シューベルト作曲の「静かな海」Meeres Stille, D. 216
深い静けさが水の中を支配し
動きなく海は安らいでいる
そして船乗りは心配そうに見回す
まわりの平らな水面を
どの方向からも風がこないのだ!
恐ろしいばかりの死の静けさ!
この限りない広がりの中
波ひとつ立つことがないのだ🎵
ですが、わたしがネットで見つけてきた詩には誤りがあり、Fischer(漁師)として私は記事を書きましたが、おかしいと思いながらも、そのまま記事を書いてしまいました。
実は正しくはSchiffer(船乗り)です。英語のウィキペディアに載せられていて便利だと軽々しくコピペしてしまったのです。ああウィキはダメですねえ。日本語版のメンデルスゾーンの部分の間違い(序曲の作曲年が1830年と書かれています)には気が付いたのですが。ウィキは自分がよほどその分野に詳しくないと誤情報を見分けることが出来ません。ドイツ語の歌詞にまでは注意がゆきませんでした。
大変に申し訳ありませんでした。Schiffer(船乗り)として理解すると、これで続きとなる後半部分と整合性が取れて、連作詩のような味わいが一層深いものとなりますね。やはり名作はこうでなくてはイケマセン。
お詫びと言っては何ですが、この詩に音楽をつけた素晴らしい別の歌を紹介したいと思います。
それは歌曲王フランツ・シューベルトの名歌曲です。
生涯に600曲以上の歌曲を書き遺した大天才シューベルトですが、生前にはそのほとんどの歌曲は未出版。けれども出版された限られた歌曲は作曲者自身が選りすぐった大傑作ばかり。自己ベストだけは出版したのです。
作品1は超有名なバラード「魔王」(ゲーテ作詞)。作品2も名作中の名作、ファウスト由来の恋煩いの歌「糸を紡ぐグレートヒェン」(ゲーテ作詞)。そして三曲の作品3の二曲目がこの「静かな海」。1815年の作曲なので、ベートーヴェンの作品と同じころの作曲です。
シューベルトは尊敬する大詩人がどう思ってくれるのかと翌1816年に作品を大詩人の元へと郵送したのでしたが、ゲーテに手紙を書いたベートーヴェン同様に、ゲーテは全く返事をしなかったのでした。
シューベルトの音楽は個人的な見解ではベートーヴェンやメンデルスゾーンの音楽を上回る名品です。船乗りが風もなく立ち往生している海の不気味な静けさがこれほど見事に表現された音楽は他にはありません。でもベートーヴェンやメンデルスゾーンの作品の後半部分と対比するドラマはあまりにも素晴らしいので、優劣などを論じるのは無意味です。
紹介する動画の音源はドイツ歌曲史上最高の歌い手の一人であるエリーザベト・シュワルツコップ。名作なので数多くの名歌手が録音を遺しています。たった二分の短い歌なのですが、シュワルツコップの名歌唱は忘れがたいものです。
ちなみにシューベルトの出版番号作品4はこれまた有名な「さすらい人」。のちにシューベルトが超絶技巧ピアノ曲「さすらい人幻想曲」の主題にする音楽ですが、この詩の作者はゲーテではなく、ゲオルグ・リューベクでした。
さすがのシューベルトも返事をくれないゲーテに業を煮やして、もうゲーテの詩を相手にしなくなったのでしょうか(笑)。でも作品5の歌曲三曲はやっぱりゲーテの詩につけた音楽となるのです。作品6以降の歌曲はゲーテではありません。
わたしはゲーテの詩句を読みたいからドイツ語を学んでいます。ゲーテはシューベルトやベートーヴェンのファンレターに返事を書かないような人でしたが、やはり大詩人の言葉は本当に魅力的なのです。シューベルトの歌と同じくらいに。
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