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「誰の身にもいずれ来る問題に善と悪をからませる~『ロスト・ケア』~」
『ロスト・ケア』 葉真中顕 著 (光文社) 2013.5読了
前記事ががん予防に貢献する物語となって話題になりましたが、今回取り上げる作品は現代の社会問題である、介護問題に焦点を当てています。
介護する人と介護される人、介護を助けてくれる人、その中で生じた問題が転じて犯罪になったときそれを取り締まる人、裁く人、介護を金儲けにする人。
善と悪が入り乱れての複雑な社会構図が人間の尊厳とは何か?と問いただし、改めて人間が生きることの意味、またどう生きるかの本質を考えさせられます。
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ある家族の実情はあまりに悲惨でした。
認知症を患い寝たきりになった老人を介護する家族。
どんなに誠意をもって介護し寄り添っても、その気持ちも甲斐なく、罵倒と暴力となってかえってくるのです。
家族の体と心の疲弊が頂点に達してしまうその時に、事件は起きてしまいました…。
故意に命を奪われた被介護者とその家族にとって、“彼”は果たして救い主だったのでしょうか?
だとしたら、その“行為”は許されていいのでしょうか?
取り締まる法の番人はそれをどう受け止めるのでしょうか?
もちろん、現在の日本ではその行為は殺人に値します。
でもそのことよりももっと考えさせられる事柄ばかりで、わかっているのに目をそらし続けている事ばかりで、とても不安な心理に陥らされる物語です。
殺人を犯していた人物がわかった時点で、かなり衝撃を受けました。
真の善意と偽善の境があいまいで、法律も事件の真相がえぐり出されるたびにてこずってしまいます。
裁判員裁判制度が行使されて久しいですが、自分が選定された場合、このような事件に出会ってしまったとき果たしてどれくらい向き合えるか、そして間違いのない判断がつけるでしょうか?
難しい問題が私たちに突き付けられます。
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。