広告&広報に関わる人の必携本『新プロパガンダ論』
今年に入って広告関係の書籍がたくさん出ていますね。その中で異彩を放っているのが『新プロパガンダ論』。広告や広報に関わる人に、とにかくおすすめしたいのです。
本書は、近現代史の研究者である辻田氏と公共政策を専門にしている西田氏による対談集です。2018年4月から2020年9月にかけて行われた、5回にわたる対談を掲載しています。
広告業界に身を置くと、「政治なんて自分とは関係ない」と言い切る人も意外と多いものですが(おそらく世間一般のイメージとは違う)、そうも言っていられない状況かと思います。
2021年の夏は、官公庁の案件を担当しない人も含めて、多くの人が「政治・政局に仕事が揺さぶられる」経験をしているはず。この次に備えて何をすべきなのか、自分で考えたい人には、心からおすすめしたい。
そもそも「この混迷の原因がどこにあるのか、自分の頭で考える」と言っても、いきなり哲学書を読んだのでは抽象的すぎます。だから極論に走りたくなってしまうものです。本書で取り上げるのは、業界関係者なら記憶にあるであろう、さまざまな事例。慣れ親しんできた世界を通して、具体的に考えることができるのです。
二人の掛け合いで議論が続いていくので、少し難解な概念があっても、読み進めやすいはず。いやむしろ、多少の引っかかりがあっても、まずは通読してみると前後の関係で分かることがあるかもしれません。細かいことですが、本文のそばに「注」があるので、何度でも行きつ戻りつができます。
ラジオのような臨場感もあり、整理されつつも行間からは読み手を意識した配慮がにじみでています。自然と「じゃあ自分の場合はどう思うだろう」と思いながらページをめくることができるはず。
特に巻末付録の「国威発揚年表2018-2020」は必見。自分のやった案件が、どのタイミングでリリースされたのかなど思いをはせるのも一興かも。いや……時にはツラいものがありますよね。でも現実は受けとめたい。
※これらは公開対談で動画も購入可能なようですが、視聴時間も非常に長くなることですし(もちろん文字起こし本ではないので)、まずは編集された本を読むのをおすすめします……。
あ、そうそう。Kindle版もありますよ!
最後に……「プロパガンダ」という言葉にたいしてのわたしの立場を記しておきます。自分の有料マガジンでもさんざん書いているとおり、プロパガンダと広告は切っても切れない関係にあると考えています。どんなものの言い方をしたところで、本質はプロパガンダであるから。当事者から少なからず発せられる「かつてプロパガンダと言った時代もありましたが、今は関係を築くんです」という触れ込みにも注意したいと思っています。
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