カタカナ語に惑わされる英語の二重母音
英語の母音の発音の話の続きです。
今回は、外来語のカタカナ表記のために、我々日本人は英語学習において損をしているという話。
日本語のカタカナ語の多くは英語由来。
なので日本人は英語を知らずとも、数多くの英単語を知っているともいえますが、当然ながら、英語には日本語にはない音がたくさん含まれているので、日本語の発音に置き換えた英語の音は正しくない。
例えば、次のような歌の題名:
のThやRなどの子音の音は日本語には存在していないので、サ行やラ行の似た音で表記するのはやむを得ないと言えますが、問題はカタカナの長音です。
英語由来のカタカナ語の日本語の長音表記は英語の母音に忠実ではなく、英語の二重母音は大抵はカタカナの長音符で表記されるのは困ったものです。
単一母音の音で、例えば<イ>の音と、<イー>の音。
英語ではShort IとLong Eと言いますが、これらの長いEの音の「イー表記」ならば問題なし。
でもカタカナの「デー」と英語の「Day ディ」は違います。
ロードとロゥドは別の音です。
こういうハイフンのような「ー」。カタカナにこの長音符が出てくると、カタカナ語の元の英語を喋るときには要注意。
長音 vs. 二重母音
長音と二重母音の違い、誕生日の歌とカントリーロードの歌から考えてみます。
Happy<ˈhæpi:> のピーは「ピー」と表記してもいいでしょう。アメリカ発音ではハピˈhæpi と音が伸びない場合も多いようです。
と歌います。
母音のæは日本語にはないので、「ヘピー」でも「ハピー」でもいいのかもしれませんが、促音の「っ」を含んで「ハッピー」が日本語。でも日本語ではハピと歌う場合もあることを上記のマンガから学びました。まあどちらも五十歩百歩な発音。
Birthday<bˈəːθdèɪ>のバーの伸びる音も、母音の部分、アとオの中間の音は日本語にないので、このままでも仕方がないと言えるでしょう。
伸びる音にRを付け足すのがアメリカ式ですが、まあお好きなように。それよりも開いたアでこの歌を日本人が歌うのを英語話者が聞くと必ず苦笑します。
スも舌を噛むThは訓練していないと発音不可能なので、サ行の音で代用も仕方がないでしょう。
でもDay「デー」はどうでしょう。またはカントリーロードのRoad「ロード」。
実はこれらは英語的には正しくない。発音は難しくはないのに。
英語には二重母音という母音が連結する音があり、これは長母音とは全くの別物。
Dayは「ディ」<dèɪ>であるべき。
Roadはアメリカ式の<ロゥド róʊd>。アメリカ人歌手John Denverの曲の題名なので、アメリカ式で読みましょう。
ドは母音のOを入れてはいけませんが、日本語ではローマ字のDoなのは仕方がない。
デンヴァーは「カゥントゥリ~ロゥド♪」と二重母音をしっかりと響かせて歌っていますね(無理やりのカタカナ表記です笑)。
ちなみに、当然と言っては当然ですが、ジブリ映画の日本語版は完全に長音ロード♪と歌っています。日本語としてはこれが非常に真っ当な音。
以上のように、ほとんどの日本語のカタカナ表記は原語の音には全く忠実ではないのです。
母音に関しては、曖昧母音などいろいろ難しいものが多いですが、全然違うと英語を喋る時に意識して正しい音を学び直しますが、微妙に似ている場合は困ります。
一見、日本人に英語語意を増やしてくれているような、こうしたカタカナ語のいい加減さゆえに、日本人で英語を喋られる方は大変に損をしている。
さらに全ての長音符が二重母音というわけでもない。長音表記が英語的に正しいこともある。
長音と二重母音、似ている音ですが、どちらが英語的に正しいのか、カタカナ語からは類推できないのは辛い。
だからわからないと、簡単な言葉だと思って疑問なく喋っていても、実際は間違った恥ずかしい発音をしているわけです。
でもおかげで逆説的ですが、英語の二重母音を長音ではなく、二重母音として正確に発声すると、貴方の英語は格段にネイティヴに近いものへと変化するはずです。
カタカナ語の長音が英語の二重母音の例
ここから間違えて発音されやすい単語を思いつくままに並べて、カタカナで無理やり英語の二重母音の読み方を書いてみます。
発音記号で書くよりもわかりやすく伝わりそうなので。
プロモート: Promote は正しくは、プロモゥト
オーバーコート: Overcoat オゥヴァーコゥト
ゴー: Go ゴゥ
ホーム: Home ホゥム
オールド: Old オゥルド
ターミネーター: Terminator ターミネィター
インフォメーション: Information インファメィシャン
ツアー: Tour トゥァー
コーディネート: Coordinate コーディネィト
スクリーンセーバー: Screen Saver スクリーンセィヴァー
イノーベーション: Innovation イナヴェイシャン
エージェント: Agent エイジェント
グレー: Grey グレィ
イエロー: Yellow イェロゥ
レディー: Ladyはレィディ。Show ショウの前の決まり文句は、レィディース・エンド・ジェントルメンです。レディースでは鈍ってるなと思ってしまいます。
これらの単語を日本語のカタカナにつられて長音で発音すると、英語にアクセントがあると言われてしまいますよ。
またカタカナで単音でも、オリジナルが二重母音な場合も
エンジェル: Angel エィンジェル
フラワー: Flower フラァゥア。この単語は三重母音なのです。
カタカナ語の長音が英語の長音の例:この場合は問題なし
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このような単語の長音はカタカナ語と同じく英語でも伸びる音。
ほんとにややこしい。
文化庁も初めから外来語のカタカナ表記を原語の音に準じるように統一していてくれればこんな問題に我々が悩まされることもなかったのに。
何気なくしゃべっている英単語が知らずに二重母音の例
よく間違えて発音されている、二重母音からなる日常語は以下のようなもの。
長音として発音してもきっと通じますが、正しい音は伸びる部分にしっかりと二つ目の母音を響かせた音。
So 文をつなぐ言葉として、英会話初心者はこの単語をよく連発しているのを耳にしますが、「ソー」ではなく、正しくは「ソゥ」
Also これもオルソゥかオールソゥ
Most 頻出語ですが、モーストではなく、モゥストが正しい。
日本語でも本来は母音を響かせる部分を長音にしてしまうことは良くあります。英語でも日本語でも方言ではこの辺はかなりいい加減。
アメリカ英語とイギリス英語で長音と二重母音が異なる場合さえもある。
こういう音の違いが方言の個性を作っているとも言えます。
イギリスでは長音でもアメリカでは二重母音の例
英語と米語の決定的な違いは、Rhoticと呼ばれる伸びる音にRを入れるか入れないかの響きの違いだとわたしは個人的に思います。スペルでイギリス式は母音Oの後にUを入れたりしますが、発音はスペル以上に大事。
アメリカ式でFirstなんて言葉は、ファーストではなくファRストと、R音を喉の奥から響かせますよね。
長音の代わりにR音が鳴るのです。まあ人によりますが、典型的なアメリカ訛りではこの傾向が顕著。
辞書を紐解くと、次のような言葉では正式にRを長音の代わりに使用して二重母音的に発音しましょうとさえ書いてある。
他にもFarとかFatherとか、アメリカ英語では長音の代わりに二重母音とRが使われる例は推挙にいとまがありません。
これも方言的な違い。こちらが正しいというわけでもありません。
In Rome… という諺がありますよね。
郷に行っては郷に従えで、どの英語圏の英語が好きかで英語の二重母音と長音を使い分けてください。
Country Roadの二重母音
さて、今日は「カントリロード(故郷へ帰りたい)」を紹介したついでですので、歌詞を読んでみましょう。
二重母音がどこにあるかわかるでしょうか。二重母音の部分を太字にしておきます。
懐かしい故郷を懐かしむ歌はいつの時代にも受け継がれてゆくものです。「ウサギ追いし~かの山~」と同じ心情の歌(笑)。
アメリカに行ったことのないわたしには、ウェスト・ヴァージニアがどんなところかは存じませんが、生まれ育った故郷を懐かしんで郷愁を歌うという普遍的な感情には心から共感いたします。
Virginiaはカタカナでバージニアまたはヴァージニアと表記されますが、正確にはヴァジニア。発音記号でもvɚdʒínjə。ジョン・デンヴァーもヴァジニアと歌っています。
シェナンドー川 (/ˌʃɛnənˈdoʊə/ カタカナで書くとシェナンドウア)はアメリカ合衆国の西ヴァージニア州に流れる川。民謡にも歌われたかの地の象徴のような川。
ドウアの部分は二重母音 Diphthongどころか、三重母音ですね。Triphthongと呼ばれます。Flour, flowerも同じ。
Monoで一つ、Diで2つ,Triで3つという意味です。
わたしがここ最近気が付いた二重母音の例でした。英語の歌を歌うとたくさんの気づきがあるはずです。カントリーロードはとてもいいですよ。是非、英語で歌ってみてください。