「ベートーベンの“運命”と“冬のソナタ”がリンクする?」
長男が中学二年生のとき、中学校の授業参観があったのだが、音楽の授業を参観した。
音楽の先生は、長男が一年生の時の担任だったので気兼ねなく見る事ができた。
この日は、ベートーベン作曲の交響曲第5番「運命」についての授業だ。
まず出だしの一番有名な「ジャジャジャジャ~ン♪」から始まる第1楽章を途中までCDで流してくれた。
そしてこの曲の形式と構成の簡単な説明を。
この第1楽章は、音楽用語で言う“ソナタ”形式になっているそうだ。
“ソナタ形式”とは、提示部・展開部・再現部・結尾部の4つで構成されているそうである。
そこで、おもむろに先生が取り出した一枚の写真。
そこには私もよく知っているあるCDジャケットのコピーが!
韓国ドラマ『冬のソナタ』のサントラCDの、主人公二人の寄り添う写真。
(おお~!先生ももしや、持ってるの?)
その写真を黒板に貼り付ける。
「はい!これは誰だか知っていますか?」
「・・・・・・・・」
ええ、まあ…知っていても簡単には答えてくれない、天の邪鬼真っ最中の中学生。
それは長男も同じね。
「『冬のソナタ』というドラマの主人公ですが、このドラマのことを簡単に説明すると…このふたりがまず出会って恋人同士になるのですが、ある日事故で男性が死んでしまいます。で、何年かたって、いろいろあって似た人物と出会います。
そして、またいろいろあって、ふたりは再会するのです。ですが、またまたいろいろあって、最後はハッピーエンドになるのかな?…というドラマなのですが」
うわあ…相当はしょってるな~。でも音楽の授業だから仕方ないか。
「で~…この『冬のソナタ』も“ソナタ”というだけあって、そういう形式にあてはめられるんです。
最初の出会いの部分が提示部ですね。そして、いろいろあって似た人と出会ったところが展開部、そして最初のふたりが再会するところが再現部、で、終わりに近づいていくところが結尾部。
(う~ん。まさに“運命なふたり”よね~…)
さて『運命』ですが、最初の出だしの曲調はなんか大きな音でインパクトがあるでしょう?
では最初からまた途中まで聴いてみましょう。よく聴いていてね。途中から感じが変わるところがありますから」
と言って、またCDをかけた。
「さ、途中変わったよね?どんな風に変わったかわかる人いますか?」と質問。
女の子がふたりほど手を挙げる。
「やさしい感じ」「ゆっくりしてます」という答え。
「じゃあ、またかけてみるね。さっきよりもう少し長めにかけます。またまたその先も曲の感じが変わります。よく聴いていて。」
♪ ~~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪ ~~~ ♪ ~~
「は~い、わかったでしょ?どんな感じ?じゃ次は2番目の列の男の子ね」
なかなか言葉が出てこない男の子たち。
いったい何を聞いていたんだよぅ。簡単じゃん!
一人一人当てられていくけど、本当によく聴いてないのか、素直に答えたくないのか、「わかりません」とか「ええ~っと…」と後ろの生徒に助けを求める奴もいたり。
お!長男の番だ。
「力強い感じがします」という正統派の答え。
普通だけどちゃんと答えてくれたのでほっとした~。
「最初のジャジャジャジャ~ンという部分、音符にするとこうなりますが(黒板に八分音符を書き連ねる先生)…タタタというこの三連音符が何度も出てきたの、気づいたかな?」
と言って、また曲をかける。
聴きながら「はい、ここね。ここ。…ここも…」
「ね?わかった?ずっとこの三連音符が続きます」
「この一つの同じモチーフを何度も使って、この曲は構成されています。で、同じモチーフを使いながら、提示部・展開部・再現部・結尾部を力強い部分と優しい部分とで交互に表現していて、これがソナタ形式ですね」
はあ~…なるほどね~。
『冬のソナタ』を出してきてくれたので、とってもわかりやすかったわ~。
と、私が生徒なら拍手してあげたかったくらいである。
私の現役の頃も、こんな風に授業をやってくれたらすごくわかりやすかっただろうにね。
それなのに、肝心の生徒たちときたら、のれんに腕押し状態で、わかったのやらわからなかったのやら。
おまけに、じっとしてない男の子に、うんともすんとも言わない生徒、表情が全く読み取れない女の子…。
先生もホント、大変だあ。
昔の授業風景とは全く違う生徒たちへのギャップに戸惑いと微かな怒りを感じながらも、先生の工夫されたわかりやすい授業内容に感心した参観だった。
おかげで、知らなかったことを大人になってからも学べたことにわくわくする。
先生、ありがとう!
“知る”“学ぶ”ということが、こんなにも楽しく嬉しいなんて現役の生徒たちにはまだまだ実感できないのだろうなあ…。