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『私は日本のスパイだった ~秘密諜報員ベラスコ~』NHK特集名作100選 ドキュメンタリー
第二次世界大戦中、日本のためにアメリカ本土でスパイ活動をし、情報を送り続けた組織がありました。その組織の名前は「東(とう)」。「東」は意外な国に本拠を置いていました。そして、ガダルカナル島攻防戦の際には米軍の大規模な動きを伝え、大戦末期には開発中の原爆について警告を発し続けましたが、なぜか日本の上層部はその情報を無視しました。アメリカの機密文書の記述を糸口に謎の諜報組織「東」の全貌を追い、その中心だったアルカサール・ベラスコという人物を探し当ててスパイ活動の実態を聞き出した、迫力のあるドキュメンタリーです。第37回文化庁芸術祭大賞受賞、第15回テレビ大賞優秀番組賞、第22回日本テレビ技術賞(撮影)を受賞しました。
昭和57年放送のドキュメンタリーです。
冒頭の番組解説は映画監督の篠田正浩氏で、とてもよい導入のお話でした。
そこでガダルカナル戦と、俳優 長谷川一夫が若林中将を演じたガダルカナル戦を描いた幻の映画「後に続くを信ず」についても触れています。映画『誰がために鐘は鳴る』ってスペイン人民戦線の物語なんですね。この作品にも言及があります。というのもベラスコ氏はもとは人民戦線に身を投じた闘士でした。
篠田監督もこのドキュメンタリーの内容とベラスコ氏の存在に驚きを隠せない様子でした。
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戦前、そして戦時中に、日本の暗号通信は全てアメリカに解読されていた…とは聞いたことのある話ですが、
その数2万枚の解読文書「マジックドキュメント」がこのドキュメンタリーに出てきます。
この「マジックドキュメント」の中から浮かびあがって来たのが
「TO」という須磨弥吉郞スペイン大使と三浦文夫一等書記官らが中心となった日本の諜報機関の存在と、
ベラスコというスペイン人の秘密諜報員です。
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このドキュメンタリーで病床の三浦元一等書記官の口からTOが「盗」であり、それではまずいということで「東」になったと聞こえたときには何故か寒気を感じました。
命がけの情報戦を戦うなかでこの三浦文夫一等書記官とベラスコ氏に絆が生まれていたことがこの記録映像の深みとなっています。
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諜報戦の内容は、
実際、驚くべきものでした。
ガダルカナル戦開戦前夜のアメリカの動きや、原爆の開発やその威力まで、この「東」機関は掴んでいたというのですから…
ただ日本政府は、その情報を生かすことが出来なかった…という
あまりに重すぎる日本の歴史の事実がありました。
ガダルカナル島での人肉食があったともいわれるほどの兵士らが陥った地獄
広島、長崎…
最後、ベラスコ氏が「日本にも情報の大切さを知る人もいただろうに」と嗚咽するのです。
何のために我々は心血を注いできたのかと…
私も涙をとめることが出来ませんでした。
こらえきれず泣いてしまいました。
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諜報活動は戦局を有利に進めるために行うものという印象を持っていました。
スパイってどのような心情なのか
想像もつきませんでしたが
このドキュメンタリーを見て、
敗戦色が強まるなかでの諜報は、
ただただ惨劇を避けるために、
行われていたように思いました。
スパイと呼ばれる人たちも
命がけでした。。
原爆開発の情報を掴んだ諜報員は、
暗号解読されラスベガスでCIAに抹殺されてしまいます。
サンディエゴで諜報員が牧師になりすまし
出撃前の兵士から告解を受けるという形で情報を得ていたという話にも驚きました。
このベラスコ氏
元闘牛士にしてスペイン人民戦線の活動に身を投じ、大学では哲学専攻、何度か投獄され、フランコ側へ転向…
篠田監督は拷問でもあったのかと言っていましたけど、その心情ははかり知れない複雑な人だと感じました。
(このドキュメンタリーには一切出てこない話ですがベラスコ氏はドイツのスパイでもあったようです。驚愕しました。)
三浦元一等書記官との絆は本当だったのでしょうね。この番組の放送後再会出来たと読みました。
ベラスコ氏はとても手が綺麗な人で
手の表情が美しいことが一番印象に残りました。手に知性を感じました。
ものすごい策士だったのでしょうね。
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そういえば須磨コレクションって聞いたことあります。スペイン美術のみならず中国美術も1万点ちかくあり、その入手時の記録も残しておりそれが価値を増しているのだそうです。
コレクションは長崎県美術館に多く寄贈され、展示されているそうです。
このドキュメンタリーを見たあとに
松本成長の「球形の荒野」をドラマで視聴しました。
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戦争末期に、日本の秘密和平交渉に身を投じたスウェーデン大使の物語です。
「終戦工作」は非国民扱いされ、命を狙われる…という中で、外交官や書記官らはどのような信念でどのような行動をとって行くのか
…戦後20年もの長い期間を経て再び物語が動き出します。
このドキュメンタリーと『球形の荒野』はどこか重なるところがあるように感じました。
どちらも戦時中の大使館が舞台です。
日本のために情報戦に知力を尽くした須磨大使と、おそらくずっと他言せず生きてこられた三浦元一等書記官の病床での証言と
ベラスコ氏の存在と
そして松本清張の着眼点にまたひとつ知らない世界を教えてもらいました。
それにしても…
『情報の大切さ』『情報を生かすこと』
これほど大切なことが
今ほどおろそかにされている時代もない気がします。
自分の都合のいい情報ばかり信じたが故に犠牲者を増やし破滅していった戦時中の日本軍のようなことにもう二度となりたくありません。
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このドキュメンタリーは本当に見る価値ある貴重なものだと思います。
スパイという言葉にワクワクする若い人にも
(正真正銘本物のスパイが出てきます。)
戦争とは、平和とは何かと考える人にも
今こそ見て欲しいドキュメンタリーです。