【たくみver.】バリスタチャンピオンシップに挑戦する理由
(この記事は妻である田中たくみバリスタが執筆しました。)
私はトレンドメーカーになりたい。
何のこっちゃということですが、コーヒーにもトレンドがあります。とりわけスペシャルティコーヒーに携わると、この「コーヒーのトレンド」は避けて通ることができません。それどころか私たちはずっと追いかけているところです。
でも、いつか追いかけるよりも先を走ってみたい。
コーヒーのトレンドって何処からくるのか。
それは、バリスタチャンピオンシップと言っても過言では無いと思います。
競技会では、通常のお店では提供されていない様なコーヒー体験が繰り広げられていますが、そこで生まれたイノベーションは近い未来に通常のお店で体験できるようになります。
分かり易い身近な例を挙げると、スパークコーヒーにもあるEK43というグラインダー。今では仙台のお店でもこぞって採用していますよね。このグラインダーの人気に火をつけたのは、ワールドバリスタチャンピオンシップ(以下WBCと略)2013年の準優勝 Matt Perger 氏(何がイノベーティブだったかは、YouTube を是非ご覧ください(私でよければ解説します)。
当時通っていた某コーヒースタンドのお兄さん達が、ライブストリーミングに釘付けになり、その後直ぐにフィルター用のグラインダーを使ってエスプレッソを抽出し、ペーパーフィルターで濾していました(変態レベルだと認識しました)。
彼らがトレンド誕生の瞬間を見逃さず、追いかけるあの光景が忘れられません。
(その後、某コーヒースタンドは閉店し、そこにいたお兄さん達はそれぞれ独立して皆それぞれの事業にてEK43を所有しています。)
私は、WBCの影響力の凄さを目の当たりにしました(今も40〜50万円位のグラインダーが世界中で売れている。毎年30万個のコニカル刃を製造しているが品薄になることは稀でない)。これ、凄すぎませんか。
勿論、トレンドはグラインダーだけじゃない
2013年のバリスタチャンピオンシップの準優勝者が火をつけたEK 43グラインダー人気は、正にバリスタチャンピオンシップはトレンドが生まれるんだと象徴する様な出来事だったし、実際に「うわ!火が点いてます」という人達(変態)を私は目の当たりにしました。
ですが、トップに位置するバリスタが使う機器ばかりが注目されるわけではありません。大事なのはエスプレッソの味わいとプレゼンテーションの相関性です(スコアを獲るためにも)。
実際に、競技でのトップバリスタ達は味のディスクリプションやその味がどの過程で出てきたのかをプレゼンテーションで細かく描写しています。
コーヒーの味わいにもトレンドがあり、その味わいに相関するコーヒーの生産・精選から焙煎、抽出までの過程にもトレンドがあります。
実際にその味わいを体験できるのは、ジャッジだけかもしれませんが、トレンドを読み解くヒントは世界中のトップバリスタのプレゼンテーションにあります(なので、是非YouTubeでチェックしてみてください)。
トレンドは、必ず体験できる日が来る。
でも、リアルタイムで追いかけた方が楽しい。
去年の4月にマサチューセッツ州ボストンへ、WBCを観に行きました。YouTubeでは知り得ない情報があるかもしれないし、二次情報より自分で得る一次情報の方が大きい価値があると思ったから現地へ行きました。
結果としては、確かに一次情報の量は多く、しかしそれらは当然英語なのでいろんな意味で情報量に圧倒され、それらを解釈するのに帰国してからも暫くの時間を要しました。
また、情報だけではありません。現地では世界大会で実際に使用されたコーヒーと同等のコーヒーをいくつか買う事ができました。
帰国後、それらのコーヒーとトップバリスタ達のプレゼンテーションから得た情報とをコーヒーの味わいと共に仲間達とシェアしました。
このボストンで行われたWBCでトップバリスタ達が発信したトレンドは、その数ヶ月後に日本のトップバリスタ達によってトレースされ各々が発信していました。WBCで上位入賞したコーヒーとほぼ同等のものを使う方も既にいたので、大手さんのスピード感には敵わないなと思いました。
そして、自分の予選はどうだったのか
予選通過なりませんでした。
私もトレンドを分析し、コーヒーのプロセスに由来する甘さやボディをエスプレッソに表現することを目指してハニープロセスのコーヒーを選びました。
しかし、私の実力が及ばず予選通過し本戦に進むことはできませんでした。
修正点がいくつか挙げられますが、一番表現したかった甘さとボディはもっと焙煎時間を長くすること等で伸ばすことができそうです(伸びしろしかないですね!)。
予選通過できませんでしたが、フィンカマプート(エクアドル )は本当に素晴らしいコーヒー生産者です。ティピカ ハニープロセスは新鮮なストロベリーやトロピカルフルーツの印象が魅力的なコーヒーです。彼らフィンカマプートもまたトレンドを作っている側の人達です。今もさらに素晴らしいコーヒーを育て、新しいプロセスを試しています。近い将来もっともっと有名な農園になるに違いないです。
トレンドメーカーに及ばずとも
トレンドを追いかけているから、それに近いコーヒー体験をスパークコーヒーで楽しんでいただけます。
私はジャパンバリスタチャンピオンシップ(以下、JBCと略)に3回挑戦して3回とも予選通過できませんでした。でも、順位は上がっています(そう、伸びしろなんですね!)。
そして、去年からは夫である焙煎人も競技者として参戦しました。初挑戦の夫の順位の方が上でした。それも100人位出て半分よりは上です。スパークコーヒーで、トレンド感のあるコーヒー体験を、今年は更に近いところを体験できるはずです。
スパークコーヒーで働いている人100%競技者。
そんなバカみたいなコーヒー屋さんは他にありません。去年は公開のプレゼンテーションをお店の閉店後に7回実施しました。ご協力いただく客さまにはジャッジテーブルに座っていただき、エスプレッソも楽しんでいただける機会です。
今年はそれを10回やろうと思います。勿論、競技者二人分。今年も是非その機会を楽しみにご協力いただきたいです。
私達は皆さんに楽しんでもらえる様に努力します!
最後に
トレンドメーカーになる方法はバリスタチャンピオンシップだけじゃないのに、どうしてこんな途方もない挑戦を始めてしまったのか。
きっかけは、2016年のWBC準優勝者の岩瀬良和氏のセミナーが仙台で開催されたことです。
彼は福岡という地方都市で起業し、日本のチャンピオンになりました。
セミナーの中での岩瀬氏の言葉が私の頭をガツンと直撃しました。
「福岡の方が東京予選の会場まで遠いのに、東京により近い仙台からの挑戦者がいないのは何故か」という様なことを仰っていたと思います。
このJBCに仙台から(宮城から)挑戦し本戦に進んだバリスタは未だいない。
岩瀬氏は、1ポンド180$のコーヒーをWBCで使用しました。100g だと¥5,000位です。
単純に悔しかったです(私は単純だ)。仙台でもハイエンドなコーヒー体験を自分の手でお客さんに届けたいなって思いました。
私は2015年10月にスパークコーヒーを夫と共に起業し、自分もエスプレッソを抽出する様になりました。焙煎人であり、バリスタのキャリアも積んだ夫がいることでお客さんの信用もオープンして直ぐに得ることができました。お客さんがいつも褒めてくれる。それはとても良いことだけど、それだけで満足しそうな自分に不安がありました。
以上が、私の2017年の初JBC予選挑戦に至った経緯です(単純に「福岡の方が・・・」に触発された感は否めません)。
10分の制限時間内に、2,500文字くらいの言葉を暗記して話しながらエスプレッソ4杯とミルクビバレッジを4杯作成提供するのは難しいことです。営業の前後で練習しています。週に60時間以上働いてプラス練習です(安心してください、オーナー自らやっているので違法ではありません)。本当にバカだなと改めて思いました。
デメリットを挙げればキリはありませんが、それを辞める理由にしたら言い訳にしかなりません。成功するまではトライ&エラーの繰り返しです。
トレンドメーカーに私はなる!
※岩瀬氏の2016年(ダブリン)のプレゼンテーションですがYouTubeで観ることができます。英語ですが良い声で聞き取りやすく、とても華麗なプレゼンテーションです。エスプレッソにおけるブレンドを「インターウィービングコーヒー」として再構築するみたいな感じです(随分ざっくりな説明ですので、是非観てください!)