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月の満ち欠けと農


<月の満ち欠けと農>

すべての生命が水を必要とし、月の引力に影響を受ける。
月の誕生は地球の誕生とほぼ同じ46億年前で、さまざまな説があるが現在有力視されている説はジャイアントインパクト説だ。

火星サイズの天体(地球の約半分)がぶつかった衝撃で、宇宙空間に飛び散った地球や天体のかけらが集まってできたという説で、月は地球から別れて生まれた兄弟のような存在だという。アポロ計画によって採取された月の岩石から、地球由来と地球外由来の成分が含まれていたことから生まれた説である。コンピュータを使ったシミュレーションでは衝突してから約1ヶ月で月ができたという。原始太陽ができて約1000万年後の話だ。

月の裏側には無数に刻まれたクレーターがある。多くの隕石が衝突した証拠で、地球の代わりに隕石を受け入れる盾の役割を担っているという指摘がある。巨大隕石の衝突で恐竜たちが絶滅したことを考えると、月は知らないところで地球生命体の命を守っているのかもしれない。

世界中で月は観察され、愛され、文化を彩ってきた。月の姿は日本ではうさぎの餅つきだが、インドではワニ、中東ではライオン、ヨーロッパではカニ、アメリカでは女性の横顔だとそれぞれだ。

ツキノワグマという名称の「月の輪」はなんとも日本らしい。クマの胸の斑紋を見て、月を連想させる民族はそうはいないだろう。宇宙に浮かぶ月は満ち欠けを繰り返すが、日本ではその変化は死と再生を繰り返す輪廻、不老不死を象徴すると考えられ、信仰の対象となっている。ツキノワグマは冬になると死(冬眠)の世界に入り、春に蘇る再生の力を持っている。そんな神秘な力を持つクマの胸の斑紋に、日本人は輪廻を象徴する月の姿を重ねたのかもしれない。

北半球の月の南中高度は白道の傾きの関係で秋に一番高くなる。つまり空気が綺麗なだけでなく、お月様も中天高く舞い上がってくれるので月見の季節にもってこいだ。旧暦の8月15日と9月13日の月をそれぞれ中秋の名月、十三夜と呼ばれ、特に見事に月が映える。もしその夜が雨になると雨の月といい、これもまた趣がある。

田毎の月とは水を張った棚田などにぽっかり浮かぶ月のことで、山の斜面に所狭しと大小姿形がさまざまな田んぼに浮かぶ月をそう呼んだ。長野県の姨捨地域の棚田が有名だ。

月が世界中の文化の中で強い存在感を持っているのは、農に深く結びついているからだろう。女性の生理周期が月の満ち欠けのリズムと呼応するように、植物もまた呼応して成長する。その様子を観察してきた農家は月のリズムに合わせて、適期適作を心がけてきた。旧暦である太陽太陰暦が農事暦と呼ばれるのはそのためだ。

新月の頃は土中水分が地下深くのところに集まる。そのため水を求めて根が深く深く伸びようとし、茎葉や実よりも根に水分が多くなる。根菜や芋類はみずみずしく美味しくなるが、保存には向かない。実は水分が少ない分、漬物や乾燥させるのに適している。茎葉は剪定に耐えられるおかげで、雑草は草刈り後の回復が早い。

満月の頃は土中水分が地表面に集まる。夜も光合成ができるおかげで、根よりも茎葉に水分を多く蓄える。根菜や芋類は味は落ちるが保存に効く。実は水分を置く含み生食に適している。茎葉は剪定の影響を受けてしまうが、雑草は回復が遅くなる。

畝立てからタネ蒔きに定植、草刈り、土寄せ、収穫まですべての野良仕事において月を意識することで、必要最低限の手入れで最大限の効果を得ることができるのは宇宙の力を利用するからだ。しかし、日本のように雨が多い地域では月の満ち欠けばかり気にしていると、野良仕事を終えることができなくなってしまうので注意が必要だ。何事もこだわりはほどほどが良い。

夏になると虫が街灯などに集まっている様子をよく見る。虫が光に向かう習性を走光性という。夜行性の虫は月を頼りにして飛ぶ方向や高さのバランスを取っているという説が有力だ。虫が卵から孵り、成長し、恋し交尾し、産卵までのリズムもまた月のリズムに呼応する。多くの害虫が夜中に動くように、満月は彼らにとって忙しい季節だ。しかし、植物もまた活発に動く季節でもあり、益虫やコウモリなどの益獣もしかり。そのため、生物多様性が整えば特に心配する必要はない。


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