『自分以外全員他人』を読みながら加藤諦三のポッドキャストを聴いたら、脳がオーバーヒートした【読書感想文】
太宰治賞を受賞した小説『自分以外全員他人』。
タイトルのままに解釈すると、自分と自分以外の人間に一線を引いて、家族さえも「他人」と断ずる物語のように思えるかもしれない。
しかし、読み進めていくと、その真逆であることが浮かび上がっていく。
主人公は真面目に、まっとうに、人に迷惑をかけずに生活している。
だが、人間関係にも将来にも希望を見出せず、仕事でも私生活でも「喜」「楽」といったポジティブな感情とは無縁の暮らしを送る。一方、人に迷惑をかけている人をみると「怒」「哀」の感情が膨張する。
自分は他人に迷惑をかけていない。そして、自分に迷惑をかける他人を許せない。
つまり、主人公は「自分以外全員他人」と思いながら、「他人に迷惑をかけない」という、他人軸を生きているのだ。
「他人に迷惑をかけること」に異様に敏感で、結局、他人がどこかで作ったルールにがんじがらめになって自滅していくまでのプロセスが生々しく描写されており、鳥肌が立つ。
ちなみに、私は、この本を読みながら、ポッドキャストを聴いていた。ラジオの人生相談の名手、加藤諦三氏のゲスト回である。
この回で加藤氏は「とらわれ」や「不安」といった心のうごきを「劣等感」と断ずる。劣等感があると、本当の自分に気付けず、安全な場所や道を選び、いつまでたっても成長できないという。
目から入ってくる『自分以外全員他人』では、他人に失望して自我にたてこもっていく主人公の様子が描写され、耳から入ってくる音声は「不幸になる人は、自分の意志がない。劣等感で自分の意志に気付けない。自分に忠実に生きよ」と説く。
人生相談と回答を同時再生されているような感覚で、脳がオーバーヒートした。
人は人に迷惑をかけず生きていけない。人と人は関わり合って許し合って生きている……なんて正論は通じない主人公の『自分以外全員他人』がリアルすぎて心が削られたら、悩む人のウィークポイントを否応なしに指摘する加藤諦三氏の『テレフォン人生相談』(ニッポン放送)を聞いてみるといいかもしれない。
【参考】
自分以外全員他人 (単行本 --) 単行本 – 2023/12/1
西村 亨