ヒロシマとイロシマ~『二十四時間の情事』
日仏合作映画『二十四時間の情事』(59)、原題Hiroshima mon amour(広島わが愛)。
しかし、「二十四時間の情事」とはよくもつけた邦題だと思う。その名のとおり、映画は男女の情事の背中から始まる。フランスの監督が、『去年マリエンバートで』でのアラン・レネが、広島を、原爆を、撮るとこうなるのか! 驚く人も多いだろう。
主要登場人物はエマニュエル・リヴァと岡田英二の二人だけ。しかもシナリオではElle(彼女)とLui(彼)と処理さえていて、本名は一切語られない。
脚本はマルグリット・デュラス。岡田英二が流暢なフランス語を話すが、これはセリフをテープレコーダー(当時のことだから、当然オープンリールだろう)に引き込んでもらい、耳で覚えたという。
冒頭の会話はこう――
Lui : Tu n'as rien vu à Hiroshima. Rien. 男)君は広島の何も見ちゃいないのさ
Elle : J'ai tout vu. Tout... 女)私は見たのよ、全部
女の見たものは、原爆病院、患者たち、原爆資料館の展示物、あるいは記録映画…。
しかし、男はなおもTu n'as rien vu à Hiroshima. Rien.と付け放す。
興味深いのは、二人の語ろうとしている「広島」である。仏語ではHは無音だから、リヴァがHiroshimaと発音するとイロシマになる。一方、岡田のHiroshimaとはあくまでヒロシマだ。
「君の見たものは(ヒロシマでなく)イロシマだよ」といわんばかり。これは演出上、意図したものであることがラストでわかる。
これに関して、僕は「ヒロシマとイロシマ二十四時間の情事」という一文で触れた。単行本『ゴジラと御真影』に収録。現在、入手が困難になっておりますので、古書店などで見つけられたら、ぜひゲット!よ。まあ、自分としては原点かなあと思う一冊です。
映画に話を戻そう。戦後15年経ち、ようやく戦争の傷跡から立ち直ろうとしている広島の街並みが映し出される。▼はイタリア語版。
同時に、日本のあまたの”広島”映画がスルーしてきたものもしっかり映りこんでいる。絵ハガキや真珠細工の原爆ドームのお土産を売る店、ATOMIC TOURと書かれた観光バス、どーむ(いうまでもなく原爆ドームからのネーミング)という名の深夜喫茶。これらは、原爆を憎みながら原爆で商売する(せざるをえない)広島の人たちの苦渋を見るようだ。そして、平和を訴えるはずのデモ行進が政治的デモに変容していく様子も。
フォトグラファーでもあるエマニュエル・リヴァは、撮影の合間をぬって、広島の街並みや人をカメラに収めている。これは今世紀になって『HIROSHIMA1958』という写真集にまとめられた。
エマニュエル・リヴァ、Hiroshima mon amourを語る
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