日本初のPLG成功モデルを目指す【Spirは何を実現しようとしているのか③】
日程調整カレンダーを提供し、著しい成長を見せているのがSpirです。我々SpirではProduct-Led Growth(以下、PLG)という成長モデルを採用し、日本のPLGモデルの代表格と言われるようになりました。
PLGはZoomやSlackといった世界的スタートアップが採用しており、Spirは日本発のPLGモデルでの成功を目指しています。PLGとは何か、そしてSpirがなぜPLGを採用し、どう戦略立てているのかについてお話します。
SaaS ビジネス最先端にあるPLGとは?
Spirは、日本ではまだあまり馴染みのないPLGを事業の成長モデルとしています。PLGはアメリカ発の概念で、「プロダクトそのものが顧客獲得、有料化、拡大の主要ドライバーとしてエンドユーザーに焦点を当てた成長モデル」です。
わかりやすくいうと、まずは無料、もしくは安価にプロダクトを利用してその価値を理解してもらい、クチコミによってユーザーを獲得します。Zoom、Slack、Notionなど、現在、世界的なシェアを獲得している海外SaaSスタートアップの多くが、このPLGで大きな成功を収めています。
一方、PLGの対極にあるのが、SLG(Sales-Led Growth)です。SLGは簡単にいうと、セールスがプロダクトを売って成長するモデルのことを指し、その代表的な存在が「The Model」(※)という営業プロセスを活用したセールスフォース・ドットコムです。現在、日本のSaaSビジネスは、ほとんどがこのSLGを採用しています。
※The Model…営業プロセスモデルのひとつ。営業プロセスを切り分け、それぞれのレイヤーでの情報を数値化・可視化し、各担当部門が連携。顧客満足度を向上させ、営業効率を上げる。
PLGはセールスよりもプロダクトを軸として事業の成長を目指すという点で、SLGと大きく異なります。セールスの力に頼らない代わりに、プロダクトの価値を高めてユーザーを獲得。クチコミでエンドユーザーを増やすと同時に、ユーザーが自発的により使い勝手のよい有料版へ移行するというプロセスで収益化を図ります。
ポイント① 世界での勝負には、営業主導では難しいという現実
世界的には主流でも日本で採用するスタートアップがほとんどない中、SpirがPLGを採用する理由は、創業時から、グローバルで通用するプロダクトにするという目標があるからです。
セールスの力で成長するということは、当然、営業メンバーが主導で進めます。しかし、創業時からグローバルの営業拠点を増やすのは現実的ではありません。当然、国内で成功を収めてからグローバルへという段階を踏むことになります。
しかし、UZABASEでSPEEDAやNewsPicksの海外展開をしたときに、国内で成功したプロダクトをグローバルに展開する難しさを実感しました。国内で成功したプロダクトは、国内に最適化されてガラパゴス化してしまう。それを海外にローカライズし直し、さらにグローバルに営業拠点を増やしていくのは、手間も時間もお金もかかります。しかも、そこまでしても成長のハードルが高いのが実情です。
グローバルで挑戦するには、国内にローカライズせず、最初からグローバル仕様のワンプロダクトであることが必須条件だ。過去の経験からそう考えていました。
ポイント② 個人のクチコミが成長ドライバーになる
Spirを創業し、まだプロダクトを開発するのに手一杯だった頃、UB Ventures代表の岩澤脩さんから教えてもらったのが、PLGという概念でした。海外のカンファレンスで、SaaSプロダクトの成長モデルとしてPLGに注目が集まっていると聞かされたんです。個人がすぐに使えて、それが徐々にチームや会社に広がっていく。まさにSlackやZoomがPLGで大きな成長を遂げていました。
当時のSpirはこれから成長戦略について考えるという段階でしたが、PLGを知って、自分たちの実現したい世界を広めるにはこれしかない!と直感。日程調整カレンダーから個人のデータベースをつくり、それを世界中で使ってもらうには、誰もが使えるプロダクトとしてリリースし、ユーザーを増やす。そこからさらにクチコミで日程調整を主催するアクティブユーザーを増やすモデルにこそ、Spirのグローバルの可能性が広がっていると感じたんです。
こう話すと、最初からPLG戦略がクリアに見えていたように聞こえるかもしれませんが、決してそうではありません。最初からグローバルを目指す、カレンダーを起点とする個人データベースを構築する、クチコミで成長するPLG…。試行錯誤を重ねる中で、これらのキーワードがぴったりと重なり合ったというのが、正直なところです。
ポイント③ 「機能」よりも「気持ちよく使える」にこだわる
SlackやZoomがPLGで成功した理由はいろいろ分析されていますが、結局は「どれだけ気持ちよく使えるか」が、競合サービスとの差別化となったのだと思います。それは他のプロダクトやサービスでも同じです。
たくさんのECサイトがある中で、誰もがAmazonを選ぶのはなぜか。それは、商品ラインナップの豊富さも含めてどこよりもスムーズに買い物の体験ができることでしょう。
クチコミが成長を牽引するPLGで、肝となるのは「どれだけ優れた機能をそろえるか」ではなく、「どれだけ快適なユーザー体験が提供できるか」に尽きます。機能は後からでもプラスすることができます。それよりも「気持ちよく使える」ということに徹底的にこだわろうと考えました。
ポイント④ ユーザーの声にいち早く対応する
カレンダーも日程調整も、世界中の人が共通して使うツール。ローカライズしなくても、そのままグローバルで使えるのは、大きな強みです。
しかも、日程調整は、相手と情報を共有するので、構造的にプロダクトを拡散しやすいというメリットがあります。2020年11月にβ版をリリースし、2021年5月の正式ローンチからたった2カ月でユーザー1万人を突破したことからも、日程調整カレンダーとPLGとの親和性がわかると思います。
PLGでは、ユーザー体験の質を高めると同時に、その価値をいかに早く感じてもらうかもポイントです。そのためには、まずはユーザーにきちんと使ってもらい、満足してもらえるようなプロダクトを提供するしかありません。
当然、どの段階でユーザーを増やすかも、戦略的に設計しています。もちろん、最初の段階でユーザーをできるだけ多く獲得するという手法も可能ですが、プロダクトが未熟なままでは、穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。
ですから、Spirでもβ版は当初1000名に限定。ユーザーの声を聞きながら、アップデートすることでプロダクトの完成度とユーザーの満足度を同時に上げるようにしました。
ユーザーの声にいち早く対応することで、ユーザーエンゲージメントが高まり、彼らのクチコミで他のユーザーがやってきてくれます。結果的にアクティブユーザーが増加するという、小さなPDCAサイクルを丁寧に回すようにしました。
先ほどもお話したように、満足度を上げるのは「機能」ではなくて「体験」です。同じ機能でも、体験の満足度はUIやUXによって全く違ったものになります。
例えば、日程を調整するときは、候補日と自分の予定を同時に確認したいですよね。何か機能を削ぎ落としてでも、ひとつのページで完結できるほうが、絶対的にユーザー体験は上がります。
いかにストレスなく、スムーズに気持ちのよい体験を提供するか。どこまでこれにこだわるかが、PLGの成否を決めるといってもいいでしょう。