内容を知らずに読んだ小説
何年か前、妊娠中の友人から、「この本あげる」と文庫本を手渡されました。
小川洋子さんの『妊娠カレンダー』でした。
なんでくれるの?と聞くと、友人は大きなお腹をさすりながら「タイトルに惹かれて買ったけど、なんか、思ってた内容と違った」と言いました。
帰宅して早速読んで、思いました。
そりゃ思ってたのと違うだろうな。
友人は、高校生の頃から赤ちゃん欲しいと言っていて、結婚後なかなか妊娠できずにいたけどようやく授かり、それが嬉しくて、日々大きくなるお腹を毎日自撮りしていました。
きっとこの『妊娠カレンダー』は、『たまごくらぶ』なんかを買いに寄った本屋でたまたま見かけ、そのタイトルになぜか嬉しくなり、中身も見ずに買ったのでしょう。
私は、本を手にした時の友人の様子がリアルに想像できました。
妊娠中の日々の様子を、ワクワクドタバタしながら描くハートウォーミングストーリーを想像して、「自分とおんなじー」と共感したくて買ったんだろうな。
当時、友人から聞かされる話は、はじめての妊娠にまつわるワクワク話やドジ話ばかりでした。
「なぜか、おならが止まらない」
「産科で検査中、大きめのおならが出た。看護師さんは聞こえないふりしてたけど絶対聞こえてた」
「お気に入りの定食屋で会計してる時に、クシャミしたら同時におならも出た。2度とあの店行けない。でも結局行った」
そんなやつが読むような話では全然なかった。
私も内容を知らずに読んだので驚きました。
私の読後の感想はこうでした。
「私の友達にこんなもん読ませて、作者ひどい」
完全な言いがかりです。でも、そう思わずにいられませんでした。
あれから何年も経って、もう一度、『妊娠カレンダー』を読んでみました。
当然のように面白かったです。
ていうか、よく見たら(よく見なくても)裏表紙にはしっかり内容書かれてるし。
買う時ここ読まなかったのか。とんだ不注意な友人です。もちろん私も。