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タネ蒔きと間引き 月の作用


<タネ蒔きと間引き 月の作用>

タネの発芽には三大条件がある。これもまたひ・ふ・みからなる。

種子には太陽光をしっかり感じることで発芽のスイッチが入る好光性種子と、その逆で太陽光が全く入らないことでスイッチが入る嫌光性種子がある。

一般的にタネが厚いものほど嫌光性である。そのため、覆土はタネの厚さの2~3倍にすればその条件に合わせられることができる。本来植物は太陽光よりも月光によって発芽のスイッチが入る。タネをわざわざ土の中に入れるのは強すぎる太陽光を柔らかくするためだ。嫌光性種子は光は要らないわけではなく、柔らかな光がわずかにあるほうが発芽率が高まる。

太陽光にも月光にも消毒能力が確認されている。とくに種子の中に侵入しようとするカビ菌や細菌に対してだ。発芽というが実際には根を出す。植物にとって根を出すことは命がけでもある。根が死んでしまえば、そのあとの成長は全く見込めない。そのため、植物は根を出すときが一番慎重になる。農家は植物が安心して根を出せるように大地を整える。

土の中に空気(風)が含まれていなくてはならない。なぜなら、根もまた呼吸をするからだ。液体(水)と個体(土)ばかりが占めている土中はカビ菌が発生しやすい環境でもあるため、根を出すのを辞める。多くの初心者はタネ蒔きの後に雨が降ることを良いと考えがちだが、実際は雨が止んでしばらくしてからが最適だ。職人は畑に出て土を触って確かめる。

すべての生物に水が欠かせないように、種子の発芽には水は欠かせない。水を吸うことで酵素の働きが活発になり、新しい細胞をつくる活動が始まる。つまり休眠から目覚めるのだ。種子は生きているからこそ、水を使って生命活動をする。

大きくて厚い種子ほど多くの水を必要とする。そのため、事前に吸水させておくことも発芽を促すことになり、雑草よりもスタートダッシュに成功する。吸水時間が長すぎると根が出てしまい、土中内に埋め込むときに傷ついて一気に弱ってしまうので、注意したい。吸水時間は一晩(約8時間)ほどに押さえておこう。

水といえば、ここにも月が関係してくる。月の引力は地球の水そのものに影響を与える。満潮干潮のように、水を引っ張りあげたり、押し下げたりする。月の引力で地表面まで水が引き上げられ、水で満たされる。

そして満月の夜は地球を挟んで、月と太陽の引力が拮抗し、地下深くへと引力があるので、根を張りやすくなる。逆に新月の時は月と太陽は同じ方向にあるので、引力は上へと強く引っ張られてしまう。種子から伸びる最初の根はごくごく小さい。そのため、あの小さな根でも月の引力を利用することで土中内に深く深く伸びることができる。

その小さな違いに気がついていた農家は上弦の月から満月に向けてタネを蒔いていた。満月になれば夜間もわずかだが月光によって光合成ができるから、そのときに芽が出ていれば成長が促される。

『月と農業』では南米の有機栽培農家が新月の時に根菜類のタネを蒔き、満月に葉菜類・果菜類のタネを蒔くことが紹介されている。これは根菜類は収穫までの数ヶ月の間に新月が多く迎えることで根が深く太く成長するためであり、葉菜類や果菜類は満月を多く迎えることで茎葉と実が大きく成長するためだろう。日本でも同様の効果が期待できるが、南米と違って一年中多く雨が降る日本ではあまりこだわり過ぎる必要はない。

またひ・ふ・みが合わさったものが地温である。種子袋に載っている発芽適温とは気温ではなく、地温である。太陽光によって温められた空気と水を含む土の温度が種子の発芽を促す。

種子が発芽に失敗するのはこの三つの条件が一つでも揃うと発芽しようと準備するためだ。これもまた栽培種の性質である。野生種はすべてが揃ったときに発芽のスイッチが入る。

この三つの条件を徹底的に排除するのがタネの保存の最適な方法でもある。つまり瓶の中に入れて冷蔵庫にしまう。とはいえ、すべてのタネにしようとすれば場所も必要だし、専用の冷蔵庫も必要だし、瓶の数も多く必要になる。種子寿命はほとんどが数年しかないのだかが、ビニールや紙袋を使用して積極的に蒔く方がよい。江戸時代の百姓もタネの保存場所は冷蔵庫ではなく畑だったのだから。

自然界を観察してみると種子、昆虫、苗、さらに動物でさえもたくさん作りすぎているように見える。どうやら間引きするのは食物連鎖の上にいる者たちの生存を支えるためだけでなく、適者生存を保証するためでもあるようだ。人間が密に蒔きすぎたタネもどんどん虫に食べられるが、たいていいくつかは生き残る。

ダーウィン進化論の限界の一つは、適者生存につながる自然淘汰ばかりに意識が向き、そもそもの多様性を生み出すプロセスに注意を向けなかったことになる。自然界では突然変異種も含めて、大量に子孫を残し、自然淘汰によって自然に間引きされ、再編成されていく。

間引き後に多様性が広がるのは、自然の基本的パターンである。このパターンは、地球の歴史といったスケールから、企業の成長と発展に至るまで、ありとあらゆるシステム、あらゆる規模で当てはまる。

だから冷蔵庫に大量にタネをしまっておくのではなく「恐れずにタネをたくさん播く」ことだ。家庭菜園初心者にありがちなのがタネをケチって播くこと。たとえ購入したものでも、他人からもらったものでも、自家採種でもタネは古くなればなるほど発芽率が落ちる。発芽率が落ちれば育苗も栽培も失敗が多くなる。だから、確実に必要な分だけ用意できるようにタネはたくさん播こう。

タネを空間・時間をずらしてどんどん蒔けば、必ず最適な空間と時間に適合する。合わなかったものは虫や土中生物に食べてもらって豊かな土に変えてもらっても良いし、スプラウトとしてサラダや味噌汁に利用しても命に変えても良い。

雑草の芽生えを観察してみると、野生種は芽生え時に徒長するほど込み合っていないことがわかる。実は自然界では芽吹く時に土着菌(主にバクテリア)が連絡を取り合い、その空間・時間に最適なタネの成長ホルモンの活性を促す。その場に最適な植物だけが芽吹き、残りは休眠のまま土中内で、出番を待ち続ける。もちろん、野生種にも種子寿命があり、それを迎えると土中生物によって土に還り、植物の養分となる。

微生物たちは磁力を感じ取る磁覚が備わっている。ヒトにはまだ見つかっていないがキツネなど哺乳類の一部にもあることが確認されている。これがヒトにもあれば第六感と認定されるだろう。この磁覚は北極点と南極点の位置が分かるようになるだけではなく、地球がいまチア用のどの辺を回っているのかが分かるようになる。つまり季節の推移をカレンダーに頼る必要がない。確実に暦を感じ取ることができれば、発芽のタイミングを間違えることが減る。その微生物と共生関係を結べばなおさらだ。微生物と長くて深い関係性を育んできた雑草たちは人間の都合では発芽しないのだ。

タネを土中内ではなくそこから切り離して保存したために、土着菌による采配が行われなくなったのかもしれない。そのため栽培種ではすべてのタネが発芽しようとしてしまうために、ヒトの手による間引きが必要となる。間引きしてあげることは彼らのためであり、ヒトのためであり、多様性のためである。そして、タネを土に戻すのは自然農における「畑から極力持ち出さない」という教えでもある。


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