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【読書】恩田陸作品が繋いでくれた春 |恩田陸『spring』

 高校一年の春。不安と期待を胸に顔を合わせたクラスの自己紹介で出席番号が最後だった彼女が好きなものとして挙げたのが小説、そして恩田陸作品でした。中学校までの私にとって本というものは自分しか知らないもので、時に自分を守るためのものでした。ましてクラスメイトが自分の好きな作家について自己紹介で話すなんて考えられませんでした。だからこそそのことがとても嬉しく、選択授業の移動で勇気を出して話しかけたのをよく覚えています。恩田さんの描写力が素晴らしいこと、登場する女の人がとても素敵なこと、あまりの臨場感に驚いて思わず本を閉じてしまったことがあること...。ぎこちなくですが少しずつ話し、友達になりました。
   
高校二年の春。新しいクラスでの自己紹介で担任の先生が話すテーマに挙げたのは「今推しているもの」でした。皆が好きなアイドルや配信者の話を少し恥ずかしそうに話す中、再び同じクラスになれた彼女が推しとして挙げたのも変わらず恩田陸さんでした。それを聞いていると高校一年の時が思い出されて懐かしくもあり、恩田陸さんの魅力を知っているのもそれを彼女と共有しているのもクラスでおそらく私だけであろうことに少しの優越感を感じていたような気がします。
しかし高校三年生になると、受験という静かな大きい壁の雰囲気が学年に立ち込めてきました。地方の県だからこそ県内では最難関である私の高校に大学受験生やそれを応援するカリキュラムが集中しており、その雰囲気は仕方ないことで当たり前のことでした。でも、入試科目以外の教科はなくなり志望大ごとに教室を分けて講習が行われるようになって、私と彼女との接点はどんどん減っていきました。
 卒業式の日、彼女から一緒に写真を撮りたいと話しかけてくれました。周りもなんとなく卒業後も会うのかどうかお互いに探り合うような卒業式の雰囲気の中で、その時「なんかおすすめの本見つけたらLINEしてよ。」と言ったのを覚えています。今になって考えればあまりに社交辞令すぎてよくないですね。自分が卒業後も会いたいと思ってもらえているのか怖かったのだと思います。
でも、その写真をあとで送ってくれたのを見て、このまま関係が終わるのはもったいないと強く思いました。幸い彼女の進学先も私と同じ関東圏だったため、新生活の準備が終わった四月頃に遊びに誘いました。

大学一年の春。待ち合わせ場所の周りには人がたくさんいて、なかなかお互いを見つけられませんでした。学校の外で会うのも初めてで、お互いの私服を見慣れていなかったのもあるのでしょう。私は見つけてもやっぱり最初はなんか変な感じで、地元ではないような服屋を回っていてもどこかふわふわしていました。
そんな時、彼女が「本屋に寄りたい」と言い出しました。実家に本を置いてきてしまい読む本がないから買いたい、と言われ、二人で近くの本屋に入りました。
本屋の二階、小説の平積みコーナーで目に飛び込んできたのが恩田陸さんの『spring』でした。すぐに彼女に「これ、恩田陸さんだよ!」と知らせると彼女も目を輝かせてくれました。二人で本を開いて書かれているあらすじを読んで話したときやっと私のふわふわは消え、これからも彼女と関係を続けていける確信に変わっていきました。
そして、彼女はその真っ白な美しい本を購入していました。彼女とは今も友達です。



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