ルーブル美術館への出展も果たした会社員兼アーティスト。これから目指す世界とは?/スペースマーケットGuest Story
芸術の都・パリを代表する美術館、ルーブル。パリのみならず、世界的な人気を誇る美術館に、ひとつの書道アートが出展された。その作品を作ったアーティストは、なんと普段は会社員。
平日は会社員、休日は書道アーティスト。今回のゲストは、「二足の草鞋」生活でさまざまなクリエイションを起こし続ける萩原純平さんです。
書道アートを始めた理由、作品作りや個展、空間へのこだわり、そして会社員兼アーティストとしての今後の目標とは…?
受験のリベンジで始めた書道アート、SNSやインスピレーション企画を展開
ーー書道を始められたきっかけは?
書道は我流なんです。両親ともに段を持つくらい達筆で、その字を真似して書いていたので、小さい頃から字が綺麗だねと褒めてもらえることは多かったです。
書道アーティストとしての活動を始めたのは大学生の時です。同志社大学に通っていたんですが、実は僕、第一志望の大学に落ちちゃったんですよ。なので大学では「面白い人が居たな」と思われる存在になって卒業する!と決めていました。受験の悔しさを、大学生活でリベンジしたかったんですね。
自分の時間に余裕ができはじめて「やりたいことにコミットしよう」と思うようになったのが大学2年生の時。自分にしかできないことは無いかと考えて思い浮かんだのが、幼少期に「字」を褒められたという成功体験でした。 ボールペンだとインパクトがないし、筆でやってよう、と思い立って始めたのが書道アートです。
「プロと名乗っていい」 先輩からの一言が大きな転機に
ーー活動を続けられた背景などはありますか?
書道アートをすると決め、まずは当時流行っていたmixiを活用して「携帯待受を僕の字でジャックします」という企画をやりました。その方の好きな漢字や座右の銘を筆で書き、待ち受けサイズにして無料配布したんです。
後輩に「僕は携帯の待ち受けをコロコロ変える方なんですけど、こんなに長く待ち受け画面を維持したのは純平さんの作品が初めてです」と言われたのは、今でも印象に残ってますね。
待受ジャック以外にも、その場でその時の気持ちや、悩みなどを聞き、その人に向けた言葉を即興で書く「インスピレーションの書き下ろし」もしていました。
そんな中、とある先輩に「個展やらないの?作品にお金をもらっているんだし、プロと名乗っていいよ。」と言われたんです。この言葉が大きな転機となりました。
当時は1人1,000円もらって作品を作っていたんですけど、実績もなく自己肯定感も低くて、展示なんて僕には…と思っていました。でも、先輩からの「プロと名乗っていい」という言葉で、一気にハードルが下がりました。
そして、大学3年生の時に京都の丸太町のカフェで初めての展示をして。卒業前には「アートエキスポ」も主催しました。普通の大学に通いながら自分で表現活動をしている人たちを集めた合同展です。美大出身でなくとも、こんなに素敵な表現活動をしている人たちがいるということをお祭り感覚で伝えたかったんです。
自分の作品を展示する。プロの書道アーティストとして踏み出したきっかけでした。
空間や演出にもこだわり抜いた個展、「累 -kasane- 」をスタート
ーー社会人になっても継続して個展を開催されていますよね。
そうですね。東京で初めて開催したのが2017年、中目黒のギャラリーで。ネイリスト、彫刻、テンペラ、絵本作家、イラストレーターなどのアーティスト達との合同展でした。
翌年に開催したのが「累 -kasane-」というエキシビジョンです。
中目黒での展示の後に、少し物足りなさを感じたんですよ。同じ空間で、それぞれのジャンル別に作品を展示していただけだな、同じ空間なんだからもっとミックスされてもいいのでは、と。
「累」という字には「縛られて離れられないもの」という意味があります。それぞれに独立したカテゴリーを「くっついているのが普通」という新しい価値観として訴求すると面白いのでは?と思い「累 -kasane-」と名付けました。
書道と何をくっつけるか考えた時に、「写真」なら直書きも合成もできていろんな表現方法ができるなと思い、5名のフォトグラファーに声をかけ「書道×写真」の作品を展示しました。他のアート展との差別化もしたかったので、五感を刺激する個展って無いな、じゃあ香りも取り入れよう、と調香師にも声をかけました。
3日間、1日で300人くらい来てくださいましたね。この「累 -kasane-」を最初に開催したのが日本橋のスペース。参加したフォトグラファーの1人がスペースマーケットで見つけてくれたんです。
「累 -kasane-」を開催した日本橋のギャラリースペース
探しやすさもそうなんですけど、コスパがいいところが多くて。レビューもとても頼りになるんですよね。駅から近くてそれなりに広さもある、バックヤードや冷蔵庫もあってライトも調節できる、という場所を見つけて、空間も白がベースだったのでそこに決めました。
ーー個展のスペースは「白」を重要視されているんですか?
僕は重要視してますね。凝ったインテリアや奇抜な色も素敵だなと思いますが、白は拡張色なので、入った瞬間に部屋が大きく見えるんです。日常に真っ白な空間はあまり無いので、非日常的な体験もできる。白の方が自分たち色に染めやすいですし、ノイズがない。展示場所として利用するには、いいことしかないんですよね。
書道家の人が「ここでやりたい」と思うギャラリーと、自分が思う空間は全然違うと思います。写真や絵にインスピレーションを受けるから、そういうものが飾られているところに自分の作品を置きたいという気持ちになりますね。
「ヒット作と驚きを生み出したい」 会社員兼書道アーティスト、これからの挑戦
ーー「累 -kasane-」が定着してファンも増えていると思いますが、今後の目標などはありますか?
今の悩みは「ヒット作がない」こと。書道やってる人、ルーブルに出展した人というイメージは持っていただいてますが、どんな字を書いているのか、どんな作品を展示したのかまで落とし込めていないんです。そこまでの代表的なヒット作をまだ作れていないんですよね。
今年から、Instagramで「ひらがなリフレクション」という企画を始めています。上下もしくは左右に反転させて、字ではなくグラフィティとして見る作品。見方を変えるだけで新しいものが見える。普段見ている景色に疑問を持つことが裏テーマになっています。毎日1作品ずつ投稿していて、結構手応えを感じているんです。これがヒット作になると嬉しいですね。
コラボでいうと「書道×メイクアップ」を企画中です。すっぴん状態の字に、化粧を施してもらう。メイクアップアーティストさんによって表現方法って全然違うと思うんです。字にメイクをするという考えも斬新だと思うので、こちらも早く形にしたいです。
ヒット作を作ること、まだ誰もやったことのない世の中にインパクトを与えられる企画を作ること。これが今の2軸です。
ーー自身の活動や作品を通して人にどんな影響を与えたいと思いますか?
繊細とか力強さとか新しさ、そういう感想もとても嬉しいです。ただ、絶句状態になるほどの衝撃やインパクトを与えたいとも思いますね。そして、それを会社員兼アーティストがやっていることを知って欲しいです。本業のアーティストじゃなくても、人に感動や衝撃を与えられるということを伝えたいですね。
アートや表現活動をやりたい気持ちはある、でもどうやっていいかわからないという人の手助けや参考になれば嬉しいなと思います。
会社員なので、アートに向き合う時間やセンスを磨く時間はどうしても限られます。だからこその時間の使い方ややり方がある。会社員でもできるんだ、やってみようかな、と思う人が1人でも増えたら、会社員兼アーティスト冥利につきますね。