〔憲法コラム17〕行政機関による裁定
1 司法の一元化
現行憲法は、「法の支配」の下、民事事件・刑事事件のみならず、行政事件をも「司法権」の範囲に属するとして、司法の一元化を果たしている。76条1項の「すべて司法権は・・・・・・裁判所に属する」との規定は、このことを含意したものであり、同条2項は、この規定を支えて、その徹底化を図ったものであると理解されている。
2 特別裁判所の禁止(76条2項前段)
特別裁判所とは、特別の人間又は事件につき裁判するために、通常裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関をいう。例えば、戦前の軍法会議、皇室裁判所、行政裁判所等である。
特別裁判所の設置は、平等原則や司法の民主化の観点、また、法の解釈の統一という観点から適切でないため、憲法が明文で禁止したものである。司法権を重視するものといえることから、「法の支配」の現れといえる。
家庭裁判所は、特殊の人又は事件のみを管轄する裁判所であるが、通常裁判所の組織系列に属する下級裁判所であり、特別裁判所ではない。
また、行政事件だけを扱う行政裁判所や、労働事件だけを扱う労働裁判所等を設けても、それが通常裁判所に上訴できるのであれば、特別裁判所ではない。
3 行政機関による終審裁判の禁止(76条2項後段)
行政機関による終審裁判の禁止も、特別裁判所の禁止と基本的に同趣旨である。
特に、行政機関が終審として裁判をすることは、司法権重視という「法の支配」の観点から許されない。
逆に、この規定からは、終審としてではなく、前審としてならば、行政機関による裁判(公正取引委員会の審決等。一般に行政審判と呼ばれる。)も認められると解されている。これは行政権と司法権の役割分担の問題である。専門技術的な判断が必要な分野に関して、より実質的な人権保障の観点から、前審としての関与はむしろ望ましい場合があるからである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?