♡5 情熱、華やか
情熱という単語に昔から苦手意識を持っていることを思い出した。
フランベ工程が必要な料理やキャンプファイヤー等いかにも燃えてます、私燃えてます。見てよ!って、自分には持ち得ない力と熱量を目の当たりにすると精神的に疲弊してしまう。
同様の理由で『熱血ドラマ』も苦手だ。日本中を呑み込んだ半沢直樹シリーズのドラマも毎回毎回叫ぶ、社会に吠える、会社に歯向かう……たまにはそんなテーマを扱い世間を鼓舞する必要もあるのは理解できる。だが、登場人物たちが激昂して思いの丈を全力で吐き出すシーンはいつまで経っても慣れることはないし、慣れたくない。
普段ドラマを見ない父がそのシーンを楽しみにを毎週欠かさず見ていて、居間のテレビから流れる叫び声や怒鳴り声に恐怖していた。
他にも、学生時代で離れることのできない「集団行動でやらざるを得ないイベント」も苦痛だった。誰かと一緒じゃないと情熱について語ってはいけないことを証明していると捉えていたのだ。
クラスメイトが青写真を彩るために一所懸命だの団結だのという単語を崇拝し有言実行を目指す中、私はどうしたらこの空間から追放宣言されるか、この土地から出るためにはどうすればいいかを全力で考えていた。
だが受け入れられる情熱もある。
BLUE HARTSの代表曲の1つである『情熱の薔薇』に出てくる情熱は珍しく素直に受け止めることができた。
いや、情熱の概念を理解する前に『情熱の薔薇』が私の中に入ってきたのだ。
驚くことに、『情熱の〜』のフレーズは最後にしか登場しない。
毎年新曲やヒットを出して活動を続けるのも勿論凄いことだが、ワンフレーズを多くの心に彼らの存在を刻みつける事ができるのもある種の才覚だ。
真っ直ぐすぎて恥ずかしくなる歌詞を書いて、披露して、聴衆のあるべき場所にその言葉を注ぐことができる甲本ヒロトという男の熱源を知りたい。
この曲の主役は『情熱の真っ赤な薔薇』だ。
主役は主役らしく最後に登場して颯爽と曲を終わらせ、聴衆の心に種を蒔いて自身も姿を消す。
そして幾時の時間を超え各々の華を咲かせるのだ。
その花が幸を象徴するのか不幸を象徴するのかは誰にもわからない。親元を離れた種子もわからない。その土地の主に全て委ねられているのだ。
私の薔薇は何色に咲くのだろう。
綺麗だといいな。そのために色んな所へ行こう。そしてきれいな空気と汚い空気を平等に吸おう。赤でも青でもない、私にしか出せない唯一無二の色に染め上げて見せましょう。
前回はこちら
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?