」(「陰の意見」)と言った方が、子どもは勉強する気になるでしょう。上司から「もっと頑張れ」と言われ続けるよりも、「きみはその程度でいいよ」と言われた方が、もっと頑張らないといけないと思うのではないでしょうか。
とはいえ、額面通りに受け取られてしまう場合もあります。ブーメラン効果を逆手に取るためには、説得者との信頼関係の構築が重要です。
カリギュラ効果や心理的リアクタンスを活用したマーケティング事例
さまざまな広告表現やマーケティング活動で、カリギュラ効果や心理的リアクタンスが取り入れられています。参考になる事例を以下にご紹介します。
行動を禁止する
「◯◯な人以外禁止」という広告表現は、定番の一つとなっています。例えば、ダイエットサプリの広告で「痩せたくない人は見ないでください」というコピーを使う形です。
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同様に、転職サイトなら「今の年収に満足している方には必要ありません」といった形です。
再春館製薬所のドモホルンリンクルでは、一時期テレビCMに「初めての人にはお売りできません」というキャッチフレーズを使用していました。これもカリギュラ効果を狙ったものだと考えられます。
行動に制限をかける
Webサイトの記事で、冒頭だけ自由に読めて、気になる続きは「この先は会員限定です」という形で会員登録に誘導する形はよく見られます。
まったく内容がわからなかったり、大部分読めてしまうよりも、肝心なところで行動に制限がかけられることでより興味がそそられることでしょう。これらもカリギュラ効果が働いていると言えます。
期待していることと正反対のことを言う
飲食店の中には、あえて「まずい」と銘打っているところもあります。高田馬場には「まずい魚 青柳」というお店がありますし、平塚には「「日本一まずい!元祖オロチョンラーメン 利しり」があります。どちらも、わざわざ看板に「まずい」と書いています。
もちろん本当にまずいわけではなく、青柳のGoogleレビューは4.1(記事執筆時点)と評判は上々です。実際にオロチョンラーメン 利しりを訪れたロケットニュースの記事では、その味とのギャップから“カリギュラーメン”と表現しています。
期待と正反対のことをあえて言うことで、「本当だろうか?」や「どういうことだろう?」と思わせる効果があります。
全国チェーンの「サイゼリヤ」の会長・正垣泰彦氏の著作『サイゼリヤの法則』の帯には“サイゼリヤの料理は、高くてまずい”と大きく書かれています。これも、サイゼリヤの一般的な認識である「安くておいしい」とは真逆のことです。
この言葉には、会長の「自分たちで安くておいしいと思った瞬間に成長は止まる。価格も味も日進月歩で進化していくべき」という真意が込められています。しかし、帯のコピー自体はカリギュラ効果を意図したものでしょう。
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カリギュラ効果や心理的リアクタンスを活用する際の注意点
「まずい」と書かれた飲食店がもし本当にまずかったとしたら、その悪評は口コミで広まってしまうでしょう。当然ながら中身が伴っている必要があります。
カリギュラ効果を狙った広告表現はインパクトが強い分、昨今の賢い消費者にとってはあざとく感じられてしまう部分もあります。
例えば、メールマガジンで「開封禁止」と題して送っても、中身がなんのことはないただのお知らせだったりしたら、読者はうんざりしてメールマガジンを解除してしまうかもしれません。本質的な目的から立ち返って、使う言葉を選ぶ必要があります。
カリギュラ効果を意図した表現は、注目を集めたいここぞというシーンに絞って使うことが重要です。
参考文献:
『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』(エムディエヌコーポレーション)
『図解 心理学用語大全: 人物と用語でたどる心の学問』(誠文堂新光社)
『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(フォレスト出版)
執筆:スプ論編集部
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