5月15日 アヤメ
5月15日 アヤメ 花言葉:気まぐれ
昔からマダム運が強い。親戚もそうだけど、全く知らない人。例えば電車でたまたま隣に座ってたり、ふと入ったシーシャバーで一緒になったり、喫煙所で「ねえ、ライター貸してくれない?」って声かけられたり、それきっかけで2時間くらい一緒にいて話を聞いてもらったりして連絡先もSNSも交換せず解散する。ということが何度かあった。
最初は大学2年。
面白いくらいやる気が出なくて、電車途中で降りてサボるかーって考えていた時だ。
彼女は途中で乗ってきた。薄いピンクのネルシャツにジーパン、登山にでも行くんかってくらい大きなリュックに小さいショルダーバッグを背負ってる。歳は70代はいったくらい(たぶん)。
子育ても一段落して旦那さんも退職した、そんな落ち着いた頃合いだろうなって雰囲気だった。
彼女は本を読んでた私を見つけるとニッコリ笑ってススス…と隣に座った。自然に来るから構えることも不審を覚える時間がなかった。
「これからね、温泉に行くの」いきなり話し始めた。地方マダムあるあるだーと思いながら「いいですねえ。伊香保ですか?」と、返しておしゃべりに切り替える。
温泉の話から家族、子供、親戚と話題は発展する。そして子どもの話でまさかの共通点が見つかり少し盛り上がる。(通ってた病院が一緒だった)
「あら、私次で降りるわ」と唐突に話を切られる。彼女はチラシの裏に書いた駅の乗り換えメモを眺めている。(娘に書いてもらったらしい)いつの間に出した?
「あっという間ですね。温泉楽しんでください」
「ありがとうね。あなたに会えたからいい旅よ」
電車は駅に止まる。おばさんはショルダーバッグにメモをしまい、リュックを背負うと何かを私の手に握らせ足早に降りる。次の瞬間はエスカレーターに乗ってる。60になると瞬間移動できるんだ。と思いながら手を開くとそこには一万円札。
え、え、マダムの旅費奪っちゃった?これ訴えられない?
扉は閉まり、離れた街に向かう。やれやれ。
私はそれを握りしめ、大型書店に行って生まれて初めて村上春樹の本を購入した。
次は社会人になってから。
最初と異なるのは東京で起きたことと、成人してること。
成人してすぐに酒と煙草を解禁した私だが、タバコより先にシーシャにハマった。
社会人になり家を出た私は東京に遊びに行くついでにシーシャバーを開拓することにハマっていた。
SNSで見かけたバーを片っ端からフォロー、リストに入れていたので、その日も高円寺開拓ついでに気になる1つの店に繰り出した。
その店はアングラな高円寺にしては珍しいシンプルな内装だと思ったら棚に並んでいる本のタイトルが魔女や呪術、占いの専門書が多くあり、見かけで判断してはいけないと反省したところである。
そこにいたもう一人のお客さんが次のマダムである。
その人も第一印象は優しい婦人なのだが、その人自信を纏う雰囲気…というか空気感が独特だった。
客は私と彼女しかいないので、自然と話すことになる。
「私、占いしてるの」
高円寺最高だね。
その人とは、シーシャ、酒のつまみ、好きなカクテルなどといった洒落た話に始まり、店内を流れてたBGM(aikoと藤井風)の話に展開した。
話が弾むと時間の流れはあっという間で、いつの間にかクローズ。その足で私たちはカラオケに向かった。
初対面のマダムとカラオケで藤井風を歌ってる。不思議な感覚だ。当時の私は今みたいに堂々と「文章を書いてます!」と言えるはずもなく、当たり障りない話題しか出せなかった。
カラオケのあとはネットカフェまで案内してもらった。解散間際「あなたなら大丈夫よ」とだけ言い雑踏の中に彼女は消えた。
その後何かが劇的に変わった訳ではないが、当時の私は知り合いではない誰かからの「大丈夫」を必要としてたんだなと実感した。
そして今、新たなマダムとの出会いがあった。
会ってから日が浅いが、この人も出会うべき人だったのだと思う。たぶん。
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