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グルジア(ジョージア)くんだりまで、わざわざスープを啜りに征ったことりっぷ🇬🇪🍲外偉人レコード⑤GAGA丸の巻

チェコ語ならば”boršč”と綴ってボルシュチみたいに読ませるが、プラハに暮らしている間、近所のロシア系食料品店に並ぶ謎のキリル文字がラベルを彩るカラフルな瓶詰めのボルシチが、異国に生きる僕の温かい味方だった。スラブ言語の奥ゆかしさと、世の中が断じて一枚岩ではない意思表示の様な文字と文体の踊る面白さにも魅了されながら。

毎回、違うバージョンを試したくなる瓶詰め

手羽元やキノコ、ニンニクを炒めた後に、赤紫に濁った練りボルシチと水を小鍋に投入し、ビートとお肉がしっくり馴染むまでコトコト煮詰めて仕上げ、香ばしくニンニク薫るborščでライ麦パンを流し込む、肌寒き夜の幸せ。

級友のウクライナ人達とランチに出掛ける際も、ほぼ毎度、ボルシチの美味しい店に連れて行かれた。そんな中で、抜群にハマったのが、グルジアのオカンが作る近所のスープ食堂”Polévkárna paní Mančo”の香草薫る刺激的なボルシチである。ハチャプリと呼ばれるチーズやホウレン草がめいっぱい詰まったモッチモチなパンケーキとの定番コンビが乙である。

ウクライナ人のソウルフード・ボルシチ🇺🇦

新市街のど真ん中にドスンと荘厳な聖リュドミュラ教会が聳える広場・Náměstí Míruで路面電車を降りて、五分ほど歩くも良し、お店の目と鼻の先に在る電停・Bruselskáで降りて直入りするも良し。

聖リュドミュラ教会🛕猛吹雪のクリスマス🎄

外に並べられた座席か、寒い日には窓際の席に陣取り、レトロなかわいいトラムを眺めながら、冷める前にそそくさとハチャプリをスープで流し込む。遠きチェコに在りて胃も心もホッとする豊かなひと時。食べ終わってまたしばらく、ブリキのおもちゃの様な赤い露電の往来やバービーちゃんの如き脚長女性、GIジョーの如き肉厚な野郎どもを眺めながら、世の矛盾を受け容れる自虐的な爽快感。前世は、きっと斯様にカッコいいボヘミアンだったのかもしれないし...とか前向きな妄想にも耽りながら。

赤い路面電車の往来を眺めながら、
ボルシチ+ハチャプリの一汁一パン。

無いものねだりが大好きで、丸眼鏡を掛け典型的な短足大正浪漫系日本人の僕が、幼少期憧れた外国人が、プッシュプッシュのハワイアンスモウレスラー・高見山大五郎関であり、そのまま大人になった時にファンになった関取が、グルジア出身の超巨漢あんこ型力士・臥牙丸太郎改め臥牙丸マサル関である。
「なんでそこまでデカいん?何喰ったらそこまでデカくなれるん?なんでガガマル・マサルなん?」の謎。怪人なんちゃら面相なんてインチキな下郎だったが”二倍二倍”のジェシー高見山や最重量285kgを誇ったサレバ小錦、我が愛しのレディー臥牙丸は、角界の歴史にビビッドな花を添えた、真に魅惑的な怪人であった。

勝ち越しを決めた直後の臥牙丸関を祝す。
「あざす!」と流暢なスラングで返ってきた。

臥牙丸勝こと本名ジュゲリ・テイムラズは、1992年のバルセロナ五輪・柔道男子95kg超級であの小川直也を降して金メダルを獲得した母国の英雄ダヴィド・ハハレイシヴィリに憧れて弟子入りした。小川の金メダルは堅いと踏んでテレビにカジりついていたワシら日本人をギャフンと言わせた柔道家・ハハレイシヴィリもまた、ニッポンの国技・お家芸に敢然と立ちはだかった魅惑の怪人であった。

ジュゲリはその後、2005年7月、二足の草鞋で出場した世界ジュニア相撲選手権無差別級三位の敢闘や、まるまる太った武蔵丸並の肉体が目に留まり、2007年、木瀬部屋に入門した。しこ名・臥牙丸の”丸”は、その武蔵丸の様に大きく丸々と育って欲しいとの想いを込めて命名されたらしいが、武蔵丸のマルは本名フィヤマル・ペニタニから文字ったものと憶われる。

2012年9月場所前の身体測定で自己最重量212kgを記録し「日本食が美味し過ぎるのがいけないんです(T . T)。。」とかお茶目な言い訳もしながら、納豆や豆腐、黒いマー油のパンチが効いた師匠(肥後ノ海)ゆかりの熊本ラーメンやアイス”PINO”への愛着も語った。化粧まわしは、ソウルフードであるジョージアヨーグルトの助太刀で中沢乳業社から贈呈され、同様に大好物なチーズが、日本ではやたら安いと思って毎日何パックも食べていた折、実はそれがチーズではなく豆腐だった、と云う落ちの噺もある。風貌もココロも愛くるしい臥牙丸の古里を歩く我が美食紀行もまた、刺激的なことりっぷになった。

クタイシの街を一望出来るバグラティ大聖堂

初秋のチェコから日本に帰る道すがら、ジョージアの古都・クタイシに寄り道して、本場のグルジア料理を堪能してから、乗合ヴァンに五時間ほど揺られ首都トビリシに移動し、臥牙丸の故郷を街歩きした後、アジアに戻る美味しい廻り道を選択した。

日本人とバレるや”トチノシン!”言われます。

クタイシ空港からアメリカ人カップルのレンタカーに相乗りさせてもらって、市街地のど真ん中に在る評判の名店”Doli”へ直行した。日本人ならばノービザで365日滞在出来る超親日国家の入国審査の列はすこぶる長く、待ちくたびれた煽りで空腹を極めた頃合の夕刻に”Doli”にたどり着いた。早速、お待ちかねのスープがドサッと出てきた。お肉や野菜がゴロゴロ沈んでいる。刺激的な香草の芳香も食欲をそそり、ホロホロに煮込まれたビーフを噛みしめ、音を立てずに魔性のスープを啜って、オマケのパンをくちゃくちゃ胃に流し込んだ。彼の地が肥満大国ならば、やはり「まいうーー!!」と叫ぶべき状況であろう。シンプルな焼きたてパンも実に旨く、炭水化物食べ過ぎの満腹度100%を超えた頃に、ようやく自慢のハチャプリとやらが焼け上がってきた。しかし「ワシぁもぉ喰えんばい。。」プラハの近所のシンプルなスライスと違って、生卵とバターまで乗っかっとるホールサイズやん!申し訳程度に三口だけ齧って、包んでもらいtake awayした。ボルシチ風スープはコッテリ・ビーフマシマシ・野菜香草マシマシ・刺激マシマシで、臥牙丸をそのまんまスープとして体現した様な、ガガっと豪快な逸品だった。ハチャプリは、もう満腹中枢が麻痺した頃に登場したわけで、評価不能デス。しかし、もしも空腹時に食べていたら、きっと絶品だったはずデス。

お肉も野菜もゴロゴロ豪快
チーズマシマシ・生タマゴ・
バターマシのハチャプリ

翌朝の朝ごはんに宿のレンジでチンしてから食べればイイや、くらいに考えていたら、甘かった。普段はオトナしい番犬のハスキーくんが、お客の僕が抱えて来た美味しい匂いの充満する紙袋に興奮冷めやらず、鼻息をブンブン吹きかけて、臥牙丸の立合の様に巨漢をワシにぶつけてくるではないか。グルジア人の絶大な食欲と大きな胃袋は愛犬も例外ではなく、綺麗に全部たいらげられてしまった。欲張りだなぁ、ちくしょう、笑!しかし、ハチャプリのお陰でチェックアウトまで愛嬌振り撒かれまくって、メロメロかわいかったから赦そう。グルジア人のソウルフードは愛犬ハスキーのソウルフードでさえあったのかもしれない。

おい、喰いたい!やい、喰わせろ!
ハチャプリの隣の林檎は青い🍏
お腹いっぱいで再びオトナしくなる。
完食後、申し訳なく感じたのか、
ごまかしの愛嬌を振りまく。

トビリシは、想像の十倍デカい街で、クタイシのハスキーレベルのスケールくらいに想っていたのに、臥牙丸レベルの巨大都市がお目見えした。トビリシの教会や大聖堂も、どれもこれも臥牙丸の肉体の様に丸くモコモコしていて、ゴツかわいかった。滞在最終日、朝から街を歩き回った後の最後のランチも、やはり美味しいボルシチを一杯啜ってから、空港に向かった。一汁一菜で済ませられれば、僕の様な凹んだお腹に、お腹いっぱいいっぱい食べないと気が済まない大食漢は、臥牙丸の様な丸くかわいいお腹に仕上がる。単に、現世でのライフスタイルの違いである。が、来世は、なんとなく後者に生まれ変わる予感もしている、笑。熊本ラーメンもクマモンも隈研吾も、PINOも野茂も煩悩も、黒海も後悔も把瑠都海も、マツコもマサルもメガネザルも、いろいろごった煮でゐた方が、あった方が、世の中は豊かなはずだ。結局、ココロさえ丸く生きれば、凸凹どっちの人生旅も、きっと乙な旅である。

臥牙丸みたいな体型のトビリシの大聖堂
一汁一菜で済ますケチな人生を謳歌すると、
こんな凹体型になります。OMG…

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