企業法務部の方に【企業でSNSアカウントを作る際の注意点】
昨今では、企業がSNS上のアカウントを利用し、情報発信ツールとして、広告宣伝などに用いる場合も増えています。SNSならば拡散力も高く、リアルタイムで情報発信ができ、ホームページよりも簡単に記事を作成することができます。
しかし、ホームページ等と異なりSNS特有の注意すべき点も多くあります。今回の記事では、企業の公式アカウントを始める際の、主に企業の法務部門の方に向けた注意点を紹介していきたいと思います。
SNSの特性
SNSアカウントの運用におけるリスクを検討するうえでは、SNSの特性をよく理解しておく必要があります。例えば、以下のような点が挙げられます。
SNSには、Facebook、Instagram、X、LINE、YouTube、TikTok等があり、誰でも容易に発信ができる一方、何気ない発言でも、一瞬で世界中の多くの人の目に触れ、現実社会において大きな影響が生じてしまうことがあります。特に、ネガティブな情報が拡散されてしまった場合、長期間そのような情報がインターネット上に残ってしまい、企業の評判回復が非常に困難になることがあります。
SNSに対する考え方は、世代によっても様々であり、人によって異なります。そのため、企業がSNSを用いる場合、企業イメージやブランドを守るために、統一的な運用方法をしっかりと定めておくことが大切になります。
1.ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの策定
企業としてSNSを利用する際のルールとして企業法務部が作成するべきものとして、ソーシャルメディア(SNS)ポリシー・ガイドラインの策定があります。従業員個人がSNSを私的に利用する場面に適用されるポリシーも必要ですが、企業の公式アカウントを運用する場合に適用されるポリシーについても整理しておく必要があるでしょう。
実際に運用する担当者によって、投稿内容がまちまちになってしまっては、企業としての信頼感が損なわれ、炎上のリスクも高まってしまいます。そのため、どのようなルールで投稿を行っていくかについて、一定のルールを定めて運用担当者に遵守してもらうことが重要になります。以下、注意すべき点を挙げていきます。
(1) アカウントにアクセスできる機器の限定
まず、投稿ミスを防ぐために、公式アカウントにアクセスできる機器を限定すべきです。公式アカウントと個人アカウントいずれにもアクセスできる機器があると、誤って個人的な投稿を公式アカウントでしてしまうおそれがあります。
(2) 複数人でのチェック体制
また、SNSは様々な価値観、考えを有するものが利用していますので、担当者一人が問題ないと判断しても、他人から見ればそうではないおそれがあります。そこで、複数人で投稿日時、投稿内容をチェックできる体制を構築すべきです。特に、政治的問題や意見の対立のあるトピックについては、反感を買うおそれがありますので、基本的には避けるべきです。
(3) フォローやいいねのポリシー設定
X等では、フォローやいいね機能があります。しかし、公式アカウントでむやみにフォローしたりいいねしたりすると、企業としての信頼感が失われ、偏った私的アカウントのような状態になってしまいます。そのため、全体として、フォローやいいねをする場合を限定しておくべきです。フォローはグループ会社だけであったり、関連企業だけであったりする例があります。
(4) 緊急時のルール
事前のルールを定めていても、トラブルが起こってしまうことはよくあります。そのような場合に備えて、緊急時のルールを定めておくことで、余裕をもって対応できるので、簡易的でも緊急時の対応ルールを定めておきましょう。
例として、誤った投稿をしてしまった場合と炎上した場合を考えてみます。誤投稿の場合、間違いは速やかに訂正するのが基本ですが、すでに拡散してしまっている場合、削除してそのままにしておくことで炎上に繋がる危険もあります。削除や非表示措置を取ったとしても、その上で会社に報告し対応方針・方法についての判断を仰ぐなど、削除するだけという対応策にしないよう定めておきましょう。
炎上してしまった場合、迅速な対応が求められる反面、稚拙な対応は火に油を注ぐことになります。そのため、まずは会社に、把握できている炎上原因となった投稿、炎上の理由、現状などを報告するというルールを定めることが考えられます。ただし、就業時間外に炎上が発生することも考えられますので、緊急の連絡先も設けておくべきでしょう。
(5) 情報管理
当然のことではありますが、このほかに、パスワードの管理も厳しくしなければなりません。安易なパスワードにしたり、外へ持ち出す端末にパスワードを保存しておいたりすると、簡単に乗っ取りが可能となってしまいます。また、担当者が変更されても同じパスワードを使い続けると、退職後に公式アカウントを利用した投稿がされてしまうおそれもあります。
2.公式アカウント運用ポリシーの公表
外部向けに企業がSNSアカウントについてどのような運用ルールを用いているかを明らかにするものです。
SNSアカウントを運営する目的、基本方針、運用方法、知的財産権、免責事項、公式ソーシャルメディア一覧などを記載することが多いですが、決まっているものではないので、企業によってさまざまです。
これは単に透明性を高めるためだけでなく、企業のブランドイメージを守り、リスクを管理するための戦略的な手段ともいえます。公式アカウントの運用ポリシーを通じて、企業は、SNSでの振る舞いや価値観、目指すコミュニケーションの質と方針を示すことができます。これにより、フォロワーや顧客に対して企業がどのような基準で情報を共有し、エンゲージメントを図るかが透明化されます。
公式アカウントが発信した内容が常に正しいという保障はありませんが、他者から正しいという前提で使用されることはあります。その場合、内容に誤りがあった場合のための免責事項などが考えられます。運用ポリシーがリスクの予防と軽減に役立ち、万が一の炎上や不祥事発生時の対応策にもつながることがあります。
また、公式アカウントになりすましたアカウントをきちんと区別できるようにするために、どれが公式アカウントなのかを明確にする意味もあります。
3.必要なトレーニング
企業法務部では、SNS運営に当たって関わる部署の協力やコンセンサスを仰ぎ、現場の事情を汲み取ったうえで、実際に存在意義のあるSNSガイドラインを策定し、自らがそれを理解するとともに、現場に浸透させていくことが求められます。
そのため、SNS投稿の際に生じやすい法的問題、トラブル発生時の法的対応(発信者情報開示請求、なりすまし事案等の把握)についても知識を持っておくべきであり、研修や勉強会等を通じて、必要なトレーニングを欠かさないようにしておきましょう。
具体的な法令としては、著作権法、肖像権、商標法、景品表示法、不正競争防止法、特定商取引法、個人情報保護法などについて、どういった場合にSNS利用の問題が生じるかを知っておくべきです。
特に、著作権に関する知識がないと、安易にインターネットの写真を利用したりしてトラブルになることがあります。ライセンスを得たものを使用するようにしなければなりません。
また、公式Xへの投稿に要した時間が勤務時間外であることを知っていながら、これを止めることがなければ、黙示の指示があったことになり、労働時間に該当することになる可能性もあります。この結果、労働中の安全配慮義務なども生じてくることになります。
このような労務管理上のリスクを回避するためにも、あらかじめ、投稿のルールを定め、徹底しておくことが肝要です。近時は、長時間労働に対する世間の目が非常に厳しくなっています。そのため、公式アカウント上の投稿が深夜や休日に頻繁に行われれば、企業の労働時間管理体制への疑念・批判を生じさせかねず、レピュテーションリスクにもつながるので、この観点からも、投稿のルール設定と遵守は一層重要となります。
4.法務部門によるモニタリング
企業法務部では、SNS公式アカウントを定期的に確認し、SNSポリシーに沿った運用がされているかをモニタリングします。不適切なコンテンツやリスクを早期に洗い出すための体制を構築することが必要になります。法令の改正も都度ありますので、定期的にポリシーやガイドラインを見直し、更新することも必要になります。
また、企業法務部では、炎上リスクの管理や危機対応計画など、広報活動に関連する潜在的なリスクを特定し、これらのリスクを管理するための戦略を策定します。同時に、運用担当者やその他の関連部署への法的トレーニングや支援を提供し、ポリシー遵守のための意識と能力を高めます。
企業としてポリシーを定め、企業法務部がこれをモニタリングする体制を整備することは、企業が社外に発信するメッセージの一貫性を保つとともに、法的リスクを最小限のものとし、企業の評判とブランドイメージを守るための重要なステップになります。
5.さいごに
SNSで企業アカウントを作り、広活動に利用することは簡便ですが、その分、社会的信用を失うなどのリスクも伴うものです。
上手にSNSを利用していくためにも、危機管理をきちんと会社全体で行っていくことが重要でしょう。