「どこにでもある商店街で繰り広げられる日常・非日常~『エレジーは流れない』~」
2021.9.30読了
三浦しをん 著 (双葉社)
とある温泉のある町の商店街に住む高校生の主人公は、あまり繁盛しているとは言えない土産物屋を営む母親と二人で暮らしています。
彼にはしかし、もう一人母親と呼べる人物がいて、その母親が住む高台の豪華な邸宅に月の第三週目に寝泊まりするという習慣を、幼い時から特に疑問も持たずに続けていました。
でも周りの身近な友人たちを見ているうちに、それが普通でないことがしだいにわかってきたのですが、あえてなぜそのような境遇に自分がいるのかを尋ねることをしてこなかったのです。
それでも彼の穏やかとも言える日々は、顔も知らなかった父親の突然の出現によって、近所の商店街のみんなを巻き込む、ちょっとした騒動となるのですが____。
気のいい仲間にも見守られながら、いくつかの突然の刺激的な事件をどこか楽しんでいるようにも思える主人公。
普通じゃない家族関係も、そんなものかな、と受け入れます。
それは商店街でBGMとして流れる、能天気な地元ソングにも通じる切ない部分も、この町ではいつのまにかおかしみを帯びて変換され、ずっとこの町で楽しく暮らせると信じられるのです。
どこにでもあるような、普通の市井の人々の普通の営みが、ゆったりと描かれています。
実の父親がふいに現れたときに、ある理由で商店街のみんなで主人公を守ってくれるのは、小さい街ならでは。
人情豊かな雰囲気は、彼がこの街を愛するゆえんであり、ときおり訪れる小さな事件もどこか笑って受け入れられるのかも。
私個人の感想としては、過去記事でも取り上げた同じ三浦しをん著の『愛なき世界』ほどの読みごたえを感じませんでした。
事件も起こるのですが、どちらかというと全体的なのんびりした感じが常にあふれているので、その空気が最後まで続いた感じでしょうか。
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