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『フジテレビはなぜ凋落したのか』を読み返してみたら…

年末年始、いつもの年のように、にぎやかなテレビ番組が放送されていた。
 
だが、インターネット空間は、いつもの年と少し違った。いつにも増してテレビ局に対するネガティブな意見が数多く書き込まれていたのだ。
 
今、特に猛烈な逆風にさらされているのが、フジテレビである。
 
昨年、大リーグの花形選手に対する報道姿勢や、若手アナウンサーに対する「いじり」の大炎上を経て厳しい眼差しが向けられていたことに加え、組織が絡んだスキャンダル疑惑が報じられたのである(詳細はネットニュースやSNSにあふれているので割愛する)。
 
思うところがあり、2016年発行の『フジテレビはなぜ凋落したのか』(新潮新書)を読み返してみた。
 
過去にフジテレビのプロデューサーを務めていた著者が、フジテレビの歴史や社風の変遷をつづりながら、著書が発行された2016年当時に「凋落」という状況に陥った背景をひもとく1冊である。

タレントも組み込まれる「フジテレビ共同体」とは

著者は、フジテレビの組織を超えた仲間意識の強さを「フジテレビ共同体」という言葉で描写している。共同体の中では、社員、出演者、番組スタッフのボーダーを超えた仲間意識があるといい、スタッフは、番組よりもタレントへの帰属意識が高いとつづられる。
 
タレントと番組担当者が一体感を共有し、「運命共同体」のように長期にわたって仕事を共にすることもあるという。
 
過去には、作り手も演者も共同体に組み込まれ、うまく回っている時期があったのかもしれない。個性ある制作者がいて、その手腕を活かす経営層がいて、権威や建前を壊しながら視聴者の望む番組を世に送り出した時期もあったこともうかがえる。
 
しかし、過去の一時期に「過適応」しすぎたがゆえに、組織の変化が難しかったのではないか、と著者は分析する。
 
著書の中で紹介されていた、女性アナウンサーの一言が印象的だった。
 
80年代、伝説的バラエティ番組「ひょうきん族」をきっかけに、それまでの女子アナ像がドラスティックに変わり、「女子アナ」のタレント化が始まったという。
 
「情報を伝える」から「女子アナを演じる」が求められるようになった80年代、当時「入社2、3年でそこそこ活躍していた女子アナウンサー」はこんなふうに語ったという。

「女子アナって、結局ホステスみたいなものですよ」

『フジテレビはなぜ凋落したのか』52ページ参照

局側は採用した女子社員を「女子アナウンサー」として扱っているつもりでも、「ホステス」のように扱われていると感じていた女性社員がいた。組織から評価されるのは「男性を接待するスキル」だったと気づいたうえでの発言なら、切ない。
 
以後、女性アナウンサーの「タレント化」は他局にも波及する。組織と個人の「アナウンサーとは」の認識のギャップを放置したまま時が流れていったなら、彼女たちを取り巻く環境はいびつにゆがんでいきそう。
 
同著では、フジテレビの黄金期を経て、視聴者が求めているものを作る姿勢から「制作者至上主義」に傾いていったこと、1350億円をかけた1997年の新社屋移転を機に「エリート意識」やプライドが肥大化し、縦割り化が進み、社員同士の交流がよそよそしくなったことなどがつづられている。
 
次第に採用試験で選ばれるのは、組織に歯向かわない、あまり主張しない優等生タイプとなり、番組作りが既存のパターンの組み合わせとなっていく(180ページ参照)。徐々に「尖った個性」が活かしにくい組織になっていったこともうかがえる。
 
著者は最終章で、かつて武器だった、“楽しいムラ社会”的なフジテレビの社風が、今や弱点となることを「マンモスの牙」に例える。

80年代には社会状況と合致していたため、どんどん進化した。しかし時代が変わっても、その進化にストップをかけることができず、内側へと牙は曲がり、他局を圧する「武器」としての有用性は失われてしまった。かつての最大の長所は今や最大の弱点になってしまったのだ

『フジテレビはなぜ凋落したのか』(212ページ参照)

このあたりは、日本の一部のレジェンド企業とも通ずるところがあるかもしれない。

『フジテレビはなぜ凋落したのか』の発行から9年。現在テレビは、一部界隈から「オールドメディア」と揶揄され、その声は激化している。
 
「快」「不快」「おもしろい」「つまらない」がバラバラになった現代、誰だって攻撃されるのは嫌だから、多方面に配慮することで、番組の内容が無難になっていくのは避けられない流れだろう。
 
だが、仮に組織内で誰かを抑圧する構造があるのなら、自らにカメラを向けるべきなのかもしれないし、そうでないのなら、調査のうえ詳らかに説明したほうがネット上の声の鎮静化につながるのかもしれない。


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